神様のココロ
「ここです!」
ここに、今。
私に助けを求めている少女がいる。
神様の力のひとつ、予知で。少女の姿が見えた。
あ、目が合った。
私は目を伏せる。彼女の目を。
ーーー私は、見れない。
『私が。』
私が神様になったら、もっとうまくやる。
もっとたくさんの人を救う事ができる、って信じていた。
私の知っている神様は。私より不器用だったから。
頭の中に、声が響く。
「この人間たち全部を救うんですか?」
彼の、現のパートナーの声が聞こえる。
彼の目の前には、人間がひしめいていた。人間の群れ。
「彼女を、探して。」
ここで救うのは彼女だけ。
彼女だけしか、救えない。
こんな風に神様に制限がある事を、私は知らなかった。
私が、神様になる前まで、神様は望んだ全ての願いが叶えられると思っていた
だけど、実際は。本当は、
神にした祈り、望みは「全て」叶わない。
それは、神様の力には制限があるから。
神様にはそれぞれ固定された役目がある。
豊穣の神なら、豊穣を司り。
海の神なら、海を司り。
死の神なら、死を司り。
私の場合は・・・・
前任の神様の声が聞こえる。
ーーーー人間の世界に入り込みすぎてはならない。
人間を好きになってしまうから、そして人を愛してしまうから。
愛してしまえば、神の力を使ってしまうから。
それこそ、際限なく。
ーーーーーーーそして、悲劇は起こる。
私が、神様になるきっかけとなったあの事件。
思い出して、胸が痛くなる。
ーーーーー大丈夫。繰り返さないから。
教わった事を頭の中で反芻する。
神様が関わる事ができるのは、「神の力が介入する事」を前提に起こっている事件。
最初から人の力だけでは及ばない事件がその対象。
例えば、別の神が関わっている事や、その人自身の強い祈りでその権利を得る。
だから、神様が個人で介入する予定のない出来事に、私は介入できない。
それを、どんなに望んだとしても。
これを変える事が出来るのは、人の子だけだ。
神の力を持つ、神様たる私に、その資格はないから。
神の力の使用は、反則技に近い行為だから。
これが、神様の限界。許された領域。知らなかった。
神様の力は万能だと思っていた。
でも実際は、元ある運命に戻すだけ。
「・・・・・・行きましょう!」
人ならざる力をもったその代償。
あまりにも大きな、力。
これから起こる事はなんとなく知っている。
私は、神様だから。
でも、選ぶのは彼女自身。
私は少し手を貸すことしか出来ない。
だから、だからーーーーーーーーーーーー
目の前に、知らないおじさんが立ち塞がった。
んぬぁ!?
こんなおじさん、神様の力で予知した未来にいなかったぞ!どういう事だ!
「ちょっと待て!キミ、チケットは持ってるの?」
「・・・・チケット?持ってないです!」
だから、何だ!
「・・・あ、ああ。そうなんだ・・・・ごめんねー、ここはチケットが無いと入れないんだ・・すぐに出て行ってもらえるかな?」
従業員は私に懇切丁寧にここのクラブの仕組みについて説明する。
要するになんと?
ここには特別な人しか入れないと?
「何故だ!私は神様だぞ!!」
私は、我慢できずに叫んだ。
「・・・・・・・」
何だ、その目は。
心底残念な物を見るような目で見られているぞ、私。
何故だ!?
遅れてきたパートナーが私と従業員を見て、状況を把握したらしい。
そして、耳元で囁いた。
「・・・・・・寝言は寝て言え!このドアホっ!」
ホワイッ!?