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第10話~絶望と希望~

遅くなり申し訳ない

笑みを浮かべながら、リュウヤは信じられない様子の一同を見下ろしている。


「馬鹿な……」


「全然見えなかったよ……」


エリザ、アニスからそんな言葉が漏れる。


「別に大した速度は出しちゃいねーよ。単に死角を突いただけだ。攻撃に対し防御するのはまぁいい。だが視界を覆い隠すほどの魔法を使ったんならその後の対処は頭に入れておくべきだろう? 俺達は何も一対一(サシ)で殺り合ってる訳じゃないんだからな。一から鍛え直したらどうだ? 小娘ども」


圧倒的強者故の余裕。

()りとて、ダメ出しを受けた側からすれば馬鹿にされたとしか思えない発言。

ただそれに対し反論を示すものはいなかった。

リュウヤの言葉が事実であったから。

彼女達は総隊長バルトスの鉄壁の防御に絶対の信頼を持っていた。それ故の油断。

だが、彼女達も其なりに実力とプライドを兼ね備える者達。同じ過ちは繰り返さない。と、そんな面持ちで再び剣を構える。


「それじゃあ飛竜(こいつ)の心臓は貰うぜ?」


「そう簡単に奪われる訳にはいかない!」


エリザがアニスと共に再びリュウヤへと向かおうとするが……。


「いいのか? あまり俺ばかりに気をとられてると後ろから狙われるぞ?」


一歩を踏み出しかけていた両者の動きが止まった。

後方には上位竜クラスの竜族が三人。そして前方にいるリュウヤは、先ほど自分達の攻撃を容易く受け止め、総隊長の一撃にも無傷だった男。

そんな存在達に挟み撃ちにされては下手な動きなど出来はしなかった。

バルトス、ユーリアは険しい表情でリュウヤを見据えている。

後ろをとられた時点で二人は既に飛竜の血は諦めていた。

無論簡単に諦めたわけではないが、ここでリュウヤに特攻を掛けたところで後方の三人より邪魔が入るのは確定的。多少の時間は稼げても、リュウヤが心臓を手にすることになる。というのが二人の見解だった。

同時に、竜や竜族を相手にするには最低でも竜殺しを二人は確保しておきたい為、他の竜殺し達が来るまでは損耗は避けたいというのもあった。


「そんじゃ遠慮なく……」


邪魔する気配の無くなった一同を見届け、形だけの断りの言葉を口にする。

そして右手で手刀を作り、飛竜の心臓部へと突き立てる。

ゆっくりと引き抜いた右手には飛竜の心臓が握られていた。


「そう言えば俺の力についての説明がまだだったな」


沈黙する一同の中、ユーリアに視線を合わせ、リュウヤは続ける。


「一つは単純に、"破壊"だ。これはお前にも備わってる力だな。俺のに比べりゃ微々たるもんだが……。そしてもう一つがこれだ」


心臓を上へと持ち上げる。

そして怪訝な様子で見守っていた一同を余所に、リュウヤは心臓を口の中に押し込むようにして飲み込んだ。


「ーーーーーーーーなっ!?」


一様に驚きの声が上がる。


「ふぅ……。やれやれ、まさかまた心臓を喰う嵌めになるとはな。出来れば二度としたくなかったんだが……」


リュウヤは過去に一度だけ竜の心臓を喰らった経験がある。

竜王の力を手にしたあの日。

本来、別個体の力を取り込む事は、竜族にも竜殺しにも出来ない。しかし竜王だけは違った。

対象の心臓をそのまま喰らうことで、その力を自分の者に出来る。

故に「竜喰(ドラゴンイーター)い」と呼ぶ者もいた。

だが、この特性を知るものは少ない。

その理由は単純。竜王自身が必要性を感じていない為、実際に喰らった試しがほとんど無いからである。

自分より弱い力を取り込んでも意味はない。

確かに戦闘における手段は増えるだろう。

だが、結果は変わらない。

百の敵を火竜の炎で焼き尽くそうが、千の敵を氷竜の冷気で凍結させようが、同等の力を備える者以外全ての者を己が身一つ、破壊の力だけで圧倒してしまう存在には意味の無いこと。

ただリュウヤの場合、単純に旨そうじゃないから出来れば喰らいたくないと言うだけなのだが。

平常時に見れば、とてもではないが食欲をそそられるような造形をしていないのである。

では何故喰らうのか……。それは飛竜がリュウヤのお気に入りだったというのも理由の一つだが、もう一つ。

取り込んだ力は自身の意思であれば他者への譲渡が可能であるからである。


リュウヤの身体がふわりと宙に浮く。

格上の者からすれば飛ぶ事しか能がないとまで言われる飛竜だが、その分、一生を空で過ごせるだけの飛翔能力を秘めている。

そんな飛竜の恩恵には当然、自在に空を飛べるようになるというものもある。

ただ基本的に地竜の類いでもなければ竜とは空を飛ぶ存在。

故に空中戦を望む者でもなければ、飛竜の飛翔能力に固執する必要はない。

そしてリュウヤも竜族であるため翼さえ生やせば空くらい自在に飛べる。

ただし、今のリュウヤの背に翼はない。

つまり……。


「飛行魔法!? まさか……飛竜の力を取り込んだって言うの!?」


ユーリアが叫ぶ様に口にする。


「魔法ってとこには語弊があるが、飛竜の力を取り込んだっつうのは正解だ」


リュウヤは驚愕に染まる一同の頭上を飛び越え、サラ達の下へと着地し、応える。


「竜化しなくてもいいなら自分で飛ぶってのも悪くねーな。まぁお前の膝枕には負けるがな」


横目で笑みを浮かべながら言う。

一瞬嬉しそうな表情を造ったサラだったが、直ぐに自然体へと戻ってしまった。

仮にも交戦中の人間達の前でその様な姿を見せられないとでも思ったのだろう。


「さて、驚愕してるとこ悪いが、これで俺の目的は達した。ついでに俺の力も見せたわけだが……それでお前らはどうする?」


リュウヤの問いに暫しの沈黙。しかし直ぐにバルトスが一歩を踏み出し、逆に問い掛けた。


「君が心臓を欲した理由は分かった。だがその様な力など聞いたことがない。それが他の者と君を一緒にしない方がよいという意味なら、少年……君は何者なのだ?」


今更なその問いに、リュウヤは溜め息混じりに応える。


「確かにこっちの力を知ってる奴は極一部だ。精々八十までしか生きられない人間が知らないのも無理はねー。だがそこの女も持ってる力は、仮にも総隊長のあんたなら心当たりくらいあってもいいと思うがな?」


皆の視線がユーリアへと動いた。


「破壊……」


ユーリアが呟く様に漏らす。


「ああ。破壊だ。そしてその力を持つ存在は歴史上一人しかいねー」


一度言葉を切り、バルトスの方を見る。

まるで少しずつネタばらしするかのようなリュウヤの言葉はしかし、勿体ぶってる訳ではない。

ただ、あまりにも馬鹿げた力を持つ存在を唐突に明かしたところで、普通は誰も信じたりはしない。

まして、竜王の死は公表されているため尚更である。

信じてほしい、とは思っていない。

ただ後々の面倒を考えると、この場の連中くらいには事実を認識してもらいたいというのがリュウヤの考えだ。

そうするには自分達で答えを導かせてやるのが何よりも手っ取り早い。

そして表情を見るに、バルトスには既にその答えが出ているのだろう。

しかし、それがとても信じられない様子で、わなわなと身体を震わせている。


「総隊長、彼はいったい何者なんですか?」


答えを知っている。そんな様子のバルトスを見てユーリアが尋ねる。

他の者達も同様の思いだったのだろう。

緊張の面持ちでバルトスの言葉を待った。


「……三百年前の大戦で大陸が二つに割れた原因となった存在は知っているだろう?」


「はい。英雄、アイシア・スターレンと魔王、そして竜王の衝突が原因……竜王!? まさか!」


バルトスの云わんとすることに気付き、それまでバルトスに向いていた視線が一斉にリュウヤへと戻る。


「……そのまさかなのだろうな。到底信じられるものではないが、これまでの少年の態度を見れば納得いく部分も多い。何より側にいる女達が少年に対して敬称を用いている時点で気付くべきだった。だが……竜王は死んだのではなかったのか?」


半信半疑の残るバルトスに「その通りです」と、サラが応える。


「我々の生態を知らないそちらに、竜王の死が正しく伝わっていないのは無理もありません。先代は確かに死にました。ただしそれは竜族としての寿命の話です。我々竜族は殺されない限り、その寿命を終えた際には竜化が暴走し、自我を保てず、その果てに完全な竜となります。その元竜王である竜を殺しその力を手にしたのが、リュウヤ様ということです」


場に長い沈黙が訪れる。

サラによって明かされた竜族の生態。

世界最強の一人に数えられる存在が目の前にいるという現実。そんな存在に刃を向けていたという驚愕と恐怖、そして絶望。

様々な感情故に言葉がでないのだろう。


「一応言っておくが俺は竜王になりたかったわけでも、竜族になりたかったわけでもねー。腹を満たす為に喰った心臓が偶々そういう存在の物だった、というだけの話だ。まぁそんなことは俺が俺で無くなった訳じゃねーから別にどうでもいいさ」


クツクツと笑うリュウヤに対し、当然、同意を示すものは人間側にはいない。

ただ沈黙し、困惑を示す呑み。


「ねぇリュウヤ様? 皆静かになっちゃってるけどこの後はどうするんですか?」


そう何気無く問い掛けたメラの言葉に一同の身体が反応した。

ここでリュウヤが「皆殺し」と、一言言えばそれが現実になるだろう。

絶対的強者を前に少なくともバルトス以外の者達は戦意喪失寸前。そう思うのも無理はない。

この先のリュウヤの一言で自分達の生死が決まるという恐怖が彼女達の精神と肉体を縛っている。

額に冷や汗が滲む。わなわなと、全身が震える。

バルトスですら立場が違えば皆と同じだったかもしれない。

皆を率いる総隊長であるが故に辛うじて平常心を保ち、リュウヤの言葉を待つ。万が一に備えて。


「なんだ、メラ。随分期待の眼差しだな。ミラも無言で見つめてんじゃねーよ」


「だってだって、竜殺しとやれる機会なんて早々無いですし!」


「メラに同意……。それにリュウヤ様に剣向けた……只では済ませない」


既にやる気十分な二人に「やれやれ」と、嘆息する。


「俺にこいつ等とやり合うつもりはなかったんだが……」


一度言葉を切り視線を沈黙する一同に向ける。そして……。


「そうだな。気が変わった。おっさん以外は別に殺すことになっても構わねーな」


ーーーーーーーーな!?


と、反射的に一同の身体が跳ねる。


「やった! ならあたしは火竜のお姉さんがいいな! あたしの炎とどっちが強いか気になるし!」


「はいはい。んじゃミラは水竜の女でいいか?」


ポン、とメラの頭に手を置きながら問いかけると、コクりと頷く。

それを見ていたバルトスは、最早戦闘は回避不能と判断し慌てたようにして声をあげる。


「待て少年! 君は我々を殺す気は無かったのではないのか!」


「あん? 聞いてなかったのか? 気が変わったんだよ。安心しろよ。おっさんを殺す気は無い」


「私だけ……何故だ? いや、そもそもどうして気が変わったのだ!?」


自分だけは生かす。そう言われてもバルトスには安堵の気持ちはない。

むしろ自分の命で事を済ませてほしいと願い出たいくらいである。しかしそれよりも、気が変わったというところに納得が要っていないのだろう。

だが、リュウヤはその問い掛けに呆れたように首を振った。


「おっさん……それ本気で言ってんのか? 俺は言った筈だ。其なりの覚悟を持っておけってよ」


「覚悟……それは皆が持っているとーー」


「はっ! おいおい、俺にはそこの女達が俺の望む覚悟を持っているとは思えねーがな」


リュウヤがユーリア達を睨み付けながら言う。


「確かに殺されるかもしれない、そう言う覚悟は持ってるだろう。それが持つべき覚悟だってのも認めてやる。だがな、お前らは殺される為に飛竜を殺したのか? 生きる為じゃねーのか?」


捲し立てる様なリュウヤにしかし、誰も言葉を発するものはいない。


「やれやれ。ふざけた話だと思わねーか? 自分達の都合で動いておいて、俺が竜王だと知った瞬間、死を受け入れたかのように殺気の欠片もなくなった。自分から死を受け入れ、自分の行いを悔いて縮こまってる奴らをどうして生かしておく必要がある?」


明らかな苛立ちと幻滅がリュウヤの言葉には含まれていた。

常に死を覚悟するのは立派だ。だが、リュウヤの求める覚悟とはそれではない。

それは敵わない相手を前にすれば否が応でも思うこと。

そんな相手などいないと決め付け、軽い気持ちで他者の命を奪い、後悔するくらいならば初めからするな。その重みを背負って生き続けることが出来ないならこの場で死ね、と。

それがリュウヤの求める覚悟である。


最後忠告(ラストチャンス)だ、小娘ども。選択を間違えるなよ? このまま大人しく殺されるか、それとも生き残れる可能性に賭けて現実に抗うかだ。簡単だろ?」


リュウヤに二度目は基本的に通用しない。

だがリュウヤとて元人間。期待も希望もあると知っている。無論それは元の世界での人間の話。

この世界の人間が果たしてそう思えるだけの種族であるかどうか。それ故の最後忠告だった。

不意にリュウヤの口許が緩んだ。

僅かながら戻った殺気を感じて。

バルトスも女性陣の変化に気付いたようで、喝を入れるために備えていた大剣をゆっくりと降ろし、黙してその時を待つ。

最初に声を上げたのは滅竜隊隊長のユーリアだった。


「ふ、ふざけないで! 一体どれだけ格下扱いすれば気が済むののよ貴方は! えぇそう、認めるわ。確かに私達は竜王という存在に恐怖し、死を覚悟した。でもそれも終わり。ここで貴方に勝って、言ってあげるわ。余り人間を舐めないで!」


強く握った剣をリュウヤに向け宣言する。

心地好い殺気が肌に伝わって来るのを確かに感じた。

そして他の者達もユーリアに続くように自らの剣と竜殺しの魔力をリュウヤ達へと向ける。


「隊長の言う通りだ。こんなところで死ねるはずがない。私達にはまだやらなければならないことがあるのだ。絶対に生き残ってみせる!」


「そうだよ! エーちゃんいいこと言った! 大丈夫、私達ならきっと何とかなるよ!」


「はい! 皆の力を合わせればきっと勝てますよ!」


エリザ、アニス、レニーも自身を奮い立たせる様に声を張る。


「……答えは出たな。ああ、良いぜ。サービスだ。少しの間遊んでやる」


望む答えが得られたのか、嬉々とした表情で言う。

そしてリュウヤがその右手を振るった数瞬後。大きなガラスが一瞬で崩れ落ちる様なけたたましい音と共に結界が砕け散る。

たったそれだけで、と一同は思うが、口には出さずリュウヤを黙って見据える。


「安心しろ。流石にあの程度の結界じゃ脆すぎるからな。俺の覇気を覆っただけだ。まぁ外の連中はショックで気絶してるだろうがその辺は多目にみてくれ。ああ、当然後から来る連中もここには入ってこれないだろうからちょうどいいだろ? 竜殺しと竜族が丁度四対四。一対一(サシ)といこうぜ」


その言葉の意図を察知したバルトスが唯一竜殺しの力を持たないレニーの名を呼ぶ。


「どうやら貴殿にこの場は荷が重いようだ。住まないが外の者達の介抱を頼めるか? それと時期に来る者達に場内へ近付かないよう伝えてくれ」


「は、はい」


震えた声で返事をし、そのまま外へと向かう。

戦う意思はあった。しかし、今のリュウヤから感じる覇気は最初の物とは文字通り桁が違った。

事実、竜殺しの力を持たないレニーにはその場で抗っているのがやっとであった。

故に悔しくても受け入れるしかなかった。


「どれだけ手を抜いていたって言うのよ……」


立ち去るレニーを見送り、ユーリアが呟く。


「おいおい、これはあくまで闘技場を覆ってるだけの膜に過ぎねーぞ? そんなんで本気で俺に勝つ気でいるのかよ?」


挑発にユーリアはキッ、と睨み付ける。


「その自信絶対にへし折ってあげるわ」


「そうか。なら俺の相手はお前だ。はっきり言ってこの中で俺の身体に傷を付けらるの可能性があるのはお前以外にはいない。拒否権はねーぞ?」


「当然受けるわ」


その返答をもって互いの相手は決まった。


「さて、それじゃ制限を設けようか。お前ら、竜化は角までだ。それ以上しなきゃならないようならそこで強制終了(タイムアップ)


サラとメラ、そしてミラがそれぞれ頷く。


「つまり我々はそちら側に二ヶ所目の竜化を選択させるまで追い込めれば勝利。それで相違ないか?」


「ああ、それの解釈でいいぜ。元々俺は竜化はする気がねーし、正確には三人の内一人でもそうなったら大人しく帰ってやるよ」


リュウヤの発言に竜殺し側には怒りの色が見えたが反論はなかった。

しかし、リュウヤとて今回の発言は舐めているから言ったものではない。


「勘違いするな。あまり派手にやり過ぎるとどこぞの人間嫌いな種族が動きかねないってだけの話だ」


「どういう意味だ少年?」


一同が疑問符を浮かべる中、バルトスが問う。


「あぁ、そうか。まぁ人間には直接関わってくるだろうから教えておいてやるよ。魔族はつい最近二つに別れたらしいぜ? その内の一つがそのうちこっちに攻め込んでくるだろうよ」


「なんですって!?」


「……いずれは、と思っていたが……そうか。因みに君が我々を騙すメリットが無いことは承知の上で尋ねよう。証拠はあるのか?」


一同が愕然とするなか、覚悟はしていた様にバルトスが再度問う。


「証拠も何も魔王から直接聞いたからな。まぁ攻めて来る側に現魔王は含まれてねーから 、何とかなるだろーよ」


軽く言ってのけるリュウヤに苛立ちを覚えるがしかし、今はそれどころではない。


「冗談じゃないわ。益々こんなところで死ぬ訳にはいかないじゃない」


「我々が死ねば主戦力の低下は必至。何としてでも切り抜けなければならない!」


「うん。こんなところで弱音なんて言ってられないよ!」


狼狽えはしたものの、どうやらリュウヤの忠告は彼女達の戦意をより向上させたようである。


「竜王の力を持つ君の事だ。話に聞く魔王と接点が有っても不思議ではないな。正直こちら側は魔族の情を掴めていなかった。忠告感謝するぞ、竜王の少年。しかしこれで我々も早急に動かねばならなくなった……」


そろそろ始めよう、そう言いたいのだろう。

もとより早期決着をつけられる相手とは思っていないが、魔族が動き出すとわかった今、もたついてなどいられはしない。

それもこれも全てはこの場を無事に生きて突破出来ればの話であるが、先程までの不安は皆にはもうない。

自分の力を信じ、乗り越えられると皆が思っている。故に、時間を稼ぐ必要はない。


「それじゃ、第二ラウンドといこうか」


四方へと散ったそれぞれが互いに向かい合う形で陣取る。



「……私では不服のようですね」


「そうではない。貴公の雷竜の力は確かに脅威だ。しかし、本音を言えば竜王の力というものをこの身で体験しておきたかった」


横目でリュウヤとユーリアの向かい合う位置を見ながら、バルトスは言う。

それに対してサハは微笑を浮かべ応えた。


「おかしなことを言いますね。リュウヤ様がどのような存在かを知った後でも挑みたいなどと。ですが、分からなくもありません。かつての私も同じようなものでしたから。ご安心を。確かに私はリュウヤ様に足元にも及びませんが、それでも貴方がこの身体に傷を付けることは叶わないでしょう」


「言ってくれる。女だからと加減をするつもりは毛頭ないが、その美しい肌に是非とも傷を付けてみたくなった」


バルトスが大剣を構え、サラの身体から雷が迸る……。




「ねぇねぇお姉さん!折角同じ火竜の力同士なんだし、どっちの炎が上かで決めようよ!」


「いいね! 絶対に負けないよ!」


アニスの剣に竜殺しの炎が、そしてメラの拳に火竜の炎が纏う……。




「……本当にいいの? ……貴女は水……、私は氷……。結果は見えてる……」


「確かに部が悪いのは認めよう。だが、水であろうと氷は溶かせるものだろう」


「……無謀。でも……手加減はしない」


エリザの剣に竜殺しの水が纏い、ミラの周囲に、認識できる程の冷気が漂う……。




「始める前に一応名乗っておくか。竜王なんて肩書きで呼ばれるのは不快なんでな。出来ればリュウヤと呼んでくれ。姓は忘れた」


お前は? と、そういう視線をユーリアに送る。


「滅竜隊隊長、ユーリア・ユルキスよ。悪いけど私が貴方を名前で呼ぶことはまずないわ」


「クク。そうか、そいつは残念だ。随分と嫌われたらしい」


全くといって言いほど、残念そうな者の表情ではないことに不満を抱くも、直ぐに気を引き締めて剣を構える。


「俺から仕掛ける事はない。お前の好きな様に斬りかかってかまわないぜ、ユーリア」


例え格上である事を認めても、リュウヤの見下す様な物言いには怒りを覚える。或いは名を呼ばれたことに一瞬でも動揺してしまった自分への怒りか……。


「調子にーーーー」


乗るなッ! と、らしからぬ怒声を発し、自慢の銀髪をその場に置き去りにするほどの瞬発力で、リュウヤへと肉薄を試みた……。

それを期に、皆一斉に戦闘を開始する。


"鋼鉄"と"雷"……。

"炎"と"炎"……。

"水"と"氷"……。

そして、"破壊"と"破壊"……。


いずれも竜の力を源にする絶対の力。それらが荒れ狂う魔力と覇気の渦の中を、激しい音と共に、四方で、同時に激突したのだった……。



次回エピローグにて第一章が完結します。

その際、最後までお読み下さった読者様にお願いがございますのでどうか次回もよろしくお願いいたします。



12月22日現在リアル諸事情の為、更新が遅れております申し訳ございません。

活動の目処がたち次第活動報告にて一報します。

どうぞこれからもよろしくお願い致します。

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