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三獣奏  作者: 一滴
第一章
6/6

怒 食 楽

「が……ガン、ド?」

「カナミ!」


 なぜという疑問で頭が一杯になっているカナミを、駆け寄ったガンドが力いっぱい抱き締めた。

 カナミも、今は疑問を脇に置いてガンドを抱き締め返し、再会を喜ぶことにする。

 二度と会えないとほとんど諦めていたのだ。

 時間にしては数時間程度しか離れていなかっただけであっても嬉しいことだ。

 しかし、


「……何で、ここに?」

「それはこっちの台詞だ! 何でお前達がここにいる!? ここはポイント7のハズだぞ!」

「え? ポイント2じゃないの!?」


 ガンド達はいくつかある隠れ家に番号をふって区別している。

 ガンド達が逃げたハズだった南にあるポイント7とは反対方向にあるポイント2にカナミは隠れたつもりだった。


(まさか、レン達の非常識に唖然としてて間違えた?)


 確かにあの時はもし万が一逃げきれた時のためにポイント7に向けて走っていたが、途中で魔物を転ばせた後は少し走る方向の事を忘れてたかもしれない。

 しかし、今はそんなことより、


「……蓮君?」


 ガンドを探しに行ったハズのレンが外においてけぼりな方が問題だった。


「れええええんくうううぅぅぅぅん!!!」

「ちょっ……」


 そしてレンが一人で外にいることがとてつもなく不安になったマキは、ここから出るなと言うレンの命令も忘れて、ガンド達の静止の声も聞かずに外へ飛び出して行ってしまった。

 さらに迷子が追加された瞬間だった。

 そして当然、カナミやガンド達にレンの捜索を手伝うという選択肢は存在しない。

 どこまで行っても蓮達は余所者であり、結果だけ見れば当初の予定通りになったのだから。




 洞穴を出ると外はもう真っ暗だった。

 こんな場所でガンド達を探さなければならないのは気が滅入るが、朝には戻ると言って飛び出して来たてまえ、今さら戻れない。

 そして、そもそもレンはガンド達がどっちに行ったのか全く見当もついていない。

 さらに不味いことにさっきまでマキ達と一緒にいた洞穴がどこなのかもうわからなくなっている。

 つまるところ『迷子』。

 そして現在、歯並びの綺麗な牛に追いかけられていた。


「またこのパターンかよおおおおおお!」


 迷子はさらに加速していた。

 こんな状況ではガンド達がいたとしても巻き込みかねない上に、見つかる訳がない。

 生きるためにしたたかな考え方をするガンド達がわざわざ魔物に追いかけられている人間を好きこのんで声なんぞかけたりはしない。

 だからこそこの状況は非常に不味かった。

 そして、


「げっ!」


 だめ押しとばかりにさっき転ばした四本腕の魔物が正面から現れ再会。

 挟まれた。


「グルルルルルルルルルル!」

「グアアアアアアアアアア!」

「運命の神に会ったら俺、絶対ぶん殴るんだ……」


 死亡フラグにしては微妙な線の台詞と一緒にレンは棒を構える。

 しかしその場から逃げようとはしなかった。

 それは動けなかったからではない。

 レンは動かずどっちか片方が動くのを待っていた。

 そしてその時はすぐ訪れる。


「グアアアアアアアアアア!!!」


 もっともイラついていたであろう四本腕がその拳を二発レンに向けて放つ。

 待っていたとばかりにレンはそれを慣れた手つきで全ていなした。


 反対側の牛の方に。


 だがそう上手くいくわけもなく、牛は意外な身軽さを見せてヒラリと四本腕の攻撃を避けると、その喉を膨らませ水弾を放ってきた。


「マジすか!」


 当然避けるが、棒にカスる。

 しかしその途端棒が水弾を弾いた。

 正確には水弾が棒に触れた瞬間強い抵抗を感じ、レンが無意識に地球で銃弾をいなした要領で水弾を弾いたのだった。


「……世界が変わっても相変わらずだな、この棒は」


 棒に傷は一つも無し。

 今まで日本刀、手榴弾、銃弾、鉄球、ロケットランチャー、ロボットと何して来たんだと言いたくなるものを数えきれないほどいなし、弾いてきた師匠より譲り受けしこの棒。

 正式名『橋渡し』。

 いったいどこでどうやって作られたのか、その構成物質は間違っても鉄ではなく、むしろ普通の棍に使われる木製のような棒。見た目は濃い赤茶色で肌触りはまんま木製。重さは確かに鉄並みだが、よくしなり柔軟で頑丈。

 だが木製とも断言できない。慣れるまで少し時間が掛かったが、慣れてみるとこれ以上なくシックリ来る。まるで腕や足が延びたように感覚が行き届き、まさに体の一部のように取り回せる。

 そしてもう一度言おう。頑丈だ。ふざけたモノとしか言えない攻撃を全て弾いて来たその棒は、それでも無傷。何度も折れるんじゃなかろうかと戦々恐々としてきた事は数えきれないほどあったが、折れるどころか傷すらつかない。

 レンの棒に対する印象は一言で言って、謎。もはやこの棒が孫○空の如○棒だと言われても信じられるほどレンにとってこの棒は謎の物体だった。

 とは言え、いくら得体の知れない棒とは言っても、今まで数年間共に戦ってきたお陰で信頼の厚さはマキの次にあるほどのまさに相棒。マキに関しては未知数過ぎて計れないだけなのだが。

 魔物が吐き出した水弾を弾いた事にすら、平常運転だなぁと感心と安心と悟りすら開けそうなほどの諦めの念すら感じていた。

 そして狙った通り、魔物の片方の攻撃をわざともう片方に向けてぶつければ、それなりにダメージは通りそうだ。

 だがやはり現実は上手くいなかいようで、四本腕はその拳に土でできた棍棒を地面から掘り出し、牛は喉を今までとは比べ物にならないほど大きく膨らませ、カエルのようになった。

 そしてレンをサンドイッチの具のように両サイドから襲いかかった。


「……ゴメンな」


 しかし蓮もこの程度で諦めるほどやわな人生は送っていない。

 レンにとって、四本腕の攻撃は拳が棍棒に変わっただけ。

 牛は吐き出す水弾が多くなるのか大きくなるのか別のものになるのか、いずれにしろ視認できる限りいなす自信があった。

 そして案の定、四本腕からは棍棒の鉄槌が、牛からは水弾の連続発射が飛び出したが、レンはなんなく全てを弾き、いなし、そらし、全てを両サイドにきっちりお返ししたのだった。

 謝罪は自分が生きるために魔物とは言え動物の命を狩る行為に対して。

 完全に日が暮れた森の中に、ひときは大きな地響きが鳴り響いた。






 汚染のおの字も知らなそうな美しい澄みわたった夜空の星をバックに、森の中にパチパチと火が弾ける音が響く。

 焚き火が弾けるその隣で、レンは口を押さえてのたうち回っていた。


「ぶえっは! ゲッホ、ゲホ! うぅえ……まっず!」


 魔物の攻撃を全ていなして見事二匹の魔物を倒したレンは、死骸から使えそうなものを剥ぎ取った後その場を離れ、日が落ちてしまってはガンド達の捜索は無理だと考えて腹ごしらえしようとしたまではよかった。

 その後、牛の魔物の肉を焼いて食べたのがマズかった。

 師匠に一度海外の森の中に放置された事があったお陰でサバイバル能力もある程度会得していたから火を起こす事も比較的容易にできたが、夜空をバックに肉を焼く乙さと水もなく食料も無い上に昼からなにも食べずに走り通しだった身としては、肉汁がジュウジュウと焚き火に滴る骨付き肉の誘惑に負けてかぶり付いてしまったのはしょうがなかったかもしれない。

 しかし、同時に迂闊としか言い様もない。

 見知らぬ土地で毒味もせずに焼いただけの肉にかじりつくなど、もしここに師匠がいたなら叩きのめされてそのまま説教コース待ったなしだ。

 牛の魔物の肉はゲロマズだった。


「うぇええ…………」

「ギギャギャギャギャギャギャ!」

「ッ!?」


 突如、レンのすぐ隣で不快な笑い声が発せられた。

 一瞬で頭が戦闘モードに切り替わりその場から飛び退いて近くに置いておいた棒を握る。

 そして、接近に全く気づけなかった『それ』を睨み付けた。

 その警戒心タップリのレンの目に飛び込んできたのは、背丈一メートルにも満たない深い緑色の肌。

 服を着ており、横に長い耳には大粒の宝石がついたピアス。

 頭には毛が生えておらず目は閉じているが大きい。

 口は耳の近くまで裂けており、小さいが鋭い歯が無数に覗いている。

 爪は生えていないが体に対しては大きい手と、小さい爪の生えている足があり、腹は下の方に垂れ下がっているのに妙にそれが黄金比のような不自然だけど不自然じゃない丁度良さ、整った感じをかもし出している。

 やけに小綺麗だがその容姿はまさに、


「……ゴブリン?」

「ギギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!」


 そう、レンは今ゴブリンに腹を抱えて笑われていた。

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