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三獣奏  作者: 一滴
第一章
4/6

怒 転 楽

三人称視点です

「グオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


 後ろから魔物が咆哮をあげながら追いかけてくる。

 歩幅が違い過ぎるせいで、数秒も稼げないまますぐ追い付かれた。

 天の裁きさながらに振り下ろされる拳が最後尾を走る蓮を潰そうと迫る。


 だが、蓮はそのことごとくを弾き、そらし、受け流し、一発も当たる事なく凌ぎ続けていた。


 彼の目から見て、魔物の攻撃は全て単純としか言えないものばかりだった。

 彼はまっすぐ上から降り下ろされる拳を、向き、速度、魔物の外見の骨格、その他色々なものから勘でいなす方法を導き出し、決して慌てる事なくさばき続けていた。

 天から降ってくる拳に合わせて、斜めに構えた棒で少しずつ力の方向を曲がりやすい方向に向かってレールの上を滑らせるように力の向きを曲げる。

 何度も何年もいろんな人と繰り返したからこそ、理論や過程をすっ飛ばして初めて見る骨格の化け物から繰り出される攻撃を全ていなし続ける事ができてい

た。


「くおおお、りゃっ!」


 理屈はすべて『勘』で片付け、とにかく勘の(おもむ)くままにいなし続ける。

 三人は今、先頭を走る成り行きで一緒になってしまったカナミ、真姫、蓮の順番で後ろの魔物から逃走をはかっていた。


「この魔物どっから湧いたんだ!?」

「魔物は前ぶれなく突発的に生まれる事がある。ただの動物から進化したり、土の中から出てきたり。どうなっているのかはわかっていない」


 洞窟の中から天井を持ち上げるように現れたのはそれが原因だった。


「グオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


 サッ、と蓮の頭上に影が指す。

 後ろの魔物がジャンプして上から覆い被さるように潰そうとして来たのだ。

 怖すぎる。

 彼は師匠の付き添いでトラを相手にしたことはあったが、目算6メートル近いバケモノが上から覆い被さるように迫ってくるなどモンスターパニック映画なんて目じゃない恐怖が全身をすくませ、空気と一緒に肺から勇気が漏れていく。

 停止しそうになる思考をなんとか動かし、上から迫る魔物の顎の範囲からなんとか逃れようと横へ全力で飛ぶが、それでもギリギリかわせない。

 足の先を魔物の体がかする一歩手前で、魔物の顎が急にそれた。


「おりゃあああああああ!!」


 いつの間にか戻ってきていた真姫が、魔物の頬をキックでそらしたのだ。

 無事に無傷で回避に成功する。


「真姫、ナイス!」

「うんっ!」

「うそー……」


 カナミがまさにアングリ顔でこっちを見る。

 昔、建物を壊すために使われる鉄球をそらした事があった二人は、正面から来る物体に関しては大抵どうにかできちゃったりする。

 むちゃくちゃな人生経験を一緒に乗り越えて来たからこそ、自然と息も合うようになった。

 今更ながらにどういう人生送ってんだろうと若干遠い目になりながら蓮は再び走り出す。


「何で……?」

「は?」

「いや、そうだったね……。あなた達、返還者だったんだっけ……」

「そのさっきから言ってる返還者っていったい何なの? 俺たち何かを誰かに返した記憶は無いんだけど」

「あなた達、生まれてから私達と会うまで何してきたか思い出せる?」

「へ?」

「思い出せないでしょ?」

「あ、いや……」


 当然覚えている。

 普通の病院で生まれ、何不自由無い普通の家庭で暮らし、訳あり師匠に弟子入りし、真姫になつかれ、様々な拳法家と戦って棒をもらい、ヤクザと戦い、政治と戦い、警察と戦い、色々あった後、巨人に食われて魔物に追いかけられ、滝に落ちた後再会した真姫にさば折利食らって、カナミ達と出会った。

 それが蓮のここまでの人生過程。

 そこまで考えた蓮はふと、あれ? と、考える。


(普通が少なかった気がするような、しないような……。目から汁も出てきたな)


 返答を待たずにカナミは勝手に語り出す。


「時々いるのよ。酷すぎる経験をして自分から記憶を命より先に輪廻に返した人が。無理に思い出さない方がいいよ、そんなの……」

「あー、え~と……」


 蓮は自分達が気が狂うほどの酷い経験をし、自己防衛のために記憶を消した記憶喪失者と勘違いされていた事を理解する。


「私達はそうした人間を『返還者』って呼んでる。集落によっては脱落者、敗北者、逃亡者なんて呼ばれるみたいだけど」

「グオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

「なる、ほど、ねっ!」


 後ろから魔物が咆哮を上げながら迫る音をBGMに、またしても振り下ろされた拳を棒でいなしながら話を聞く中、そろそろ蓮はいなすのに慣れてきた。

 というか飽きてきた。

 単純な攻撃ばかりだからそろそろ『アレ』もできる。

 しかも魔物はしとめきれないもどかしさに顔が歪んで憤怒の顔だ。

 余計怖くなったが精神が安定しない時の方がアレもやりやすい。

 そろそろ行けるかな、と考えたちょうどその時、真姫からも問い合わせが飛んでくる。


「蓮君!」

「おう。弱点三ヶ所。拳を振り上げた瞬間、膝裏、腰、脇の順だ。もう転ばせられる(・・・・・・)!」

「了解っ!」


 方針を会わせた彼らは阿吽(あうん)の呼吸で反撃に出る。

 真姫と同時に魔物に向き直り、同時に左右に散開。


「え、何!?」

「カナミは走れ!」

「グオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


 魔物が声があげ攻撃しようと両腕を振り上げのけぞったした瞬間、


「「今!」」


 蓮は振り回してたっぷり遠心力を乗せた棒を、真姫は遠心力を乗せたハイキックを、全く同時に魔物の足の間接部、膝裏に打ち込んだ。


「グオッ!?」


 いわゆる膝カックン。

 魔物はたまらず膝をついて驚いた間抜け面をさらす。

 そして膝をついた時点で次は決まったようなもの。


「腰!」


 魔物が少し仰け反って中腰になっている間に、真姫が腰の少し上の部分をハイキックで刺激する。


「ゴオオオオ!」


 そして蓮は、攻撃よりいなしたりそらしたりする方が得意だ。

 だから彼の仕事は、


「グオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


 苦し紛れに魔物が放つ拳四つ全てを一方向にいなす事。


「せ、い、やっ!」

「グオ、オオオオオオオオ!」


 蓮の真横にまとめて受け流された四つの拳が、地面に突き刺さって地面をえぐる。

 さらに予想外の場所に拳がいなされ体重が不安定に掛かった魔物はさらにぐらついた。

 そこへ、


「脇っ!」


 右側に回っていた真姫が魔物の脇に横から跳び蹴りをかまして魔物の体制をさらに崩す。

 ここまで全てをクリーンヒットした魔物は蓮から見て左側に横倒しにぶっ倒れた。


「そんじゃ……」

「これで……」

「「逃走(トドメ)ッ! ……え?」」


 魔物の背後に回った真姫と、カナミの方向に向き直った蓮は、全く同時に別の言葉を口にした。


「いやいやこいつの肌直に蹴ってわかったろ!? 金属並みに固いんだから倒せる訳ないじゃん!」

「いやいやいつも通り転ばせられるじゃん。いつかの巨大な金属マシーン壊した時みたいにやれるんじゃない!?」


 息は合っていても思考は違う。

 そして当然倒した訳ではなく転ばせただけ。

 すぐ魔物は起き上がる。


「あの(もろ)いロボットと魔物は別物でしょうがよ! いいから逃げるぞ!」

「美味しそうなのに~……」

「グオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

「そら来た!」


 真姫の腕を掴みながらさらに怒りながら起き上がる魔物から急いで避難する蓮の後ろを、カナミが呆けた顔でついていく。


「……うっそ~……」


 その顔は、先程の魔物の間抜け面にちょっと似ていた。

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