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三獣奏  作者: 一滴
第一章
2/6

哀 棒 無

三人称視点です。

 ピチャン、と水玉が滴り落ちた音が牢屋の中に響く。


 光が無い牢屋の中、一人の少女が号泣しながら少年にサバ折りをキメていた。


 失恋の瞬間、ではない。

 いつものことだ。

 この二人は普段から破天荒な生活を送っているのだが、今回はとりわけいつも以上に異常な紆余曲折があって少しの間離ればなれになっていたのだが、先程再会を果たしたところだった。

 サバを折られている少年の名は天宮蓮あまみやれん

 ちょっとした訳あり師匠に幼児の時から棒術を習い、異常なほどある技が熟達してしまっている、ようするにちょっと(・・・・)普通ではない少年。

 そしてそうなった一番の原因であり、蓮のサバを見事にキメている少女の名は一陸真姫いつおかまき

 モンスターペアレンツから産まれた非常識に足が生えた問題児で、子犬のように蓮の後を追いかけ猫のようにすり寄ってくる蓮の幼馴染みだ。


 二人は小学生からの付き合いなのだが、蓮は真姫に出会ってからろくな人生が送れていない。

 彼女はどんな星の下に生まれたのか、自然と事件に吸い寄せられる能力を持つ。

 そしてその度に周りを、特に蓮を巻き込んできた。

 一県中の不良と一部のヤクザ対、蓮と真姫のたった二人で一晩中戦ったり、学校のイジメッ子の暴走を治めるために親と権力と金とブランドと教育委員会と警察と暴力による鎮圧を行ったり、ネコ探しに沖縄と北海道を二往復したりと、もう勘弁してほしい。

 お陰でしぶとくもなったのだが、何回病院のお世話になったかわかりゃしない。

 しかも本人に悪気と自覚が無いのがなお質悪い。純粋で(バカとも言う)可愛いもの好きで(見境がない)優しい所があり(蓮以外には)意外と気が利く(勘が鋭いとも言う)。

 そして何故か強い。

新体操選手だからと本人は言っていたが、蓮に言わせれば断じて違う。

 彼女は身体能力、特に柔軟性が非常に高い。

 ハイキックなんてお手のもの。

 予備動作無しのきれいな曲線を描いた見事なフォームで蓮の顎を刈りにくるから日常生活でも油断ならん。

 蓮が棒術を習っていてもっとも感謝する理由が真姫を撃退することと言うのは、なんとも間抜けな話である。


 そんな二人がなぜ牢屋の中でサバ折り状態になっているのかというと、事は数時間前にさかのぼる。


 公園で犬の糞を踏んづけたその隙を見逃してもらえず、真姫に捕まった蓮が挨拶代わりのサバ折りをキメられていると、その日は珍しく乱入者が現れた。

 全身が銀色の妙にメタリックな巨人がどこからともなく現れて二人を飲み込み、気がついたら樹海の中にそれぞれ一人で放り出されていた。

 しかも蓮の目の前に、は5メートル近い巨体の牛の背中に翼が生えたような歯並びの無駄に綺麗な化け物が鼻息荒くにらんでいた。

 当然逃げる事を選択した蓮は、ありがたい事に一緒に放り出されていた()でなんとか応戦しながら逃げ惑い、偶然見つけた滝にダイブしたところ見事水の激流に叩きつけられ気を失い、気づいたときには真姫と一緒に牢屋のベッドで朝チュン(牢屋バージョン)になっていた。

 その後、すぐ起き出した真姫に捕まっていつも通りのさば折り状態になり、冒頭の戻る。


「よがッだよ~~~! 死んじゃっだがど思っだ~~~!」


 心配してくれるのは素直に嬉しいが、体がメキメキ言ってるのに気付いて欲しい。


「ギェアァァ…ァ……ァ…………あ」


 ボリン、と泣きじゃくる真姫にさばが折られる嫌な音を聞きながら蓮の意識は再びどこかへ堕ちていった。


「うわああああああああああん! あああああああああああん!」

「………………」


 そうして冒頭に戻る。

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