入学
すみません。以前、同タイトルで投稿していたのですが手違いで消してしまいました。以前、読んで頂いた方、ブックマークして頂いた方、またなろうをご利用になっている方々にご迷惑をお掛けしました。
この世界では日常生活に魔法が使われ、世間一般的であり常識でもある。
そんな世界のある魔法学園に一人の突出した少年が入学した。
しかし、彼はあらゆる常識とは異なる存在であり、「変わり者・失敗作・馬鹿の一つ覚え」などといった不名誉を得ている。
何故なら彼は召喚魔法しか使えないのだ。
魔法学園に通う主人公カイト。
彼は召喚魔法を得意としていた。
ある時気付いた
「あれ、俺って召喚魔法しか使えなくね? 」
魔法学園に通っている身なのに召喚魔法しか使えない。
五行に関する現象である基礎魔法がある。
魔法使いならば誰もが最初に覚える初期魔法。
火、水、木、土、風。
まさに魔法使いの登竜門的なものであるがカイトはどうしても使えなかった。
そのことを生徒達はこぞって俺のことを馬鹿にする。
「ちくしょー。俺の召喚魔法でガツンと言わせてやる…いつか、いつかな」
ドヤ顔でそう一人で宣言した。
しかし、ただの独り言だと気付いたのか周りを気にしつつ、周囲に聞こえてないこと祈りながら顔を真っ赤にした。
すると、「キーンコーンカーンコーン」と授業の始まりの鐘が教室に鳴り響いた。
時は俺が学園に入学した頃に戻る。
キーンコーンカーンコーン!
授業は始まった筈だが未だに教師が来ない。
いよいよ耐えれなくなったのか、周りがざわざわと騒ぎ始めた。
俺の周りも例外に漏れず騒ぎ始めた。
何を血迷ったのか前の席の男が振り向きあろうことか俺に話しかけてきた。
「全く魔法を使えないのに良く学校に入れたね、君。」
確かにご尤もな意見ではあるがここは余計なお世話だとしか言い返せない。そもそも、何故俺がこの学園に入れたかといえば…
場面は校長室。
俺の通っているバトロン魔法学園は毎年、年の始めに学園の入学面接、試験が行われる。
特にこの学園は魔法の才能を持つエリート達が大勢集結している。
尤もこの学園にその天才達が集ってくる理由は、正面にいるどこか冴えない顔をしたこの老人のせいだろう。
この冴えないじじいが、なんと魔法学の最高権威でとてもすごい人らしい……のだが、どうもそう思えない。
まぁ俺は落ちるだろうしもう会うこともなかろう。さらばぁ~老人フォ〜エバ〜。
「君、合格ね」
どことなく重低音の良い声が聞こえてきたことに、まず驚いた。そして何よりも……
「なんだぁ~そりゃー!! 」
思わず叫んじまったけどしょうがないよね。だってじいさん耄碌してんだもん。何を血迷ったよ。
「なんだそりゃは儂のセリフじゃよ。なんか君才能ありそうだし合格ってことで、じゃあ次の人〜」
いやいやいや。良いの? 本当にそんな簡単に決めて良いのか? そりゃ合格は嬉しいけどもなんか釈然としない。
「そうだ! 試験だ。試験はしないのか?」
「いや、要らんよ。それより君まだいたの? ユウコ先生、この子外につれてって」
もういいです。はいはい、出て行けばいいんでしょ。全くしょうがないんだから、勘違いしないでよね。やべぇ、あまりに動揺しすぎて頭がいかれてきた。
と色々と考えているうちに、美人に手を掴まれて外まで連行されてしまった。
こうして、何故かこの学園に入学してしまった。俺、魔法が使えないのに……
場面は教室に戻る。
「全くだ! 何故入れたかは俺が一番知りたいぐらいだ。」
それを聞くと男は興味を失ったのか「そうか 」と言って周りに視線を移していった。
すると、直ぐにこの教室に大きな駆け足が迫ってきた。
ガタッと大きな音で教室の扉が開勢いよく開く。
「ごめーん。遅れました!」
美女がそこにいた。
どこかで見たことがあるがあると思ったが、あの時の面接の女か?
それより、最初の授業で遅刻とはどういう事だ?
そんなことを考えていると、何やら俺の横でボソボソした声がした。
というよりも俺に聞かせるように耳打ちするかたちで顔を寄せてきた。
何故か情熱的な目をして俺にこんなことを語りかけてきた。
「真面目な見た目だが、ドジなところがある。これはポイントが高いね。可憐な令嬢のようなおっとりとした雰囲気が伝わる。控えめで露出の少ない清楚な服装とツヤツヤな黒髪と見事にマッチしてる。うん、文句無しのAランクだ。オッパイもデカイしね。親しみを持てそうだし、人気が出
そうだね。カイトの好みそうだね。」
俺に同意を求めているのか。
ハッ! 愚問だね。どストライクさ。
とまぁ、ボケはほどほどにして。
「本当にボケなの?」
と興味津々な表情を彼は浮かべた。
さっきから話しをしているこいつは俺の幼馴染であるラベルだ。
こいつの容姿は実に平凡である。
もし、仮に世界中の人々をランダムに100人集めたとしよう。
そして彼らにラベルの容姿を問うたならば全員一致で彼を平凡と称えるだろう。
それぐらい彼の見た目は平凡なのだ。
平凡のスペシャリストと謳われたりする。
主に俺が謳っているだけだけどね。
しかし、容姿は普通そのものだが侮るなかれ。
俺はラベルを本当に凄い奴だと身に染みて思い知っている。
ラベルは天才だ。
勉強や格闘術、剣術などの天才ではないが、だけれどそれよりもっと重要なこと。
彼は魔法の天才である。
そして、彼こそが俺の唯一の友人であり、親友である。
そんなことを思案していたら、ユウコ先生が困り顔で言い訳を始めた。
「ホントにごめんねー。はぁ~時間通りに着くはずだったんだけど、ちょっと転んじゃってね。…」
本物のドジがいた。
いやー天然ってのは実在しないものだと思っていたけれど、現実で目の当たりにするとはな。しかし、計算でやっている可能性もありそうだ。
するとラベルが苦笑いで言った。
「いや、彼女は天然かな。断定はしないけどね。自覚してないからこそ天然と云われる所以なのさ。彼女のそれは正に無自覚の賜物。もし、仮に天然じゃないと仮定するならば、それを演技しうる悪魔と言えるだろう。けどね、人間というのは悪魔のようにはなれても悪魔にはなりえないも
のさ。」
じゃあ、彼女が悪魔的存在なのかもしれないぞ。
またもラベルの苦笑いが深まる。
「それは残念ながら否定出来ないね。僕個人としては悪魔的存在か天使のようなものかと問われれば、断然後者であって欲しいと願うよ。」
人間の性善説、性悪説のような話に飛躍しちゃったな。そもそも人間という存在そのものを善し悪しで判断するというのも傲慢と言えるんじゃないか。
「一理あるね。人が人を勝手に評価するのは自由だろう。しかし、それを人にレッテルを貼るかのような、或いは見下すような視点で語るべきじゃないね。何故ならば、人は人の意思があるがため人間たり得るからだ。人を評価する上では愛を持って考えなくてはね。」
そう、愛だ。愛があれば人は人たり得る。
要するに俺たちに足りないのは愛なのかもしれない。
愛があれば、そう愛さえあれば人は悪になり得ないはずだ。
切実に思う。
愛が欲しい。
恋人が欲しいです。
「全く同意見だね。なぜこんなにも恋愛にピュアなのに僕らがモテないのかがわからないよ。」
そうだ。こんなにも心が綺麗な人間はそうはいないはずだ。
いや、もしかしたら周りの人間が特別天使的存在なのか?
「見事に話しが一周したね。もし、仮に悪魔的存在がいるとするならば、それも人の形をしているだろね。それは人間かもしれないし悪魔かもしれない。」
だとするならば、納得もできるというものだ。
人は都合の悪いことがあったら得てして何かしらに罪や責任を被せる。
それが信仰であり、積み重ねが宗教になる。
そんなことを考えていたら、ユウコ先生の言い訳が終わり初の授業が始まる。
「さてと、緊張する~皆さん、まずはバトロン魔法学校へようこそ。そして、ご入学おめでとうございまるっ」
「「「「噛んだな!!」」」」
クラスの生徒全員が一斉に突っ込んだ。
か、可愛いだと。だが、教師だ。
とココロの声を添えておく。
「噛んでません!!!」
ユウコ先生は顔を真っ赤にして手を必死に振り、噛んでないアピールをするのである。
しかし、言い訳もつかの間…
ラベルがアホなことを大声で言った。
そう、言っていなかったがラベルはアホの子だ。
「そんなことより、先生の自己紹介お願いします。できればスリーサイズと彼氏の有無を教えて下さい」
教室中がシーンと静まり返った。
そして、何故か男子全員が一斉にもぞもぞとしだし、どことなく頬を赤めるのである。俺も同様に興味津々な形になる。
そんな男子たちの挙動に女子生徒達の冷たい視線が突き刺さるのである。
やめてくれ、そんな目で睨まないでくれ興奮するじゃないか!
そんなことをつぶやいたら、女子全員に普通に引かれた。ぷらす男子にも。
「え、そんな変なこと言ったかな?」
不思議そうに俺は周囲を見渡したが助けはこない。
しかし、救世主はいつも近くにいるものである。
「俺はもっとなじられたい。特に美女であるユウコ先生に。むしろ、物理的に!」
馬鹿なラベルに蔑視の視線が集中した。
ふぅ~やれやれだぜ。
た、助かった~~。
なぜかわからんが初日から女子全員の敵になるところだったぜ。
そして、一人意味不明な状態に陥った男がいた。
その空気を一変するかのようにユウコ先生の咳込んだ。
「スリーサイズはともかく自己紹介をしますね。」
ガーンと男子全員が頭を下げ、気落ちするのだがユウコ先生の自己紹介に注目を始めるのである。
「私はこのクラスを預かることになったユウコ・ユーヴェリムといいます。このバトロン魔法学校という名門に凄く憧れて教師を目指し、今年教師になりました。」
ざわざわ・・・
教室が一瞬でざわついた。
それもそのはず、家名を名乗るのは上級の貴族の特権であるからだ。
しかも、ユーヴェリムときたか。
ユーヴェリムは上級貴族の中でも特に発言力と名声が高い、今最も注目されている貴族である。
しかし、貴族と聞いて周囲の生徒たち一同が落ち着きのない雰囲気を醸し出している。
貴族に下手な口を聞いたら平民の俺達は一瞬で人生が終わるレベルである。
だが、ユウコ先生はそんな空気をまたも一瞬で変えた。
「私は確かに貴族ですが、ここには教師としています。皆さんが明るく楽しい学園生活を送れるように一生懸命やりますので一緒に頑張りましょう。あと、私のことは気軽にユウコ先生と呼んでくださいね!」
ど、ドッキューン。
男子全員がノックアウトした。
10カウントのノックアウトKO状態である。
ウルウルな大きな黒目で、しかも上目遣いで言われたらそりゃ健全な男子はイチコロだ。
女子たちも落ち着きを取り戻し、少しホッとしたような顔を浮かべていた。
俺達の輝かしい学園生活が、これから始まることを如実に表すかのように一輪の綺麗な野花のような笑顔が教壇の上で咲いていた。
そんなほんわかな空気だったが、いつまでも居心地の良い空間ではいられないのである。
「では、早速初めての授業を開始いたしますね。まず、皆さんはこの学校の学習の流れを説明しますね。」
そうユウコ先生が言うとクラス全員の表情が真面目なものに変わる。
そりゃそうである。
このバトロン魔法学校に遊びにきたものは誰一人といないはずである。
魔法とは世界をも変えうる絶大な力を持ち、そしてこの学園を良い成績で卒業できたならばその人の一生が保証されたも当然なのだから。
学園の卒業生は皆、何かしらの実績を出し続けているのである。
例えば、ある人は魔法技術で新たな技術を発見しその名誉を称えられ、ある者は研究成果をコンスタントに発表し続け魔法学会で活躍をしている。
そんな結果を卒業生は何かしらの形で証明し続けているのだ。
そのため、入学できたこの生徒たちの姿勢が良くなるは当然のことだった。
俺も例外ではない。
まさか、合格できるとは微塵も思わなかったが、ここでなら何かしらの魔法を発現できると期待していたのも事実である。
どんな魔法が発言できるのか気になって夜を眠れない日々を送っている。
もはや、ここに来たからには絶対に魔法は使えるようになると確信する程、このバトロン学園には深い信頼と実績があまりにも存在している。
「では、説明していきますね。皆さんにはこの学園で魔法を学んでもらいます。魔法理論を魔法体系的に学ぶ午前の部と、魔法技術を実践的に学ぶ午後の部に分 けて魔法を勉強していきます。基本的には午前の部では朝の9時から昼の12時まで、そこから1時間のお昼休憩が入って、午後の部
の魔法実技訓練を3時間、 魔力操作訓練を3時間やってもらいます。学習は3時間毎に休憩が1時間程あることがこの学園の特徴ですね。」
やべぇ、ってことは実技訓練が6時間もあるのか・・・俺、魔法使えないんだが。
ここはそのことを正直に先生に言うべきだな。思い立ったら即行動だ。
「ユウコ先生!俺、魔法使えないんですけど午後の部はどうしたら良いですか?」
またもやクラスがシーンとなった。
普通は魔法というものは多かれ少なかれ5~8歳の間に必ず発現するものである。
しかし、カイトは魔法を一切使えなかった。
親もどうして我が子には魔法が発言しないのかわからず、遂には村で最も魔法に詳しいラベルの一族であるクラフト家に聞いたのだが、その優秀な一族にも原因がわからずじまいだった。
因みに、クラフト家は元が貴族だったのだが、堅苦しいのがうざったいといった理由から貴族という位を返上して平民になった変な一族でもある。
しかし、その一族は代々、超一流の魔法士を排出してきたウルトラな血脈を受け継いでいる。
そんなラベルの父親が言うには
「私にはわからないが魔法学で最高の技術体系を確立しているバトロン魔法学校に入学すれば、必ず解決できるだろう。ちょうど息子のラベルも入学予定だから一緒に受けてみるといいだろう。」
とのことであった。
取り敢えず、その日のうちに家族会議が開かれた。
その結果、このまま年を重ねて様子をみようという結論に落ち着き、それでダメだったらバトロン魔法学校にチャレンジしてもらおうということになった。
それで15歳になった俺とラベルは一緒に学園に入学面談兼試験を受けに行き、合格できたのである。
チャレンジしてみろと口では言ったものの親は実際にバトロン魔法学校に入学することができるとは誰も一切思っていなかったので、入学できたことを伝えると俺以上に喜んでいた。
つまり、何が言いたいかというと魔法が使えないというのは、かなり異常な事態だということだ。
「「「「え、ええええええええええええええ~!!!!」」」」
クラス一同の悲鳴のような絶叫のような声が重なる。
この世界で、魔法が全く使えない人間などいないはずであると皆が常識的な
こととして潜在的に、いやむしろ感覚的に気づいているのだ。
しかも、魔法学会の論文でも理論的にも存在し得ない可能性として考えられている。
先程のユウコ先生が貴族であるという衝撃にすら近い事実よりも超える混乱がクラス中に広まっていた。
「ごほん」
先生は明らかに動揺していたがこのままの状況だと収集がつかないと判断したのか、わざとらしい咳払いをした。
そしてクラス全員と俺を諭すように優しい声で言うのであった。
「確かに魔法がつかえないということは中々に興味深い…いや信じられないことなのですが、まずはその辺の何故ありえないこととして考えられているのかを含めて話していこうと思います。」
ユウコ先生が苦しいがなんとか授業に戻そうとしていた。
生徒たちも徐々にその雰囲気を感じ取り、少しずつ真剣な表情を取り戻していった。
「では、最初は魔法の基礎的なものから始めます。」
興味の対象がユウコ先生の話に完全にシフトした瞬間である。
「魔法には様々な種類があります。初期魔法、応用魔法、特殊魔法、特異魔法といったものがあります。中でも初期魔法は魔力条件に適した人なら誰でも一つは使えるとされています。」
「初期魔法と応用魔法は一般的な魔法とされていて、特に初期魔法は基礎魔法とも呼ばれており、五大魔法種を介して魔力を注ぎ、そこで初めて魔法が使用できます。五大魔法の種とは火、水、木、土、風といった基本属性の媒体の
ことですね。魔法の中でも初期魔法は魔法条件に適した人なら誰でも一つは使えるとされています。」
ユウコ先生が思案げな表情を浮かべたまま説明を続ける。
「おそらく、カイトくんが魔法を使えないのは魔法条件を満たしていないからだということですね。」
げぇ¬ー、魔法条件ってなんなんだ?といった表情がユウコ先生にはバレてたようだ。
「魔法条件とは自身の魔力と先程言った五大魔法の種などの自分に適した属性の媒体をリンクさせることです。」
ってことは俺の場合、魔力が無いか適した属性が見つかってないかの2つの原因が考えられるってことか…
「それは違いますよ。魔力というものは多かれ少なかれ人間ならば必ずあるものなのです。魔法学では個人が持つ総魔力量のことを器といいます。その器とは生まれてきた時にある程度決まっているとも言われていますね。いくら器が小さくてもそれに見合った大きさの魔法を発動
することはできるのです。」
ん…ということは俺が魔法を使えないのは単に自分の適性属性を知らないだけなのか。
「そういうことだと思います。それとも、何かしらの心理的要因があるのかもしれませんね。」
心理的要因かぁ…そんなことを考えていると隣の席のラベルが近づいてきた。
「もしかして、アレが原因じゃないかなぁ?」