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鬼の瞳  作者: 市
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後日談2

「――と。これが昨日、偵察の者から届いた鷹文に書いてあった内容だ」


鷹文とは、そのままの意味でタカのフミと読む。鬼達の間で使われる、鷹を用いた長距離での情報交換である。


「…………」


「……どうした?」


「……いや、何つーか……ちょっ、悪りぃが……――ぶっ!なっはっはっはっは!」


朔魔は盛大に笑う。床に仰向けになって腹を抑えて、大口で部屋中に笑い声を響かせる。


「くひひひ……、あー面白れぇ。閻覇の野郎死んじまってやんの。至極間抜けだぜぇ、だっはっはっはっ!」


「同感だ。真祖とはいえ小娘と相打ちなど、我が里の恥」


「おおっ、意外に辛辣だなオヤジ」


起き上がった朔魔は、にやついて見つめる。


「当たり前だ。あの閻魔の血を受け継ぎ、儂自らも仕込んでやったというのに。やはり外れは外れか」


「仕込んだ、って。オヤジは力任せの闘争だろうよ。何を仕込むってんだ」


「馬鹿者。術の類いではない。――闘争とは、対峙した瞬間から始まっておってな。相手の存在、造形、覇気。それらを一目で刹那に読み取り、心構えによって最適な思考に作り替えるのが闘争の基本。その礎、つまり観察眼と屈強な精神を叩き込んでやったのだ。奴ほどの者なら、それが徹底していれば未成熟の真祖にやられる事はなかった」


「……っんだそれ。要は覚悟だろ?」



「違う。覚悟とは詰まるところ“心の諦め”だ。現状を固定する事でその先の思考を取り止め、今を今としか認識せず、最良を見出す意思を無くす行為が“覚悟”という。――酔っておるのだよ、その時の自分に。やけくそと同義でよい。冷静か熱血かの違いだけだ。負けを認める覚悟もまた然り」


覚悟を決める。という言葉は、今の時代よく耳にする。戦なり合戦が行われているこの世の中にとって、その言葉は日常茶飯事である。


事を起こす場合に、たじろぐ心を叱咤する時に使われる最後の言葉。己を奮い立たせ、不言実行の下に目的を成就せんとする意志の頂点。または退く勇気を生み出し、自尊心を消し去る黄昏の決意。

必ず訪れるであろう運命の分かれ道、そのどちらか一つを選び進む為の無くてはならない心の覚悟というもの。


――それを否定する。諦め、と。


「勝つ為の精神を創り出し、元の精神を塗り潰すと言っておるのだ。自分の為でも相手の為でもなく。勝利を見出さずして何とする――勝利とは生であり、敗北とは死である。存在が残る生には価値があり、存在が無くなる死には価値がない。何より消えれば何も残らないからな。故に勝たなければならない。覚悟では駄目なのだ。それでは闘争でなく、ごっこ遊びと何一つ変わらん」


「――くは」


にやり、と歯を覗かせる程に男は頬を吊り上げる。


「何が可笑しい」



「いや、なんていうかさ。単純に考えちまうとよ、オヤジは単に、負けず嫌いなんだなって」


「――はっ。貴様にしては言うではないか。……ふむ、そうだな。確かにそうだ。的を射ておる。くくっ」


「だろぅ?だっはは!」



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