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鬼の瞳  作者: 市
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天性の暴力と天才の武力

「……見ないのか?その眼を使えば、事は呆気なく終わるぞ」


阿夜の瞼は閉じていた。邪眼を解放すれば、この惨状を織り成した憎き相手を容易く殺せるというのに、彼女は瞳を見せない。

閻覇は、邪眼を使われた場合の戦闘も想定していた。杞憂だったのか。けれども彼女の行動を拍子抜けとはせず、単純に不思議に感じていた。


「…………」


ゆらり、と阿夜は体全体を振り向かせた。背にした村を焼く炎は、彼女の心情を表すかのよう。


「……貴様になど、見せぬ……」


また、あの恐ろしい声。至って真顔であるのに、その声は尋常でなく歪。鈴の音が、遠い昔のよう。


……彼女が心を許した者は久野という人間。穢れた瞳に勇気を与えたのは久野に対するナニか。

故に、見せても見られてもいいのは唯一無二、彼一人だけである。


「そうか。承知した――」


その思い、何一つ意味もわからず、わかりたくもなく。


言って、抜刀――


抜き取る音は一切鳴らず。

瞬きよりも速く。

閻覇は刀を振り抜いていた。

過程など最初から無く、原始と結果しか存在しない様な、そんな剣筋。


突拍子もない行動に見えたが、しかし彼の前方には、長い黒髪の鬼一つ。一瞬で三十歩を一歩にしてきて、そこから更に高速の抜刀を後退によって避けた阿夜の姿があった。慣性など無視したその動きは、まるで暴風を思わせる。


「――――」


阿夜は、右腕に顔を向けた。完全に避けた筈だったのに、肘あたりの着物が裂けて血が滲んでいた。


「浅い。いや、硬い……」


刀を納めて再び構える中、思考に刻み込む様に閻覇は呟く。

普段からの無表情を僅かにしかめた。両断とまではいかずとも、半分は断ったつもりだったからだ。彼も切狐と同じく、傷を負わせてから真祖の肉体を知る。


だが瞳は始めから朱い。切狐と違い、どんな相手にも常に全力を持って相手するが彼の礼儀である故に。










――閻覇という鬼は、恵まれない鬼だった。


同い年の子供と力比べをしては毎回負け、剣術を習っても覚えが悪く、皆からは“ハズレ”と呼ばれていた。

そう呼ばれた理由は彼の父親にある。


彼の父は、単体で都を滅せる天地彦なる鬼と、唯一争える技量を持った鬼だったからだ。

名を閻魔(えんま)。力は天地彦、技は閻魔と皆から謳われる程だった。

故に、その息子に好奇の眼差しが向けられるは必然。そして真実を知れば、皆は必要以上に落胆の色を閻覇に向けた。


彼は当然、その眼差しに悔しがっていた。父親を誇りにする彼は、自分の存在がひどく申し訳ないと思っていた。どう仕様もないこの劣りが、憎くて憎くてたまらなかった。


だから彼は努力した。


他が十なら百、百なら千、千なら万、と誰よりも鍛錬を厳しく己にかせた。

……そんな事を続ける彼に、気付けば敵はいなくなっていた。

昔に己を負かした相手を軽くねじ伏せ、剣術に至っても誰も彼には適わない。閻魔の再来と遅咲きの名誉を与えられ、彼は孤高の存在となった。

非難したくせに、という軽蔑は無かった。そうなる事が当然だと、思っていたから。


けれども、閻覇は自身を過信しなければ、慢心も傲慢もなかった。誰よりも厳しい鍛錬は孤高に上り詰めても尚続けた。

未だ父親と並べないからという訳ではなく、単純に、彼は強さを欲していた。


“強き者こそが覇者となる”


父に教えられた言葉、己の名の意味。故に閻覇は強さを際限なく求めた。


故に閻覇は強さを際限なく求めた。覇道を極める鬼と化し、いつか再び鬼の世とならん事を、一族を代表し内に秘めて。


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