箱庭 Valentine's Day
女神の箱庭I =カサナルセカイ=(http://ncode.syosetu.com/n2414bk/)
の短編になります
ラヴ・チョコレート –Hidden Story-14- After:-15-01-
2番目の月の14日目。
元の世界ではバレンタインデーにあたる日である。
しかし、前日、当日、翌日共にごたごたが続いたため既に16日。
材料を探してみるとこれが案外難しく、カカオらしき豆を見つけるのに1日。
ロブの所に駆け込み、豆からの精製法を学び、作成するのにさらに1日。
本格的に完成したのは18日になってからだった。
サプライズで渡すためにシオンすら部屋に入れていない。
そのせいかシオンが若干沈み気味であったが、部屋中にチョコレートの甘い香りが充満しているためサプライズどころではなくなってしまう。
「さて、まずは姉さんのところかな」
包装済みのチョコレートの準備は万全。すでに予定数はアイテムボックスに入れてある。
寮を出て真っ直ぐに自警団の詰所へ。
「失礼しまーす」
「あれ、カナデ?どうかした?」
目的のシズネは数人の隊員とエンマと談笑していたようだった。
もしかしたら作戦会議かもしれないが、楽しそうだったので談笑としておく。
「義兄さんも、ちょうどよかった」
「ん?」
「エンマも関係あること?」
「これ、遅くなったけど用意できたから」
可愛くラッピングされた小箱を二人に手渡す。
「もしかして、チョコレート?」
「うん。大変だったんだよ?ここまで作り上げるの」
「ありがたい」
「ありがと。うれしいけど……私も作りたかった」
エンマの方を見ながらシズネが言う。
「あはは、そういうと思って加工用のチョコレートも用意したから」
ラッピングされていない少し大きめの箱をシズネに渡す。
「さすが私の妹。じゃあ、とりあえずこれいただくね」
小箱の中には一口大のチョコレートが4つ。
ハート型のチョコレート。
ココアのかかったトリュフチョコ。
ホワイトチョコレートのハート。
中にリキュールの入ったもの。
「さすがカナデ……凝ったもの作るわね。売れるんじゃない?」
「これが手作りのレベルなのか……?」
「ここまでは期待しないでね?」
「あ、ああ」
「じゃあ、私他にもまわるから」
「うん、ありがと。……うん、おいしい」
早速食べ始めた姉が満足気だったのでそれで良しとし、次の部屋へ。
「オトハ、いる?」
「いるよー」
椅子に座って回っていたオトハがすっと着地しこちらに歩いてくる。
「はい、これ。チョコレート」
「え!?こっちに存在したんだ!?」
「頑張って作ったの」
「わー、ありがとお姉ちゃん!」
オトハのハグを受けとり、ルイの分をオトハに託し部屋を出る。
次はアンリたちの所へ行くつもりだが、廊下で見かけた後姿に声をかける。
「カケルさん」
「あ、カナデさん。どうしたんですか?」
「エイダイは中にいる?」
「いえ、今日はギルドの方っすかね」
「ありがとうございます。あ、あとこれもらってください」
「え?……これは」
「嫌いですか?チョコレート」
「え!?ああああ、ありがとうございます!」
「そんなに喜んでもらえるとは……」
お返しは必ず、と言うと軽快な足取りで2番隊の部屋へと入っていった。
そしてカナデは5番隊の部屋へと入る。
「アンリさーん」
「久しぶりカナデちゃん。ぎゅっとしていい?」
「それはちょっと……あ、これシルヴィアさんの分も2つ。私からのチョコレートです」
「!!……ありがとう。大事に食べるねっ!」
「えと、ええ。どういたしまして」
感激するアンリに見送られて次へ、8番隊の部屋へと向うもリリと出会えなかったため机にメモ書きと共にチョコを置き部屋を出る。
「さて、次はうちの隊か……」
部屋へ入ると何故か全員事務仕事をしていた。
「……そんなに仕事溜まってたっけ?」
「いえ、気にしないでください。他の隊……というか忙しい6番隊の手伝いです」
カナデの問いに、ツバサが代表して答える。
「そうだったんだ。手伝う?」
「大丈夫ですよ、もう終りましたから」
アスカが答える。
「そうか、じゃあご褒美。はい、あーん」
アスカに口を開けさせチョコレートを放り込む。
「んむ!?」
「え?!」
「えー、アスカだけずるい」
「みんなの分もあるよ。1人3つか4つはいけるはず」
かなり大きめの箱に詰められたチョコレートを机の中央に置く。
「わぁーい」
「ありがとうございますカナデさん」
「何これ、おいしい……」
かなり高評価。ここまで喜んでもらえると少し嬉しくなる。
「あれ?シオンは?」
「シオンさんなら今ちょっと出てます」
「そう……それじゃあ、シオンにあとで私の部屋に来るように言っといて。あ、シオンの分は別に用意してるからみんなで全部食べちゃっていいよ」
そういうと手を振って次の目的地へ向かう。
魔研の研究棟のゼオンの部屋ではゼオンが突っ伏して寝ていたためメモを置いて部屋を出る。
クロエに渡すと感激で泣かれ、自分の研究室は全く顔を出してないので今どうなっているのかわからないが、とりあえず箱をドアの前において、差し入れというメモを張っておいた。
研究棟を出てギルドへ。
いつも賑やかなこの場所で渡すべき人は……
「アイリス」
「あ、カナデさん。どうしました?」
「これ、よかったらお茶の時にでも食べて」
「わ、ありがとうございます。なんですか?」
「チョコレートっていうお菓子」
「チョコレート!?」
シェリーが飛んできた。
「私にも頂戴!」
「焦らなくてもちゃんと用意してきたよ」
リボンの結ばれた小箱とシェリー用に作ったコインチョコを数枚。
「さすが!わかってる!」
上機嫌で鼻歌を歌いながら自分のカウンターに戻っていく。
「さて、メリルさんは奥?」
「いえ、ついさっき2階へ」
「おっけー、ありがと」
2階へ。代表室のドアを開けるとエイダイとカミル、メリルの姿があった。
「おー、どうした?」
「はい、これ」
エイダイに小箱を投げ渡す。
「カミルさんとメリルさんにもあるよ」
2人にはきちんと手渡す。
「ありがとうございます?」
「どうも……」
「なんだこれ」
エイダイが包装を解き箱を開ける。
「これは、チョコか!」
「そうそう。せっかくだから食べたいかなと思って」
「ああ、ありがとな。一月ぐらい自慢できるぞコレは」
「義理よ?いわゆる友チョコって奴」
「わかってるよ」
1つ口に放り込む。
「久しぶりに食べたな」
1人で感慨にふける。
「あの、それでいったいどういう食べ物なんですか?」
「ああ、2月の14日目に好きな人とかお世話になった人とか、仲のいい友達とかにあげるんだろ?」
「まあそんな感じ」
「そうなんですか」
「ありがとうございます」
「いえいえ」
「しかし、美味いな。ベルギーの有名店にも勝てるんじゃねーか?」
「さすがにそれは……」
エイダイが上機嫌で2つ目を口にする。
「それで、あと誰に配るんだ?」
「一応、スズネさんとハルトさんに。組合の方はシェリー以外はロブさんに頼んで届けてもらうようにしたし……」
「そうか」
「じゃあ、行ってくるね」
ギルドを出て港にある詰所へ。
部屋に入るとハルトがいつも通り書類に埋もれ、スズネがそれを手伝っていた。
「お疲れ様です」
「ああ、カナデさん」
「こんにちは。何か御用ですか?」
「あ、ちょっと差し入れを」
スズネの手に少し大きめの箱を乗せる。
「二人でどうぞ」
「これは?」
「チョコレートです。一応、過ぎましたけど2月14日だったので」
「ああ、なるほど。私もハルトさんに手料理をプレゼントしましたが、友人にまで配る考えには至りませんでした。すみません」
「いえ、それでは仕事の邪魔をしては悪いので」
「ありがとうございます」
ハルトが一切こちらに反応しなかったが、それほど集中しているのか。
こちらをかまう余裕がないだけかもしれないが。
「これで終わり、っと。部屋に戻ってシオンを待とうかな」
寮へと向かって歩くと、ちょうど寮の前にすっかり見慣れた銀の髪の少女がたっていた。
「シオン」
「あ、カナデさん。もう部屋入ってもいいんですか?なんか、隊員たちに部屋に行けって言われたんですけど」
「うん。あれ?理由聞いてない?」
「え?あ、はい」
どうやら彼らは敢えて隠したらしい。
「そう。じゃあいこっか」
シオンの手を引いて部屋へ。
玄関を開いてい一歩踏み入れると既に甘い香りが鼻に付く。
「そういうことですか」
「そういうこと」
リビングへ入り、同じソファに腰かける。
「消臭の魔法とか使えば消せたんだろうけど、なんだかいい香りだからもったいなくて」
「なるほど。私も好きですよこのチョコレートの香り」
「シオンも女の子だもんね」
シオンの髪を撫でる。
「それじゃ、シオンの分ね」
10個ほどのチョコレートが入った箱をシオンの前で開ける。
「わ、すごく綺麗です」
10種10様。それぞれ違った装飾を施されたチョコレート。
「食べさせてあげよっか?」
「え!?」
「嫌?」
「いえ、是非」
カナデの提案に驚くが、シオンとしては大変喜ばしいことで。
「はい、ぁーん」
カナデがハートのチョコレートを唇で咥え、こちらに突き出す。
シオンは口を小さく開き、チョコレートの反対側を咥える。
閑章までたどり着いたらそちらに移動します。