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予感

ハレ…魔王見習い

アンヌ…シスター


ミルカ…神官

第九話  予感


 夜が明けて、ハレはアンヌと共に血塗城に戻った。獣になっていた少年も一緒だ。少年はまだ、気を失っている。

 城にはいると、なぜだか騒がしい。城内は、ハレ失踪に騒いでいた。

「ハレ様!」

 ロイがハレを見つけて、ホッとしていた。

「よかった……」

「心配かけたな」

 ロイがハレに抱かれている少年に気がつく。

「……どうしたのですか?」

「あぁ……ちょっとあって……この子を部屋で休ませてくれないか」

「えぇ……では」

 ロイが少年を抱きかかえる。そして、行ってしまった。

「アンヌ。少し話があるから、ちょっといい?」

「えぇ」


 ハレの私室。アンヌをイスに座らせて、ハレはベッドに座った。

「どうしたの?」

 アンヌは首を傾げている。

「……昨日のことだけど」

 アンヌの顔つきが険しくなる。

「アンヌは関わらない方がいいと思う」

 その言葉にアンヌは首を振る。

「だって、アンヌは教会のシスターだから。相手は教会の者だぞ!俺はアンヌが裏切り者扱いを受けて欲しくない」

 ハレは、そう言って俯いた。今回、教会の者が本気で魔王であるハレを殺そうとしている。それならば、アンヌはハレと一緒にいることが不利になる。

 しかし、アンヌは笑っていた。

「ハレ、教会の者があなたを殺そうとしていることなんて関係ないわ。要は、私がどうありたいかなの」

「……アンヌ」

「私は、私が考えるようにするつもりよ。だから、教会が敵であっても、私は、ハレの力になりたい」

 その言葉はハレには嬉しかった。ハレの精一杯の感謝を込めて、言った。

「……ありがとう」


 少年が気づいたとの報告を受けて、ハレとアンヌは、少年の部屋に行った。

 少年は、もう大丈夫のようで、朝食をとり終わっていた。ハレが、部屋に来たのを見て少年が、一礼する。

「あ、魔王様ですよね……ありがとうございます」

 元気そうな様子を見て、ハレは安堵した。

「いや、元気そうでよかった」

「は、はい……」

 少年はどこか緊張していた。

「ところで、君に聞きたいんだけど、どうして、獣に……」

 少年はハレの問いに俯く。そして、恐る恐る口を開いた。

「……若い男の人が、強くなれるって……俺、みんなと違って、弱虫だから」

 少年は泣きそうだった。自分のやってしまったことの重さに、押しつぶされそうで、精一杯、それに耐えようとしていた。

「……そんなことないよ」

 ハレは、笑ってみせる。そんな、少年の不安を吹き飛ばすかのように笑ってみせる。

「俺だって、いっぱい弱点あるし……君だけじゃないよ」

 そう言って、ハレは一歩踏み出せない自分を思って苦笑いをした。

「勇気を持つって簡単に言うけど、難しいよ。だって、今までの自分を捨てるみたいで。けど、やっぱりきっかけって言うのが大事なのかな……偶然起きたことでも、それが、きっかけになっていって、あれは変われる必然だったんだって思えるようになればいいんだから。今、どうにかしようと焦らないで、大きく構えればいいんじゃない?」

 何もできない自分に対して言っていた。

――勇気を持つということ。

 それが、どんなに難しいことか、ハレには分かっている。けれども、諦めてはいけないのだと、ハレは思う。いつか、必然となれるように。明らめる《あきらめる》|気持ちこそが、勇気につながっていくのかもしれない。

 少年は、笑顔を見せる。

「うん」


 ハレは、アンヌと少年をヌアンまで送って行くことにした。

 ヌアンの大通りに降り立ち、人々がざわついた。

「みんな、聞いて欲しい」

 ハレの言葉に、住民達が静かになった。

「今回のことで、この子から話がある」

 少年がハレたちの前に出た。人々は、少年を見てざわつく。

「あ、あの!皆さん!……その……ごめんなさい!」

 少年が深々と頭を下げた。その様子に人々は困惑の色を浮かべている。

「今回の事件は、俺のせいなんです!」

 少年は涙をこぼしていた。

「俺が……!」

 必死に謝る少年に人々は何も言えなかった。

「もう、泣きやみなさい」

 年配の女の人が前に歩み出て、少年の肩に手をおく。

「もう大丈夫だから……襲われた人も、魔力は戻っているから」

 少年は手で涙をぬぐう。

「……はい」


「本当に良かったな」

 街の広場、ハレはアンヌにジュースを渡す。

「えぇ……これで、街の方は安心だわ……でも……」

 アンヌは言葉を濁した。

 ハレは、狙わることには変わりがないのだから。

「俺は大丈夫。何とかして、ラグナを捕まえるつもり……いろいろ聞きたいことあるし……」

「そう……できることがあるなら私も協力するから。一人で抱え込まないでね」

 アンヌは微笑んでいた。ハレは、空を見上げて頬をかく。

「……あぁ、お願いするよ」


 ハレは、アンヌと別れて、城に戻ろうとしていた。その前に、大通りをぶらぶらと歩く。たくさんの人々が行き交う中、その中に、見覚えのある影を見た。

――あの赤髪……。

 ハレは慌てて追いかけて、その人の肩を掴んだ。

「おい!ミルカ!」

 その人は振り返る。忘れもしない長い赤髪の、一見、美少女に見える少年――ミルカ。彼は青ざめた顔で、ハレを見た。その冷たい瞳、今までのミルカにはなかったものだ。

 思わず、ハレはその手を引いていた。

「誰だ……?あんた」

 ミルカがハレの手を払う。ハレはミルカではないように感じた。

「誰って……俺だよ。ハレだ……」

 ミルカは不快そうに眉を寄せて、踵を返す。

「生憎、俺には魔族の知り合いなんていない」

 人違いだろ。そう言って、ミルカは再び、人ごみに消えた。

「……ミルカ」

 言いようのない恐怖を感じた。

 ハレは、逃げるように城へと戻った。


 城に帰ると、じいが戻ってきていた。じいを廊下で見かけて、ハレは、気付かれないように部屋に戻ろうとしていた。

「これは、ハレ様」

 じいが気づいて、ハレに声をかける。どきっとして、ハレは動揺してしまっている。

「よ、よっ!じい。戻ってきたのか……」

「ハレ様が心配でしたので」

「そうか……」

 ハレは、ふうと息を吐く。

「ハレ様……何か悩み事でも?」

「い、いや……大丈夫だ……」

 そう言ってハレは慌てて部屋に戻った。


 ミルカの変化が、少なからずハレにはショックだった。

――あのとき、何か言いたそうだったのに……。

「くそっ!」

 ハレはただ、それだけしか言えなかった。


ミルカ再来。


次回、序章の終わりです。

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