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魔王と教会

ハレ…16歳、魔王見習い。

じい(テトラス)…ハレの教育係。魔族の中でも上位。

アンヌ…16歳、シスター。


セヴィケル…教皇領の宰相。魔王討伐をもくろんでいる。

第二話 魔王と教会


 ここは、教皇領、聖都ヴェルダン。その王宮の会議室。神官達が集まっていた。

「魔族共が魔王を中心に結束を始めておるらしいですぞ」

 強面の神官がそう言いだした。別の神官が鼻で笑う。

「なに、まだ自分の力も使えんようなひよっこじゃあないか」

 取るに足らんと笑っている。

「しかし、西の蛮族と手を結んだら厄介ですぞ」

 神官同士で言い合いを始める。

「黙れ。者ども」

 たった一言だった。神官たちの動きがぴたりと止まる。

「も、申し訳ありません……セヴィケル様」

 その争いを止めたのは、上座に座る煌びやかな法衣を着た長い金髪の髪の美丈夫だった。彼は自信と威厳に満ちており、近寄りがたい。彼こそが教皇領の宰相、教皇を擁し、名実ともに教会の頂点に立つ者だ。

「確かに、魔王はまだひよっこだ」

 セヴィケルは笑う。

「しかし、芽は早いうちに潰しておくものだ」


「魔王討伐ね……」

 聖都の王宮の一室。金髪の青年が呟く。青年は壁に背中をあずけて立っている。青年は白い法衣に身を包んでいた。

「乗り気じゃないんでしょう?」

 青年はソファで丸くなっている紅髪の少年に問う。

「……俺は行かない。そんなこと、下っ端に任せろよ」

 少年は長い髪を高い位置に一つに結えており、一見美少女と見間違えるほどの容姿をしていた。こちらは、白の法衣を身動きしやすいように着こなしている。そして、右の二の腕には剣を持つ竜の聖痕と古い教会文字の刻印があった。青年がにこやかに少年を見る。

「そうそう、同じ年だってよ、魔王。お友達になれたらいいね」

 驚いた少年は、起き上がって、青年に喰ってかかる。

「馬鹿言うな!考えただけでも恐ろしい!」

 青年は声をたてて笑う。

「うん。まぁそうだと思ったよ」

 その返答に、少年は不服そうに青年を睨みつけている。

「取り合えず、命令だし、下っ端を送っといたよ。まあ、どこまでやれるか、拝見しておこうかな」

 青年が不敵に笑った。


 ハレは血塗城の二階のバルコニーから街を見ていた。

 黒き大地のヌアンにて。アンヌが来てから一週間が過ぎた。アンヌは毎日のように奉仕活動を行っていた。一生懸命に頑張っているアンヌを町の人々は温かく迎え入れた。

――アンヌ、すごいな……。

 こほん、という咳ばらいが聞こえて、ハレは振り返った。じいが立っている。

「じい」

「考え事ですか?」

「ん……アンヌのことを。アンヌってすごいな……って思って」

「……全くですな……」

「あれ?じいアンヌのこと嫌いじゃ……?」

「嫌いじゃありません」

「へ?」

 じいがヌアンを見て答える。

「私の息子夫婦は教会の手にかかったのですから、感情的になっていたのでしょう……彼女を恨む理由なんてないのに」

 じいのその言葉はつらく聞こえる。

「でも、じいの気持ちは俺にもわかるよ……やっぱ、許せないって思うんだよな……」

「ハレ様……」

「けど、アンヌは違う。俺はそう思う」

「そう、ですな……」


 あれからじいと別れて、ハレはヌアンへと行った。街は相変わらず、活気に満ちている。中央広場に行ってみるとアンヌが子どもたちと遊んでいた。

「アンヌ」

 ハレの呼ぶ声にアンヌは振り返る。

「あら、ハレ」

「どうだ?調子は?」

 ハレは頬をかいている。

「私は、元気よ。ここの皆さんも優しいし、とても楽しいわ」

 アンヌは笑顔を見せる。

「そっか、それなら良かった」

 ハレもつられて笑う。

「教会の方々は、魔族は卑しいっておっしゃっていたけど、そんなことはないわ。皆、素敵な方ばかりよ」

 アンヌのその言葉にハレは嬉しくなる。

「ありがとう」


 ハレとアンヌは広場のベンチに座って遊んでいる子どもたちを見ていた。

「こう見ていると魔族も人間も同じに見えるわ」

 アンヌは子どもたちを見て微笑している。

「……でも、魔族の方、喧嘩するときに本来の姿に戻る方もいらっしゃるから、心臓に悪いわ……」

 その言葉には、ハレも苦笑いを浮かべている。

「まぁ、変な奴、多いから」

「……ハレも、変身とかするの?」

 アンヌが真剣になって尋ねてきた。

「いや……俺は魔王って言っても、実際、魔族だったのはじいちゃんらしいし、親父は半分人間だし、俺は割と人間寄りなんだよな」

「え、そうなの?……なんだ……期待して損したわ」と、ガックリと肩を下ろす。

「……」

「あのおじい様は?」

「じいのこと?」

 アンヌがうなずく。

「……じいは、竜族って言ってたぞ。竜族の中でも結構上の方だって。ていっても、竜族は異世界の種族だし」

 竜族は、この世界の種族ではない。この世界、ガイヤと一般に呼ばれる、に隣接していると言われる世界、俗にいう天界にある竜の里と言われる所に住んでいる。

「え、竜族なの?」

 アンヌが目を見開いている。

「あぁ」

 竜族は、人間と魔族に火と言語を与えたことで有名だ。そのため、竜族は人間から自然神として崇められている。

「じゃあ、血塗城にいるっていう竜ってあのおじい様のことなのね」

 そう呟いて、アンヌは頷く。

「教会の方々は竜を保護しようと躍起になっているから、大変だわ」

「そうなのか?」

「えぇ。今実際に、教皇領内に竜が二匹保護されているそうよ」

 アンヌのその言葉に、ハレは驚きを隠せない。

「本当か!」

「えぇ……確か、一匹はトロアの神殿にいるそうよ」

トロアの神殿は竜を祭る神殿だ。

「そして、もう一匹が聖都にいるそうよ」

「え?」

 その言葉にハレは驚いた。

「……アンヌは会ったことあるのか?その竜に」

「え、私……?」

 アンヌは笑う。

「私は聖都に住んでいたって言っても、聖都近郊の修道院に入ってたから、王宮には、お祭りの時ぐらいしか……それに竜とかは上層部しか会えないから。私は噂を聞いただけよ」

「でも、その話は本当なんだろ?」

「えぇ。本当よ」

 その話からすると、じいの息子と孫は生きている可能性がある。ハレは黙り込んで、そのことを考え込んでいた。

「ハレ、竜のこと気になるの?」

 アンヌにそう言いあてられ、ハレはどきっとした。

「あぁ……まぁ、ね」

 それなら、じいは助けに行けばいいのにと思う。じいはそのことを知らないのか。そう思ってハレは立ち上がる。

「ごめん。用事、思い出した」

 そして、血塗城へと戻った。


 じいは廊下で部下と話していた。じいがハレに気づいて、部下を下げる。

「ハレ様。勉強の時間ですぞ」

 ハレは、顔を引きつらせる。

「……う、うん」

「さあ、部屋に」

 じいがハレ部屋に行くように促す。ハレは慌ててじいを制した。

「あ、あのさ」

「なんですか?」

 じいは怪訝そうな顔をしている。ハレは一息ついて、話を切り出した。

「竜って、今、教皇領に二匹いるんだって」

 じいは、はぁ、と一息つく。

「そのことですか」

 明らかに呆れているようだった。ハレは意外だった。じいが烈火の如く怒ると思っていた。ハレは、呆気にとられてしまった。

「助けに行かないのか?」

 じいはただ淡々としていた。しかし、心なしかじいの瞳に揺れるものを感じる。

「行っても返り討ちにあうだけですぞ。竜の対処の仕方は奴等がよく知っている」

「どういうことだ?」

「あちらの方が一枚上手なのです」

 その声には悔しさがにじみ出ていた。

「……じゃあ!」

「今はまだ……ワシはあの二人が殺されないことを祈っているしかないのです」

 じいの表情は暗く、怒りを感じた。ハレは何も言えず黙り込んだ。

 ――力が欲しい。

 ハレは歯を噛みしめる。無力な自分が恨めしい。

 

 次の日。ヌアンにハレが行ってみると、街はものものしい空気に包まれていた。広場に行ってみると、人が集まっていた。

「おい。これはどうしたんだ?」と、近くの男に聞いてみた時、

「神官様!どうしてこのようなことを!」

 アンヌの非難する声が聞こえて、ハレは慌てて人ごみをかき分けて行った。

神官とアンヌが対峙している。アンヌは怪我を負っている魔族を庇って立っていた。

「シスターよ。あなたこそ何をしているのです?魔族なんかと一緒になって……情けない」

「神官様!」

「魔族なんてこの世に不要なのです」

 その言葉にアンヌは必死に抗議する。

「そんなことありません!聖女アンナと聖女テレサは魔族のために活動をしておりました」

 神官は薄く笑う。それは明らかにアンヌを馬鹿にしていた。

「だから、彼女らは亡くなったのですよ」

「!」

 アンヌは泣きそうな顔をして、俯いていた。

「おい。お前!さっきから黙って聞いてれば……!」

 ハレが前に進み出る。

「なに勝手なことを言ってるんだ」

「貴様は……!」

「ハレ!」

 神官の目の色が変わる。獲物を見つけたような目つきをしている。

「あんた、神官のくせに眼付悪いな」

 ハレはそう言って嘲笑う。神官も笑っている。

「ここにいたのか。魔王。ようやく見つけた」

「神官様!」

 アンヌが神官を止めようとした。

「放せ!小娘!」

 しかし、アンヌは神官に突き飛ばされる。

「アンヌ!……貴様!」

「ははは……上からの命令だ。魔王を殺す!」

 神官が手に持っていた木の杖を構え、ハレに突撃してくる。そして、その杖を振り回した。ハレはその杖を手で掴む。

「上からだと……!」

「そうだ!魔王討伐命令が下ったからな」

 神官は杖を思いっきり振り、ハレを振り払った。そして、神官は杖を持って、ハレににじり寄る。

「……や、やべ!」

 丸腰のハレは、後ろに引いていた。

「ハレ坊」

 八百屋の店長の声が聞こえて、振り向くと、剣を投げ渡される。

「これなら大丈夫だろ」

「……店長、こんなの持ってるんなら、店長が!」

「ハレ!前!」

 神官が杖を振り上げていた。

「げっ……!」

 慌てて剣を抜いて、その杖を真っ二つに切った。そして、左手に持つ鞘で神官の峯を打った。神官がばたりと倒れる。

「ふぅ……アンヌ。大丈夫か?」

「えぇ……」

 アンヌがよろよろと立ちあがる。

「しかし、魔王討伐か……」

 溜息をついた。その時、神官が、ゆっくりと立ち上がる。

「まだ、覚醒していないと聞いて手加減をしていたのだが、もう、手加減は不要だ。殺してやる」

 神官の眼は血走っている。

「見よ!神の力を!」

 神官の背中に白い一対の翼が生える。

「!な、なんだ!」

 そして、神官はふわりと浮きあがる。

「賤しき者共も皆殺しだ」

 神官は高笑いをして、手を突き出した。

「まずい!逃げろ!」

 ハレが、人々に声を張り上げて叫んだ。しかし、遅かった。神官の手から、魔力の塊が放たれる。それは、拡散して、周囲にいた人々をも狙っていた。

「みんな!」

 逃げ遅れた人々が、呻き声をあげて倒れている。

「ははは……!次は魔王だ!死ね!」

「ち……!」

 ハレが舌打ちをして神官を見上げていた。


「ハレ様!」

 じいの声が、天から聞こえて空を見た。じいが下りてくる。

「何と!これは……!」

 じいは驚愕していた。そして、神官を見据える。

「天使だと……!おのれ!セヴィケルの奴め!」

 天使はじいを見て笑っている。

「何人増えようが、同じことだ!死ね!魔族め!」

 神官が魔力の塊を放つ。

「ふん。このワシも低く見られたものよ」

 じいは神官の放った魔力の塊を、右手で受けとめると、跡形もなく消し去る。

「魔力はこう使うものだ」

 神官の周囲に風が巻き起こる。それは、神官を切り刻んでいく。そして、神官は地面に落ちた。

「く……魔族ごときが……!」

 神官がよろよろと起き上がり、隠し持っていたナイフを持ちハレを狙った。

「ハレ様!」

 とっさにハレは鞘で神官の溝内を突いた。

「かはっ……!」

 神官は、ゆっくりと倒れた。


「しかし、天使とは、厄介な連中を……」

 じいがため息をついている。

「天使って……」

 ハレがじいに問おうとしたときだった。アンヌがハレの側へとやって来る。

「ハレ。怪我はない?」

「あ……うん……」

「……神官様」

 アンヌが座り込んで神官に触れる。その瞬間、アンヌの顔つきが変わった。

「まさか……」

 アンヌが短く何か呟くと、神官の体の中から水色の宝石の破片のようなものが出てくる。

「やっぱり……」

 アンヌがそれを手に取った。じいが驚いて、アンヌを見る。そして、

「アンヌ殿。なぜ、あなたがその方法を知っている?」

 じいが厳しい口調でアンヌを問い詰めた。

「そ、それは……」

 アンヌは俯いて、何も答えない。

「まあ、話したくなければそれでよかろう。アンヌ殿。それを返してくれないだろうか」

「はい……」

 アンヌはじいにその破片を渡した。

「じい。それは?」

 ハレが破片を覘き見る。

「これは、教会の連中が聖石の欠片と呼んでいるものです。しかし、本当は……」

 じいは言葉に詰まって、それ以上は口を開かなかった。


 聖都――その王宮。中庭でセヴィケルは佇んでいた。

「そうか……魔王は思った以上なのだな……」

 セヴィケルは笑う。

「しかし、この私にはかなうまい」



これからちょこちょこキャラが増えます。



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