岬の駅
この小説は、組曲「線路」の中の「岬の駅」という曲を元に作った小説です。
設定に足りないところがあることをご容赦ください。
私は、幼い頃よく景色を眺めに柵を超えて入った駅を訪れた。
今もあの頃と同じようにこの駅に列車が止まることは無い。
あの頃よりも線路を隠している草の背丈は高くなったようだ。
さぁっと、磯の香りを運ぶ風にハマナスが寂しげに揺れていた。
寂れたベンチに腰を下ろし目を閉じるとあのころのことを思い出す。
この駅から海のほうをずっと眺めていると、岩と見間違えんばかりの沈没船が見えて
大人にあの船は何故沈んだの?と聞くと
「あの船はね、嵐のせいで沈んだのよ。」
と答えてくれたけれども、近所に住んでいた老人だけは
「あれは嵐などではなく戦争で沈んだのだよ。」
と遠くを見るような目で私に語ってくれたのだった。
その目を見た私は、子供心にも恐怖を感じこの老人は嘘をついていないのだなと感じたものだった。
少し強くなった波の音に過去の回想から帰ると
私はふっと時計を見た。
時計はもう夕食の時間を過ぎていた。
「もう、家に帰らなければ・・・・。」
腰掛けていたベンチから立ち上がると線路の向こうにある海に視線を向ける。
大海原はあの頃と変わらず、美しく雄大に果てしなく広がっていた。
私は昔の思い出にしばらくの別れを告げ、今自分を待っている家族の下に帰るのだった。