17
二度目に起きた火災が街の人々に与えた影響は大きかった。人が死んだためそれは無理もないことだったが、普段から火の扱いに気をつけている区域での火災が、一度目の火災と同様、明らかに人為的なものであると考えられたせいもあった。祭礼を控えた時期に間を置かずして起こった相次ぐ災厄は、自然と同一の人物によって起こされたものであると考えられ、まだ捕まらぬ犯人に不安は高まるばかりである。
若衆の見回りは祭礼の準備や剣舞の稽古の合間に厳重に行われた。須樹と仁識の範もまた休む間もなく見回りを続けていたが、火災から二日経っても狼藉者の手がかりを得ることはできなかった。二回目の火災はまさに彼らが担当する地区内で起きたため、街の人々の常にない緊張と不安が彼らにも痛いほどにわかる。彼ら自身が焦りと苛立ちを感じ、手掛かりすらない相手への怒りを募らせていた。それは街の警吏とて同じである。本来ならば火災を起こした犯人を捜すのは彼らの管轄であり、若衆の若者達がその領分を侵すことに反発が出てもおかしくはなかったが、今回ばかりは彼らもそれに目を瞑っていた。
しかし一点の不吉な影を内包しつつも、祭礼への準備は着々と進む。すでに各地から訪れた人々――祭礼に詣でる者、祭礼に乗じて儲けようとする者、そしてそれを迎える者で街は活気付いていた。街の外延部もそれは同様である。名高い多加羅の祭礼を一目見ようと集まる人々の中でも、貧しい者は中心部の宿屋に泊まることはできない。彼らは僅かな貯えで街を囲む隔壁に近い安宿に身を寄せ、一年の疲れを癒すかのように、すでに街に籠る祭礼の熱気に酔っていた。
「仁識、ちょっといいか?」
須樹が仁識に声をかけたのは、街の見回りを一旦終えて鍛錬所へと戻る途中、神殿の側近くに差し掛かった時のことだった。仁識は胡乱な表情で須樹を振り返り、肩を竦めて立ち止まった。その様子を傍らで見ていた灰は、他の若者達と共に先に行こうとして須樹に呼び止められた。
「灰もいてくれ」
三人は前を行く若者達と距離をとるようにゆっくりと歩きながら、緩やかな坂道を歩く。次第に近づいてくる神殿の周囲だけは祭礼の興奮もさほど見られず、いつもと変わらず静かだった。
「なんだ、あらたまって」
仁識がなかなか話を切り出さない須樹に声をかける。須樹はしばし迷うようであったが、ようやく話を切り出した。
「二人には今後の見回りからは外れてほしい」
灰にとって、そして仁識にとっても予想していなかった言葉である。思わずまじまじと須樹の顔を見れば、そこには真剣な表情があった。
「なぜ?」
「今のこの騒ぎは普通じゃない。二人がこの先外延部をうろつくことはやめたほうがいいと思う。他にも清志と波良も抜けた方がいいな」
いずれも仁識の範に属する貴族の少年である。意味するところを素早く悟った仁識の眉がきつく寄せられた。
「どういうつもりだ。私たちが邪魔だとでも言うつもりか? 貴族は足手纏いだとでも?」
須樹は無言でいる灰をちらりと見やり、僅かに逡巡しながらも言った。
「はっきり言えばそうだ。あの地区は俺達には馴染みがあるが、よく知らない者がうろついていい場所ではない。特に貴族に対して反感を持つ輩も多いからな。人が死ぬ事件まで起こってこれだけ不安定になっている時には、なるべく刺激しない方がいい。それにその方が俺達にとっても動きやすいんだ」
深夜の火災から一夜明けた昨日は、見回りはまったくの徒労に終わった。おそらく犯人を見つけ出すことは困難を極めるだろうことを、すでに彼らは気付いている。そもそも日中に街を見回ったところで見つかるわけもないのだ。火災が起こったのは早朝と深夜という、いずれも人目のない時間帯である。
そして須樹は街の人々の間に密かに高まっている危険な兆候に気付いていた。自身も似たような地区に住む須樹だからこそ気付いたことだった。
街の中心部に近い場所で起こった一回目の火災は、放火ではあっても人死の出るようなものではなかった。しかし間をおかずして起こった二回目のそれは、家々が密集し、一度火が起これば容易に燃え広がる木造の家で起こった。それが意味することは、一回目と違い犯人は明らかに害意を持って火をつけたということだ。
街の最下層として貧しい生活を強いられ時に蔑視される外延部の人々は、もとより己に害なす者に敏感であり、排他的でもあった。ふとした弾みで溢れ出した怒りが己とは異種の存在に向けられることはよくあることなのだ。今回の事件で鬱積した不安や怒りが溢れれば、その矛先が例えば彼らには望むべくもない豊かさを享受し、支配の最高位にいる貴族の子弟に向けられることもあり得ないことではない。
「頭には俺から言おうと思う。どちらにせよ祭礼が近いから仁識は剣舞に専念した方がいい。頭が何を言うにせよ、一番の舞い手は仁識だからな。中央を務めるに相応しいことは皆が知っている。見回りを抜けると言っても誰も反対はしないさ」
「前にも言ったが私は剣舞などどうでもいい。そのようなものになど興味はない。それに須樹が言っていることを信じるに足る証がどこにある。なおさらに疎ましい事態にならんとも限らんだろう。私はそういう厄介事に巻き込まれるのは御免こうむりたい」
仁識が思わぬ強さで言った。灰はなおも黙ったまま、その様子を見守った。
仁識という少年は、冶都が言ったように言葉こそ辛辣ではあるが、根底には一貫した公平な視点があるように灰は感じていた。加倉との諍いを取り沙汰されていても、それはどうやら加倉が一方的に敵視しているに過ぎず、仁識はそれを淡々と受け止めているだけである。そして家柄や親同士の力関係、確執といったものがもたらす周りの視線や憶測を、最も疎ましく思っているのは仁識自身なのだろう。
須樹は仁識の言葉にも意見を変える気はないようだった。いつになく厳しい表情で首を振る。
「いや、だめだ。この際頭の戯れにつきあうべきじゃない。たとえそれで立場が複雑になってもな」
「いい加減本音を言ったらどうだ」
仁識は苛立たしげにため息をついた。
「要は灰様が心配なんだろう。お前は灰様を見回りから外したいだけだ。だが一人外すのは外聞が悪い。惣領家の者だけ特別待遇だの、意気地がないだの言われるのは目に見えているからな。それを防ぐために私にも外れろと言っているだけだろう」
凝視する灰から須樹は視線を逸らした。苦々しいその様子が、仁識の言が的を射たものであることをあらわしていた。
「待ってください俺は外れる気はないですよ」
思わず灰は言う。
「心配してくれるのは有り難いですけど」
「心配というよりは単に足手纏いなんですよ」
仁識が呆れたように呟くのを灰は無視する。須樹が灰を案じるのはもっともなことに思える。灰はまだ若衆に入って間がないうえ、剣術もはじめたばかりである。身の軽さと反射神経の良さで目覚ましく腕をあげているとしても、年長者に伍していけるわけではない。それは灰自身が自覚していることであり、何か起こった時に須樹が真っ先に灰を庇うであろうことを思うと、確かにお荷物には違いなかった。
だが、それをわかってなお灰は須樹の言葉に頷くことができなかった。自分でも掴み切れない強い感情が、直感的なそれが否、と告げるのだ。そしてもう一つ、灰には肯えない理由がある。街のどこかに潜むという闇を探るために、見回りは恰好の機会なのである。いまだその気配を感じることはできないが、峰瀬が言う通り闇が街のどこかにいるのであれば、灰は地道にそれを探っていくしかないのだ。無論、それを言うことはできないが――
気まずさに三者三様の表情で黙り込んだその時、唐突にその沈黙が破られた。
「灰!」
大音声である。ぎょっとして振り向く三人に向かって大股に近づいてきた声の主は、一目で多加羅の者ではないことがわかった。褐色の肌に金の混じった碧の瞳である。鋼色の髪は短く刈り込まれ、長身でありながら無駄なく引き締まった姿は敏捷さを感じさせる。精悍な顔立ちは、その瞳もあいまってどこか野生の鷹を思わせた。
「丈隼」
驚きとともに、灰の口から自然とその名が零れ落ちた。六年経っても見忘れようはずがない。なぜ、と問う間もなく目の前に迫って来た相手は、呆気に取られている須樹と仁識に構わず、問い詰める口調で言った。
「生きていたならなぜ知らせなかった! 叶がどれほど心配していたと思っているんだ!」
「悪い」
灰は小さく呟くと、須樹と仁識を振り返る。
「すみません、先に行ってください」
灰は丈隼とともに二人から離れた。
置き去りにされた体の須樹と仁識は思わず顔を見合わせた。何事かを言い合う二人をそのままに歩き出す。灰の様子には、二人がその場に留まることさえ拒む雰囲気があった。須樹は次第に遠ざかる二人を振り返り、奇妙な感覚に襲われる。それは二人の姿がまるで周りから切り離され遊離しているように見えたためだった。丈隼という青年の外見のせいばかりではないだろう。髪を隠してはいても、灰の相貌と不思議と目が惹きつけられるような独特の雰囲気が、さらに周囲から浮き上がって見せているのだ。場所が神殿に程近い所であったため人通りは多くなかったが、道行く人々もまた二人の姿を物珍しげに見詰めていた。
須樹と仁識から離れ、灰は改めて丈隼に向き合った。丈隼は喜びと、困惑と、そして怒りをないまぜにした表情で灰を凝視していた。
「なぜ丈隼がここにいるんだ?」
「叶が街で見かけたと言い張るから確かめに来たんだよ。昨日一日、街中捜しまわったんだぜ。半信半疑だったが、まさか本当にいるとはな。六年間もなぜ連絡を寄越さなかった」
「あの後すぐに森林地帯に住む親戚のところに預けられたんだ。その親戚が一年前に亡くなって、今は多加羅のある人のところに一カ月程前から身を寄せている」
「心配したんだぞ。あんなことがあった後に警吏の宿舎から忽然と姿を消して音沙汰がないから、やばいことに巻き込まれたんじゃないかって」
「うん、ごめん」
言葉少なな灰の表情に、ふと丈隼は沈黙した。その瞳に沈痛な色が過る。その影を振り払うように、丈隼は笑みを浮かべた。
「まあ、いいさ。こうして会えたんだから。それにしても多加羅にいたとはな。さっき一緒にいた連中はまさか若衆なのか?」
「そのまさかだよ。多加羅に来てすぐに入ったんだ」
丈隼は唸った。
「來螺で生まれ育った奴がよりにもよって多加羅の若衆だと。そんなことは聞いたことがないぞ」
灰は思わず苦笑した。国境地帯に属し、帝国の支配下にはない街はどれも自治意識が強い。多加羅と表面的には友好関係を築いていても、その実並々ならぬ警戒心を抱いているのだ。彼らにとって多加羅はあくまでも白沙那帝国の一部であり、多加羅の介入はすなわち帝国がその支配を彼らにも及ぼそうとしていることを意味するため無理もないことだった。
「丈隼も祭礼の興行に来たのか」
「ああ、俺は芸能家じゃないから単なる自警団の一員としてだがな。宿営所の警備のためだ。叶は違うぜ。今では楽都の売れっ子奏者だ。今回の興行では間違いなく目玉の一つになるだろうよ」
「叶は母親の後を継いだのか」
「ああ。今年に入ってからだが正式にお披露目があった。歌い手の座はまだ空いたままだがな。紫弥さんの印象が強過ぎて次の新しい歌い手が客に受け入れられないんだ。そのせいで専属の歌い手は抱えていない。今でも楽都では紫弥さんの歌声が語り草になってるぞ。小さかった俺でも覚えているくらいだからなあ。天上の歌声と言われていたのも頷ける」
「そうか……」
楽都は來螺でも有数の酒場である。來螺の酒場はほとんどが歌や演奏、舞や演劇といったものを客に供する。大店であれば歌い手や楽器の奏者、舞い手といったいわゆる芸能家を専属で抱え込むことも珍しくはなかった。楽都のお抱えの歌い手であった紫弥が舞台に立つ姿を、灰は毎夜のように舞台袖から見ていたのだ。
そして灰は先日の出来事を思い出す。男に絡まれ、しかし臆することもなくそれを睨みつけていた乙女の面影が、六年前の勝ち気な少女の姿と重なる。叶の母親もまた楽都のお抱えの奏者であり、紫弥とはまるで姉妹のように育った仲である。灰と叶は自然と姉弟のように幼い頃を過ごしたのだ。
「叶は六年前とあまり変わっていなかったな」
これには丈隼が妙な顔で灰を見詰めた。何かを言いかけ、しかし僅かに天を仰いで呆れたようにため息をついた。
「そうだった……。お前はこういう奴だったよ。がきのころからぼけてんだが、鋭いんだか……あの叶を見てそんなことを言うのはお前くらいだぞ」
「叶は昔から気が強かっただろ?」
「……まあ確かにそうだが、そういうことじゃなく……まあ、いいや」
丈隼はごにょごにょと呟き、気を取り直すように言った。
「とにかく、一回叶に会いに来いよ。叶がどれだけお前のことを心配していたか……見てるこっちが辛いくらいだった。今日も一緒に捜すというのを何とかやめさせたんだ。この前みたいに街の連中に絡まれたらたまったもんじゃないからな」
灰の僅かな逡巡に丈隼は気付かなかった。彼もまた昔とさほど変わっていない。叶が灰にとって姉のような存在であれば、丈隼は兄のような存在だった。その豪放磊落な性格は今も変わらないようだ。六年の断絶を物ともせずまるで変わらぬ態度で接してくる丈隼は、灰が戸惑うほどまっすぐな視線を向けてくる。
「わかった。会いに行く。祭礼が終わるまではいるんだろう?」
「ああ。祭礼の次の日には來螺に戻る。お前が来れば叶が喜ぶ。自警団の一員の中にはお前を知っている奴もいるからな」
丈隼は大きく笑むと言った。
「俺も、お前が無事でいてくれたのが嬉しいよ」
灰には答えることができなかった。不意に胸が詰まるような感覚に襲われる。それはかつて知っていたどの感情にも似てはいなかった。追憶に伴う寂寥と苦痛でもなく、仄かな感傷や愉悦でもなく、まるで奔流のように溢れ出す。灰はその瞬間、永遠に孵らぬ卵のように己の奥深くに埋もれていたもの――過去の記憶であり、封じ込めた幼い彼自身の幻影が破れ、新たな形を纏って動き出すのを知った。
まだ名残惜しげな丈隼と別れ、鍛錬所へと向かった灰はすでに一つの決心をしていた。古びていながらもどっしりとした鍛錬所が近づくにつれ、大気に混じる山の気配が強くなる。たった一度足を踏み入れただけの惣領家の屋敷は、そのけぶる霞のような淡い気配に包まれて遠く聳えていた。
鍛錬所では須樹と仁識が灰を待っていた。中断された話の続きをするためであることは一目見て灰も気付いたが、須樹の表情には懸念が、仁識の表情には隠そうともしない好奇心がある。
「昔馴染みですか?」
開口一番の仁識の言葉だった。横合いから須樹が詰るような視線を送るが、頓着せずに仁識はなおも言った。
「国境地帯の者に見えましたが、まさか灰様があの辺りの連中と馴染みがあるとは知りませんでしたよ」
「俺は八歳までを來螺で過ごしました。丈隼はその当時の知り合いです」
あっさりと答える灰の言葉に慌てたのは須樹だった。
「灰、無理に言う必要はないぞ」
「いえ、むしろ知っておいてほしいんです」
「じゃあ、この前街で会ったあの娘も知っていたんですか?」
「はい。叶は俺の母親と同じ酒場の舞台に出ていた芸能家の娘です。今は彼女自身が芸能家になっているようです」
ふうん、と仁識は鼻にかかった声を出した。須樹は途方にくれたような表情で黙り込んでいる。無理もない、と灰は思う。多加羅の人々が來螺に持つ印象がどのようなものか、灰とて知っているのだ。
怠惰と快楽の街、虚飾の街、堕落の街――そのどれもが來螺の一面であり、薄皮一枚の仮面である。その裏に秘めた闇の深さを人々は知らない。灰の記憶に沈む來螺とは、欲望のままに飽食してなお享楽を求める人々が集う街であり、人を虜にする快楽も、飽くことのない欲望を満たす歓待も、一つ曲がり角を間違えれば死と隣り合わせの危険に変わる、そのような場所だ。
六年前の幼かった彼は、己の身を守ることすらままならない存在でしかなかったが、それでも來螺で生きることがどういうことかすでに理解していた。あの街で生きる者は誰しも狡猾に、そして撓めた力を隠す自制を身につける。むろんそれは目の前の二人が知る必要のないことである。
灰は須樹に向き直り言った。
「さっきの話ですけど、俺はやはり見回りを抜ける気はありません。もちろんお荷物なのは百も承知ですが、負担はかけないよう気をつけます」
「灰、俺は何もお前が足手纏いだと思っているわけじゃない。だが、万が一何かが起こった時、お前の身に何かあったらどうなる。お前は惣領家の人間なんだ」
「わかっています」
灰は皮肉に笑んだ。惣領家の人間――どれだけ否定し拒絶しようとも、それは厳然とした事実なのだ。
「けれど惣領家の血を引くというそれだけで、皆が俺を認め受け入れるほどここは甘い場所でもないでしょう」
須樹は絶句した。
「これは俺の気持ちの問題なんです。皆にとっては俺は惣領家の妾腹の血筋で、惣領のお慈悲で招じられた厄介者でしょう。正直に言えば俺はどう思われてもいい。一人で生きていけるほどの力もなく、実際そのとおりなんですから。でも、その中でも自分で選択していくことだけは奪われたくないんです。惣領家の人間だということに縛られたくはない。例えそれが他人の思惑に沿ったものでも、納得して進んでいかないと、立ち位置を見失う」
己に言い聞かせているかのような、低い声音だった。灰は須樹に向かって僅かにすまなそうな表情を見せた。
「すみません。あまり気持ちのいい話ではないですね」
「いや、なかなか面白いですよ」
答えたのは仁識である。にやりと笑んだ顔はどこか楽しげだった。
「須樹、諦めた方がいいな」
須樹は小さくため息をついた。
「よく、わかった」
何が、と問うような二人の視線に須樹は苦笑とともに答えた。
「灰が筋金入りの頑固者だってことがな。頑固だとは思っていたが、ここまでとは思わなかったぞ、俺は」
「そうでしょうか?」
「そうか? まあ、俺は面白い若様だと思うが」
首を傾げる二人の仕草は奇妙に似ていた。この二人は本質が似ているのかもしれない、と脈絡なく須樹は思う。いずれも掴みがたい厄介な人物だ。
「負けたよ。見回りは今まで通り続けよう」
(どうやら俺は灰相手には一度として勝てそうにはないな)
須樹は思うと、奇妙に清とした気持ちで柔らかく笑んだ。