恋愛……?
どうしてこうなった。
「ただいま♪」
「おかえりなさいませ、凍華お嬢様」
どうしてこうなった……?
「……こちらはわたしの大事な人よ。わたしの執事なのに、わたしの大事な人を不審者扱いするつもり?」
「失礼致しました」
「結衣、気にしないでね」
雪城先輩がスマホをポチポチしたら、白石女学院の校門に一台の車がやってきた。私は雪城先輩に手を引かれて、その一台の車に乗り込む。小一時間の移動中に、雪城先輩からの私の呼び名が『結衣』となった。あれえ。おっかしいなあ。
「こんなはずでは」
「何?」
「失礼致しました」
私のつぶやきを冷たい視線と「何?」の一言で刺してくる。たまらず私は「失礼致しました」と、さっきの執事さんと同じ言葉を言ってしまった。だーってだってだって、おかしいもの。この流れ。私の想定外。
「結衣。こっちよ」
雪城先輩の大事な人は他にいるはず。私が何故か『大事な人』の席に押し込まれてしまった、ような、状態。この席に座るべきなのは私みたいなごく普通の、取り立ててかわいいわけでもない、クラスの真ん中より下ぐらいのビジュアルの女の子ではない。雪城先輩は目元がちょいとキツいけど、そのキツさで顔面がクールビューティー系に整っている。どう考えても私が『光の百合』の片割れではない。私はその、雪城先輩とどなたかが仲睦まじくしている様子をですね、
「あのー、……なんで私なのでしょうか?」
廊下の真ん中で立ち止まり、ちょこっと首を傾げる雪城先輩。そんな姿も、写真集の一枚にはあるだろう。
「貴女は、白石女学院の制服が大好きなのでしょう?」
「はい。言いました。私は、白石女学院がこの制服ではなかったら、白石女学院を選んでいませんでした。この制服だからこそ、白石女学院を志望校に選びましたし、この制服が完璧に似合う雪城先輩に出会えたのは幸運なことだと思っています」
思っているんですが、だからといって家に招待されるとまではですね。雪城先輩のこと、ちょっと怖くなってきました。
「こちらのお部屋なのだけど」
氷華の姫君は扉を開ける。お部屋の照明をつけると、学校の家庭科室みたいなお部屋だとわかった。普通の人の家にこんなお部屋あるんだ。……いや、雪城先輩は普通の人じゃないか。お金持ちの家の人。だって、執事さんがいた。普通の人の家には執事さんはいない。執事さんににらまれたの、怖かったな。間違いなく不審者ではあるから何も言えなかった。
「家庭科室みたいですね」
「……そうかしら?」
「ミシンが置いてある辺りが、それっぽいなと」
雪城先輩は、本棚からスケッチブックを取り出す。何冊か似たようなスケッチブックがあったけど、迷わず一冊を選んで、広げて見せた。
白石女学院の制服のラフイラストだ……?
「どうしてここに?」
「わたしがデザインしたからに決まっているじゃない」
誇らしげな顔をしている。雪城先輩が。あの、にこりともしないことで有名な、氷華の姫君が。
「デザイナーさん、ってことですか?」
「そうよ。わたしはわたしが『毎日着たい!』と思えるような制服を、デザインして、おじいさまに作ってもらったの!」
謎は全て解けた。
雪城先輩が自分自身をもっともよく見せる為の装いを、雪城先輩自身が手がけて、着ている。雪城先輩は似合って当然で、他の人が着ている制服が偽物に見えてしまったのは、そもそも偽物だからだ。すべては雪城先輩の為にあった。
「あなたが神か!」
私は床にひざをつく。屋内なので痛くない。神はここにいた。ここにいる。
「貴女ほど、私の制服を褒めてくれた人はいなかった。初めてよ。……すごく、嬉しかった」
「初めてだなんて、そんな。周りの見る目がなさすぎるのでは?」
「私、デザイナーになりたいの。もっといろんなお洋服を作ってみたい。結衣、手伝ってくれる?」
雪城先輩は、制服に負けないぐらいの輝きを放っていた。元々きれいな人なのに、夢を語っていると、よりきれいに見える。
「はい!」
雪城先輩の夢を応援することなら、私にもできる気がした。私は『光の百合』の片割れではないから、雪城先輩の隣に並び立つのはご遠慮願いたいが、神の活動を支援するだけなら、私にだってできる。
私は白石女学院の制服を愛している。雪城先輩には白石女学院の制服のような、すばらしいデザインを、これからもどんどん思いついて、世に放っていってほしい。
「ありがとう、結衣……」
雪城先輩の視線が熱い。これまでの冷たさとは真逆の熱を感じる。……なんだか私まで暑くなってきちゃったな。なんでだろう?
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