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私の青春に『光の百合』が足りませんっ!  作者: 秋乃晃


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3/4

和解っ?

「え、えっと」


 さて、どうする更科結衣。

 次の一言に、今後の白石女学院での青春が左右されますわ。


 なんたって、相手は生徒会長様。しかも、ただの生徒会長様ではなく、白石女学院の創設者の孫娘様でございまして、それはもう恐れ多いといいますか、トップオブザトップ。権力争いで他者を寄せ付けぬ不動の一位。正しい選択肢を選ばないと『即退学』のバッドエンド直行ルートもあり得ますわよ。


 それは困る!

 更科家の娘が校内での不審な行動から一日で退学、だなんて、一生笑われちゃう。


 それに、私はこの制服にぞっこんなのだ。惚れ込んで、自室の壁にでかでかとポスターサイズに印刷して貼り付けて、眺めながら受験勉強の日々を乗り切ってきた。


 念願叶って合格し、この制服の採寸の為に白石女学院に足を踏み入れた時の高揚感といったら! お母さんがこの腕を引っ張って現実に引き戻してくれなければ、そのまま天まで駆け上がってしまいそうでしたもの。逆に、私の身体のサイズに合わせた白石女学院の制服が自宅に届いてからは、入学式の朝に袖を通すまでそっとしまっておきましたわ。ふふふ。ようやくこうやって毎日着られるようになったっていうのに、退学になってしまったら、それこそただのコスプレじゃないですか。


「……そんな顔をされては、わたしが貴女をいじめているのかと誤解されてしまうわ」


 しどろもどろになる私の頬に、白くて冷たい右手が添えられた。この右手は雪城先輩のものだ。


「ひょあ」


 ひんやりとした感触だけではなく、――こうして近くで見ると、ますます似合っている。白石女学院の制服が今のデザインに変わったのは、雪城先輩の代からだ。冗談じゃなく、これは雪城先輩の為に作られた衣装なのではなかろうか?


「わたしはただ、ここから『面白いもの』が見えたのか、と聞いているの。おわかり?」


 ツートンカラーのブレザーも、クラシカルなジャンパースカートも、白いブラウスに赤いリボン、そして、紺色のハイソックスに焦げ茶色のローファーも。季節柄、今は出番ではなく、押し入れにしまわれているが、夏服は涼しげな水色のポロシャツで、襟に校章が入っている。任意で紺色のネクタイ。チェックのスカートはボックスプリーツで、もちろん冬服のジャンパースカートとは素材が異なり、通気性がよい。


「私は、好きなんです」


 添えられた右手を、私が両手で包み込む。少しでも暖まってくれたらいいな。


「……?」

「私は、白石女学院の制服が大好きなんです! 白石女学院の制服は最高ですよね、雪城先輩!」

「あら、ありがとう?」


 ――ハッ!

 いけない。雪城先輩があまりにも似合いすぎていてパーフェクトな理想形だから、つい本音をぶつけてしまいましたわ。見ず知らずの新入生からいきなり「制服が大好き」なんて言われても、戸惑っちゃうよね。


「すっ、すみません!」


 私が突然大きな声を出したから、校庭で活動していた運動部の皆様がこちらを見ている。きゃあ、恥ずかしいっ! 見学者の中にクラスメイトの姿もあり、仲良くなったばかりのつむつむもいた。ぎゃあ。見なかったことにしてくれないかな。無理かな。無理だろうな。うっうっ。ごめんよつむつむ。私が不審者なばかりに……。


「貴女の話、詳しく聞きたいわ」

「いや、すみません……って、ええ? 今なんと?」


 聞き間違いでなければ『詳しく聞きたいわ』と興味津々なご様子の雪城先輩。どういう話の流れなのかがわからなくなって、私は聞き返す。


「わたしには、この制服が大好き、と聞こえましたの」

「ええ。言いました。この制服のデザイナーさんは神だと思っています。かわいさの中に清楚があり、まとまりがあって気品すら感じられ、白石女学院の特徴をぎゅっと詰め込んでいます。まさに、お嬢様学校として名を馳せている白石女学院にふさわしい制服です。白石女学院に通う生徒みなさんで崇めるべきです」

「それはそれは。どうもありがとう」


 私の口からは、次から次へと褒め言葉が流れ出てきた。だって、事実ですもの。この制服の素晴らしさは、ワールドワイドに知らされるべきです。海外からもこの制服を目当てに入学してくるような女の子がいてもおかしくないでしょうに、留学生がいないのは不思議ですわね。


「特に、雪城先輩。雪城先輩に、とってもよく似合っています。こんなに近くで見てしまっていいのでしょうか。私は鑑賞券を購入しなければならないのでは?」


 こう間近で見てしまうと、神々しさに目が痛くなってきた。後光ってレベルじゃないですわ。直射日光ではなかろうか。この一等星のごとき、まばゆい輝き。ダイヤモンドダストよりも神秘的。きっとアインシュタインでもこの美しさの秘密は解けない。これは写真には残せないから、肉眼ではっきりと記憶しておかな――たはーっ、目がやられてしまいましたぜっ!


「……どうかなさいました?」

「あまりの美しさに目が」


 私は雪城先輩から手を離して、自らの目を庇う。うっうっ。涙が出てきましたわ。ふがいない。こんなに近くで雪城先輩の制服姿を眺められるなんて、今後あるかないかでいうとない確率の方が高いっていうのに。だって私は雪城先輩と任意の(なにがし)さんとの『光の百合』を観測したい。私がこんなに近くにいてはいけないのだ。任意の某さんが雪城先輩といちゃつく姿を私は見たい。


「面白い子ね」

「ありがとうございます」


 おそらく褒め言葉だ。そう受け取っておこう。というのも、嫌味として捉えるよりはお世辞でも肯定的に解釈しておいた方が気持ちがいいからだ。雪城先輩がわざわざ嫌味を言うような人には見えないってのもある。


「いいわ。この制服の話を聞かせてあげる。()()()

「!」


 なんてったって雪城先輩は白石女学院の理事長の孫娘だ。この制服のデザイナーさんのことを知っていてもおかしくはない。私は背筋をピンと伸ばした。校門を通り抜けたあの時と同じぐらい。


「私の家に招待してあげる」


 雪城先輩は、折りたたみスマホをポケットから出しつつ、不敵な笑みを浮かべた。


 ……ええっ、雪城先輩のおうちですかあ!?

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