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私の青春に『光の百合』が足りませんっ!  作者: 秋乃晃


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入学っ!

 四月。あるいはエイプリル。またの名を卯月。


 焦げ茶色のローファーで、白石(はくせき)女学院の校門の一歩先へと踏み込む。桜の花は既に散ってしまったけれども、若緑の葉を揺らした爽やかな風は、乙女たちの髪を優しく撫でるように吹いていた。


 そう!

 私は白石女学院の新入生!


 俯いていてはいけない。私は胸を張り、背筋を伸ばして、校舎へ向かって歩いて行く。そうでなくては、この白石女学院の()()が可哀想じゃないの。初日からシワが付いてしまいますわよ。


 私は更科(さらしな)結衣(ゆい)

 この、世界一、いや、宇宙一素晴らしい制服を目当てに白石女学院に入学した、新一年生だ。


 ツートンカラーのブレザーは、表の生地は雨や雪などに強い撥水性の高い素材が使われており、なんと家庭用の洗濯機で洗濯もできてしまう。裏地には、厳しい寒さに襲われる冬場でも身体を冷やさぬように断熱性に優れた生地が採用されていた。アクセントとして、雪の結晶を模した校章があしらわれている。このさりげなさがたまらない。でかでかと所属をアピールするのではなく、あくまでアクセサリーのように花を添えていて、デザイナーさんはマジでセンスがあると思った。白石女学院の白石は、雪の別称らしい。そして、雪の結晶には六花という別称もある。これらの要素を制服に落とし込んでいて、天才。


 スカートはジャンパースカートだ。ベルトの留め具が、これもまた雪の結晶のデザインとなっていてかわいい。ジャンパースカート、いいよね。腰のベルトできゅっとまとめるから、スタイルがよく見えそう。中に着る白いブラウスに、赤いリボンが合うのは当たり前。古事記にも書いてある。ソックスは指定されている紺色のハイソックス。


 私が白石女学院の制服に一目惚れして、当時仲のよかった子に「かわいいよね!?」と白石女学院の制服を写真を見せながら聞いたら「えー、でも、ジャンスカって、スカート折れないから、丈を短くできなくない? 短くする為には、切るしかないじゃん?」って返されたの。ひどいよね。こんなにかわいい制服を、どうして切ろうと思っちゃうのか。意味がわからない。価値観の違い。……あっ、ちなみに、ジャンスカは肩の部分をどうにかして詰めることで短くできるみたい。私はやらないけど。スカートを折ってしまうと、どうしてもプリーツの形がおかしくなってしまうのよね。ただ短くしたい人たちはその辺にはこだわりがないのかな。要は、デザイナーさんが知恵をしぼってデザインしてくださった本来の形こそが、もっとも美しい制服の形ってこと。


 私の目当てはこの制服を着て、白石女学院で三年間を過ごすこと――だけではない。

 私の青春には『光の百合』が必要だ。


「ごきげんよう」

「……はわっ!」


 あらやだわ。私ったら。先輩を無視してしまうだけでなく、奇声を上げてしまうなんて。挨拶をしてくださった先輩が、おや、と怪訝な顔をしていらっしゃいますわよ。


「ご、ごきげんよう、でございます!」


 私は右手で敬礼して返す。風紀委員の腕章を付けた先輩は、ふふっ、と笑ってくださった。その仕草たるや、まさしく、()()()()()として知られている白石女学院生の鑑。先輩の制服のシワは、風紀委員として玄関口に立ち、生徒たちに挨拶してきた証。新入生の私の制服にはまだない、ここで過ごした青春の日々が、このシワに反映されている。


 私も、一応、更科家のご令嬢、という立場ではあるのだけど、……いいえ! 私はこの白石女学院で『光の百合』を探すのよ。


 私は私自身が輝くのではなく、輝きを見つけに来ましたの。私が一方的に愛するこの白石女学院の制服を着こなす麗しい先輩方の()()を思う存分浴びたいのです。私は先輩方を見守る天井、もしくは壁。この白石女学院には、これまで私の『光の百合』探しを邪魔してきたような男はいませんの。


 なぜなら、女子校だから!


「ごきげんよう」

「……」

「あら、今日はご機嫌斜め?」

「……わたしはいつも、こう、でしょう?」


 私はローファーから上履きに履き替えつつ、この会話を盗み聞きしている。先ほどの風紀委員の先輩と、もう一人は、鈴を転がしたような綺麗な声色の、いえ、風紀委員の先輩の声がダミ声なわけではなく。こう、会話相手の透き通った声に、どうしても惹かれてしまう。


「そうね。()()()()()だものね」


 !

 この『氷華の姫君』という称号に、私は反応せざるを得なかった。

 白石女学院の創設者・白石実範の孫娘にして、現在の白石女学院の生徒会長!


 白石女学院について情報を集めていた時に、幾度となくこの『氷華の姫君』という称号を目にした。

 こんなに早く、ご本人に出会えるとは!

 早くても入学式が始まってからだと思ってた!


「……何よ。貴女までそのあだ名で呼ぶの?」


 ご本人は不服らしい。私は下駄箱の陰から、こっそりと二人の姿を盗み見る。


「ワァッ!」

「「!?」」


 思わず声が出てしまった。風紀委員の先輩とウワサの生徒会長がびくりとしてこちらを見たので、慌てて隠れる。声が出ない方がおかしい。風紀委員の先輩は、きっと、見慣れてしまっているのだろう。すごい。マネできない。


 鼓動が早い。心臓が痛くて苦しい。一瞬で掴まれてしまった。なんてこった。これは、私が白石女学院の制服を初めて見た時の高鳴りと同じだ。


 なんてったって、生徒会長の制服姿は、あまりにも似合いすぎている。この白石女学院の制服は、生徒会長の為だけに特別に仕立てられた一点物のオートクチュールのように見えてしまった。職人が一ヶ月ほどかけて完成させた自信作。


 となれば、私たちはただ、生徒会長のコスプレをしているだけ。同じ服を着ているだけの、偽物。ただの劣化コピー。あの『氷華の姫君』だけが、本物として成り立っている。


(見つけた! あとは、この学校で、私は『光の百合』の片割れを探せばいいんだっ!)


 騒がしい胸中を抑え込むように、私は決心した。

 誰にともなく、深く頷く。


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