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私家出します

はじめまして。

和風ファンタジーと歌姫のお話です。


重たい展開もありますが、

主人公はよく怒り、よく動きます。

気楽に読んでいただけたら嬉しいです。

第1話 記憶を消された姫は、怒って家出しました


記憶を消された姫は、怒って家出しました。

だってまだ十歳。

納得できないものは、できません。



「……キミの記憶を、消した」


その日は、本当に衝撃でした。


お兄さま――綾人が、私の部屋に来て、

まるで大したことじゃないみたいに、そう言ったのです。


「ちょっと待ってください!」

「いきなり何を言ってるんですの!?」


私は思わず声を荒げました。

だって、私はまだ十歳。

生まれてから、たった十年しか生きていないのです。


その記憶を、消した?


「ひどいと思いませんの!?」

「説明もなしに、そんなこと言われて、

はいそうですか、なんて納得できるわけないでしょう!」


でも、お兄さまは困ったように微笑んで、

それ以上、何も教えてくれませんでした。


――守るためだ。


そう言って、

私の頭を優しく撫でただけ。


……それが、一番腹が立ちました。



「つまり……家出、ですか」


そう言ったのは、私の従者の一人、月華げっかです。


長い黒髪に、真紅の瞳。

女の子みたいな顔をしているけれど、

十五歳の少年で、絃を操る不思議な力を持っています。


「そうよ!」


私は胸を張って言いました。


「勝手に記憶を消されて、

何も知らないまま生きるなんて、絶対にイヤ!」

「だから、取り戻しに行きますわ」


「……姫さま」


困ったように頭をかいたのは、

聖月界の親衛隊長、風翔ふうと


青みがかった銀髪に、深緑の瞳。

いつも笑顔で優しいけれど、

私の教育係も兼ねている、十八歳のお兄さんです。


「綾人さまにも、

何か事情があってのことだとは思いますが……」


「それでも、イヤなものはイヤなの!」


私は腕を組んで、はっきり言いました。


「決めました」

「記憶を取り戻す旅に出ます」

「三人とも、付き合っていただきますわよ?」


一瞬の沈黙。


「……姫の記憶を取り戻すための、旅ですか」


月華が、静かに問い返します。


「そうよ」


「……了解しました」


あっさり頷いた月華に、

私は思わず目を瞬かせました。


「いいの?」


「姫が決めたことなら」


その様子を、少し離れた場所から見ていたのが、氷月ひづきです。


短い銀髪に、碧い瞳。

十三歳とは思えないほど冷静で、

ときどき毒舌な少年。


「姫さま」


淡々とした声。


「感情は荒れてますが、

判断は間違っていません」


「それ、褒めてるの?」


「事実です」


……やっぱり、ちょっと毒舌。



こうして私は、

月宮三人衆と呼ばれる従者たちを連れて、

家出中の身となりました。


あ、自己紹介が遅れましたわね。


私は、月宮桜花つきみや・おうか

聖月界の姫です。


どうやら私は、

とても大事な“何か”を、

忘れさせられているらしいのです。


この旅の先で、

どんな真実を知ることになるのかは、まだ分かりません。


でも。


知らないまま生きるより、

知って、泣いて、怒って、

それでも前に進む方が――

きっと、私には向いています。


だから。


この旅の終わりに、

どんな記憶を取り戻すことになっても。


私は、自分で選びます。


……たぶん。


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