七
東坂本へと走っているとアナログの世界に色が戻っていった。おそらくカヤトが例の不思議な刀を鞘に納めたのだろう。しばらくすると新田義貞の軍の本陣へとたどり着いた。
「新田様に急ぎお伝えしなければいけない儀がございます」
うちがそう言うと本陣まで案内された。
「サチ、どうした? 血相を変えて」
新田義貞が心配そうにうちの顔をのぞき込む。
「比叡山に侵入者があり、問いただしたところ帝は足利に降ってしまい今日にも帰京さ⋯⋯」
うちの言葉を最後まで聞かにずに顔色を変えた新田義貞は部下に指示を出す。
「我らの忠義を忘れて賊軍に降るなど⋯⋯。急ぎ支度をせい。比叡山に攻め込むぞ」
新田義貞はそう言って本陣を出ていった。うちも新田義貞のば家臣に連れられて比叡山へと向かった。
できれば、あの鬼のカヤトのところには戻りたくない⋯⋯。
新田義貞は帝の居る比叡山の内裏を軍勢で包囲した。内裏の入口にはカヤトがいた。
「サチご苦労。どうやら間に合ったようだ」
カヤトの言葉にうちは黙り込む。カヤトの傍には先ほどの男が縛り上げられている。不思議なことに先ほど切り落とされた右腕は元通りであり、首筋の傷も跡形もなく消えていた。うちが縛り上げられた男を黙って見ているとカヤトが苦笑いをした。
「ああ、傷はこれで治したよ。サチの傷を治したのと一緒だ」
そう言って例の不思議な刀を指差す。
新田義貞は恒良親王と尊良親王とともに越前国金ヶ崎城に下り兵力の増強を図っていくということになった。そして、うちとカヤトは引き続き帝の周辺警護の任に就くことになった。
「このタイ⋯⋯、この機に比叡山の鬼導を閉じるという選択はできないの?」
うちの言葉にカヤトは首を横に振る。
「鬼導を閉じるのはまだ時期が早すぎる。乱世の期間が長ければその後の平穏な世の期間もおのずと長くなるんだよ。ここで閉じてしまったら、あっと言う間に平穏な世は終わりを迎え乱世に逆戻りしてしまう。それを調整するのがオレの役目なんだよ」
よくわからないが、平和のためには乱世⋯⋯。そうか、戦国乱世があったから江戸時代の平穏な時期が長かったのか。
うちは一人で変に納得する。
その年の十月十日、足利高氏に降伏した帝は花山院に幽閉されることになり、うちとカヤトは京の都に行くことになった。
最近、うちは悩んでいることがある。この身体は生身の身体。もしこの身体の寿命までに元の身体に戻れなかったら、うちはどうなるんだろうか。うちの魂だけこの世に残っているのであれば七百年伊賀の地に漂っていれば魂だけでも令和の時代に帰れる。お母さんとお父さんに会える。それにカヤトが元のうちの身体に戻してくれても、令和の時代のうちの元の身体はもうないような気がする。根拠はないが⋯⋯。




