三
カヤトとうちはアナログの世界を歩き始めた。アジトの外に出ると無数の敵兵が静止していた。出入口には先ほど粥を持ってきてくれた女の遺体が転がっている。悲しいという気持ち以上にその死に様が無惨で気持ち悪くなって、うちは先ほど食べた粥を吐き出してしまった。
「あまりよそ見はするなよ。この先はもっと地獄絵図だ」
カヤトの言葉にうちは頷く。
ん?
人間同士が戦っているのはわかる。戦争なんだから。もっともアナログの世界では身動ぎしていないが⋯⋯。動いているものがたくさんいる。うちはそれが何か知っている。
鬼だ。
「カヤト、鬼がたくさんいるけど⋯⋯」
うちがそう言うとカヤトは笑った。
「ああ、気にするな。あいつらは敵対しなければオレたちを襲ったりしてこない。とにかく刺激しないことだ。この世界ではお主の方が異質なんだから⋯⋯」
「鬼たちとカヤトはどんな関係なの?」
「向こうの世界では敵対しているが、こっちの世界ではお互い刺激しないようにしているんだよ」
カヤトの言葉にうちは首を傾げる。
「守り神なのに鬼と共存?」
「向こうの世界からこっちの世界に来る鬼とは敵対する。だから向こうの世界ではオレと鬼は敵対するんだが⋯⋯」
カヤトはしばらく考えてから言葉を続ける。
「人間には理解しがたいと思うけどこっちの世界には鬼たちが必要な時期があるんだよ」
カヤトはうちを見て笑った。
鬼が必要な時期って何?
うちはどうせ理解できないと思い苦笑いでごまかした。そんなうちを見ながらカヤトは歩を進めていく。
「こちらの軍は賊軍に挟み討ちされて退却を余儀なくされた。オレと権左は殿軍に属したために権左も死んだ。まあ、殿軍で生き延びたのはオレだけ。要は全滅したってことだ」
カヤトは苦笑いをする。
笑い事じゃないと思うけど⋯⋯。
「カヤトはなんでこっち側に味方しているの?」
うちがそう訊くとカヤトは真顔で言う。
「オレは京の都の守り神だ。賊軍を討ち滅ぼすだけだ」
確かに。
ごもっとも。
「ああ、見えてきた。もうすぐだぞ」
どこにも軍なんていない。
何が見えたの?
カヤトは林の中を歩いていく。
林を抜けたところに軍がいるのかなと思っていると、カヤトは林の中ほどにある小さな小屋の前で立ち止まり鬼導丸を鞘に収めた。すると、目の前の景色がアナログからカラーに変わっていく。
「ここだ。入れ」
カヤトはそう言ってうちを小さな小屋に誘う。うちが戸惑っているとカヤトが真顔で言う。
「まさか戦に出るとか思ってないよな。お主が元の世界に戻れなくなるのはお主の元の世界の素性を誰かに話すこと以外に、当たり前だがその身体で命を落としても元世界に戻れなくなるなるんだぞ。変な気は起こすなよ。その刀を抜く時はお主の身を守る時だけだ」
「でも⋯⋯」
うちが口ごもっているとカヤトはうちの背中を押して小屋に押し込む。
「保存食はその辺に置いてあるから勝手に食え。水はそこの小川の水だ」
カヤトはそう言い残して、小屋から出ていった。




