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鬼導丸  作者: 杉山薫
第3部 南北朝動乱
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 粥を持ってきた女がカヤトに告げる。


「サチがやられた。足利直義の軍と激突するらしい。親方が呼んでいる。ここは私がやっておく。早く行け」


カヤトは静かに頷きながら立ち上がり、権左はこちらを見て立ち上がった。


「サチ、ゆっくりしておけ。そこにある刀は肌見放さずしっかり持っておけ。おのれを守るのはおのれだけだぞ。カヤト行こう。出陣だ」


うちは上半身だけ起こして、刀を取って二人を見送った。


ん?

なんか権左⋯⋯。

影が薄いような⋯⋯。

気の所為だ。

今はうちのことだけ考えよう。


「口の中に血が残っているので水がほしい」


うちがそう言うと、女は持ってきた水筒を手渡す。


「あまり入っていないから大切に飲め」


そう言われ、うちは水筒から一口水を口に含みうがいをする。水筒っていっても簡易な木の筒だ。水もあまり入らない。うちがうがいをし終わったのを見て、持ってきた粥のお椀をうちに差し出す。


「私は表を見張っている。あたたかいうちに食っておけ。ここだって安全ってわけじゃない」


女が出ていったのを確認してから、うちは粥にありつく。粥っていっても米じゃない。芋とかの穀物の素朴な粥だ。スプーンもないのでお椀に口をつけて箸で流し込む。


とにかく生き延びなきゃ。


なんかこの粥ゴリゴリする。味は血だ。やっぱりちゃんとうがいすれば良かった⋯⋯。


お母さん⋯⋯。


うちの頬には大粒の涙が流れていた。


 遠くから怒声と歓声が聞こえてくる。凄まじい地響きも遠くからこっちに近づいてくるのを感じて、うちは身体に掛けられた布切れを顔までたくし上げた。


こ、こ、こわい。

戦争?


この日、摂津国湊川では後醍醐帝を擁護する楠木正成と新田義貞の連合軍と九州に逃れていた足利高氏軍の激突があった。後に『湊川の戦い』と呼ばれる戦いは西国街道を東進してきた足利直義軍を迎え討った新田義貞軍と楠木正成軍の間に足利高氏の水軍が上陸し新田義貞軍と楠木正成軍を分断した。新田義貞軍を挟み討ちされた新田義貞は撤退を決断する。



 しばらくすると、怒声と歓声が大きくなって地響きとともにこっちに近づいていくのを感じて、うちが身体を起こすとカヤトがこちらに戻ってきた。


「サチ、場所を変える。用意しろ」


「権左さんは?」


うちが訊くとカヤトは首を横に振る。


「権左は⋯⋯死んだ」


死んだ?

嘘でしょ。

さっき笑って出掛けたばかりなのに⋯⋯。


平和ボケした令和の日本人代表みたいなうちはその時初めて戦争の恐ろしさを目の当りにした⋯⋯。


「サチ立てるか?」


カヤトの言葉にうちは返事もせずに立ち上がり刀を手に取った。


「どうやらお主のいた世界は平穏な世界だったようだな。オレがいる時はこの世界はいつも乱世なんだよ。悪かったな」


カヤトはそう言うとうちを背負う仕草をする。


「大丈夫。自分で歩けるから⋯⋯」


うちがそう言うとカヤトは笑う。


「いや、少しの間動けなくなるから⋯⋯。まあ、お主は覚えちゃいないだろうが」


カヤトはそう言って、うちを無理やり背負って例の不思議な刀を抜刀した。


目の前の景色から色が消えアナログの世界へと変貌していく。アナログというよりもまるで墨絵を見ているようだ。


うちを背負ったカヤトは立ち上がり歩き始めた。


「カヤト、どこに行くの?」


うちの言葉にカヤトはぎょっとした顔でこちらに振り向いた。


「お主、動けるのか? まさかオレが右手に持つものも見えるのか?」


「刀でしょ。ずっと見えてたよ。だって、床に突き刺さっているのにカヤト気にしないんだもん」


うちがそう言うとカヤトはうちを降ろした。


「動けるなら話は早い」


カヤトはそう言ってふたたび歩き始めた。



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