九
オレと明智光秀は本多平八郎とその家臣たちに囲まれその関所を拔けていった。その関所が見えなくなった瞬間、本多平八郎は明智光秀に駆け寄って彼を抱きしめる。
「日向、日向だよな。心配かけやがって」
本多平八郎はむせび泣く。
「すまん、本多殿」
明智光秀もそれを言うのが精一杯のようだ。そして、本多平八郎はオレを抱きしめる。
く、く、苦しい。
死んでしまう。
「カヤト、でかした。でかしたぞ」
こ、こ、殺す気か。
「本多様、まだ尾張を通り抜けないといけませぬ。油断は禁物かと」
オレがそう言うと本多平八郎はオレの肩をバンバン叩く。
痛い。
痛い。
肩がぶっ壊れる。
「なああに、清州でも落としていくか」
この男ならやりかねん。
オレは偵察から戻って本多平八郎に報告する。
「本多様、無理です。後継者を決める評定で織田家の重臣が続々と清州城に集結しています。こんなところを突破なんてできないですよ」
オレの言葉に本多平八郎は首を傾げる。
「なんで清州?」
「安土も岐阜があるはず⋯⋯」
明智光秀も首を傾げる。
「とりあえずどうしましょう?」
オレの言葉に二人とも黙り込む。
「じゃあ、某が明智殿を背負って先に三河まで行くので、本多様はごゆるりと来てください」
オレの提案に明智光秀は頷くも本多平八郎は目を剥く。
「日向を背負って先に行く? 意味がわからん。ちゃんと説明せい」
「これを使えば織田家に気づかせずに尾張などあっと言う間に駆け抜けられます」
オレは腰の鬼導丸を指差す。それでも本多平八郎は首を傾げている。
「それでは」
オレはそう言って明智光秀を背負って鬼導丸を抜刀する。周りの風景が墨絵のような世界へと変わっていく。
さてと⋯⋯。
どうやら本多平八郎は見えるだけのようだ。
オレは明智光秀を背負って東海道を下っていく。鬼導丸を使えばこんなもんだ。間もなく三河というところで事件は起きた。
鬼。
鬼。
鬼。
大量の鬼が発生している。
オレは背負っている明智光秀を道端に降ろして鬼と対峙する。
なんだろう。
何かが違う。
ん、そうだ。
この鬼たちは何かを修復していないのだ。
何かを待っている?
いや、おそらくオレがそいつを待っているのかもしれん。
オレはとりあえず手前の鬼を鬼導丸で撫で斬る。斬られた鬼は墨絵の中に溶け込んでいく。残りの鬼たちがオレに気付き奇声を発する。
来る。
奴が来る。
平楽寺での敗戦の雪辱戦だ。
敗けたままではいられないと思っていたところだ。
向こうからドシンドシンという音をたてて巨大な何かがやってくる。間違いない。巨大鬼だ。オレは鬼導丸を左手に持ち替えて右の腕に力を込める。オレもあの時とは違う。墨絵のようなこの世界でも雷撃が使えることを思い出した。巨大鬼が右の拳をオレを目掛けて振り下ろしてくる。
「雷撃」
オレの右の腕から放たれた雷撃は墨絵を放射状に切り裂くように凄まじい閃光と轟音を伴い巨大鬼の右の拳ごと右半身をえぐって墨の桶でも激しくひっくり返したかのように真っ黒な水しぶきを墨絵の世界にブチかましていく。オレは鬼導丸を右手に持ち替えてふたたび右の腕に力を込める。そのまま雷撃を鬼導丸に流し込むと鬼導丸が閃光を纏っていく。
「雷光斬」
オレが鬼導丸で巨大鬼の左脚に斬りつけると巨大鬼の左脚は閃光とともに飛び散っていき、巨大鬼は地面に顔をつけてしまった。その顔面にオレは左手をつけて力を込める。
「雷撃」
オレの左手から放たれた雷撃で巨大鬼の頭は激しい轟音をを伴い閃光とともに墨絵に溶け込んでいった。さてと、残りは通常の大きさの異形の鬼が三体。オレがそちらを向くと奇声を上げて消えていった。すべて片付いたことを確認してオレは明智光秀を背負ってふたたび三河に向かって歩き始めた。




