七
しばらく行ったところで下馬して雪乃を待つ。雪乃は走ってやってきた。
「雪乃、すまん。このままこの馬で堺に向かってくれ。陽動だ。派手に頼む」
「カヤトはどうするの?」
「佐平のところヘ行く。あそこなら薬草がたくさんあるだろ。結構こいつ重傷なんだ」
オレはそう言って背中の明智光秀を指差す。
「わかったよ。派手に陽動するから気をつけてね」
オレは雪乃と別れ和泉国と伊賀国の国境にある祠を目指し歩いていく。やがて、祠へと続く山道が見えてきた。
「おい、追手が来たぞ」
明智光秀がそう言ったので、オレは後ろを振り向く。確かに騎馬武者が三騎オレたちの後方を走っていく。
ここでやり合った痕跡を残すのは得策ではない。
仕方ねえ。
オレは右手を鬼導丸の柄に伸ばし抜刀する。周りの風景が墨絵のような世界へと変わっていく。あとは山道を歩いていくだけ。大和国を通り過ぎ伊賀国へとただ墨絵のような世界を歩いていく。雨がオレの足跡を消してくれるだろう。
オレは祠の前で鬼導丸を鞘に収める。
「何をした?」
明智光秀の言葉にオレは答える。
「鬼導丸を使っただけだ」
「きどうまる⋯⋯」
オレがそう言うと明智光秀は呟いた。
「佐平」
オレが祠の入口で佐平を呼ぶと佐平がひょっこり顔を出す。
「薬草はあるか?」
佐平はオレの言葉に頷く。
「じゃあ、表を見張っていてくれ。明智光秀を治療する」
「任せろ」
返事だけはいいな。
オレはその時初めて間に合ったことを確信した。
祠の中に入ると食糧と薬草が並べられていた。佐平はこういうところは気が利く。オレは背中の明智光秀を降ろして、水を飲ませて身体の患部を診る。武将ゆえ傷だらけなのは仕方ないが、やはり今回の竹槍の一突きは本来は致命傷だったのだろう。鬼が修復したのにグチャグチャになっている。オレはしばし考え込む。
仕方ねえ。
鬼導丸を使おう。
オレはおもむろに鬼導丸を抜刀する。墨絵のようになった世界で明智光秀の身体を見つめる。
ん、オレは鬼導丸のこの使い方を知っている。間違いねえ。オレがなぜ雷撃を使えるのかもすべてはこの修復方法のためだろう。
オレは明智光秀の傷の患部に鬼導丸軽く突き刺し、軽く本当に軽く雷撃を鬼導丸の刀身に流し込む。
これでいいはずだ。
オレは鬼導丸を鞘に収める。墨絵の世界は色を取り戻していく。
「明智殿、気分はどうだ?」
明智光秀は竹槍で刺された傷があった場所を手で触って確認する。
「傷がなくなっているが、何をした?」
「鬼導丸でちょいと消しておいた」
「傷を消す? それにきどうまるとは某の知っているきどうまるということか?」
「消すっていう言葉がピッタリだから消すっと言っただけだ。それに明智殿の知っている鬼導丸がこれとは限らないだろう」
オレはそう言って明智光秀の目の前に鬼導丸を持っていく。
「なるほど、某には見えぬということか⋯⋯。遅くなってすまん。今回のことはありがとう」
明智光秀はオレの不自然な右手で、ある程度は理解したらしい。
「徳川様の依頼だ。こちらも伊賀衆という人質を取られていてな。別に明智殿のためにやってるわけじゃない」
明智光秀はオレの言葉に何度も頷き、核心を話し始めた。




