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鬼導丸  作者: 杉山薫
第2部 本能寺の変
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 徳川家臣団とオレはそこで別れ、オレは堺への帰路につく。途中、伊賀国のゆかりのある場所を訪れた。まさかこの寄り道が取り返しのつかないものになってしまうとは気づかずに。百地砦や平楽寺にも寄ったが残念ながら戦で焼け落ちてしまっていて見る影もなかった。そして、大和国との境にある山奥の祠にたどり着いた。オレが祠に入ると奥から佐平が出てきた。


「ビックリさせるなよ、カヤト」


「悪い。徳川家臣団を伊勢路まで送った帰りだ。何か知らせは入っているか?」


「ああ、伊賀衆の知らせはねえが、天下の動向ならあるぞ」


佐平の言葉にオレは身を乗り出す。


天下の動向ってことは明智光秀か。

間に合わなかったってことか。


「何でも毛利征伐に出ていた羽柴が全軍を率いて戻ってきたって知らせだ」


「で、で、結果は?」


「知らん」


佐平の言葉にオレは拍子抜けする。


「ゆっくりしようと思ったが急用ができた。すまん、今井宗久のところにいる雪乃に伝えてくれ。『摂津との国境まで馬を走らせろ』と」


「わかった。伝えておく。お前は?」


「オレは明智光秀のところに行ってくる」


オレはそう言って祠を出ていった。


この時、六月十三日未明。



 明智軍と羽柴軍が激突している山崎にオレが到着したのは翌日十三日の夕方。雨が降りしきる戦場を一目見てオレは『万が一』を確信した。すでに戦の大勢は決していた。明智軍は総崩れとなっていた。オレがここから雷撃や鬼導丸(きどうまる)で援護したとしても、もうどうにもならない。あとは明智光秀の確保だが如何せんオレは明智光秀の顔を知らねえ。戦っている時ならば指揮命令系統を探れば分かると思って舐めていた。唯一の救いは明智光秀の逃亡先。この位置からなら居城の近江坂本城の一択だ。もっともそんなことは誰もが考えることだからあえて坂本城は避けるという選択もあるが、そんなことはオレには関係ない。そもそも『万が一』に間に合わなかったと服部半蔵に嘘をつけばいいだけのことだ。とりあえず勝竜寺城から坂本城へと続く道を走っていく。


ん?


突然、周囲の風景が墨絵の世界へと変わっていく。今までの経験だとおそらく武将が殺害されたのを鬼が修復しているのだろう。この状態で殺されているということは明智軍の武将に違いない。うまくすれば明智光秀につながるような武将に出会えるかもしれない。

鬼導丸(きどうまる)が震えている。


オレは必死に鬼を探す。


いた。


竹槍で刺された武将を鬼が修復している。


鬼導丸(きどうまる)はずっと震えたままだ。オレは鬼導丸(きどうまる)の柄に手を伸ばそうとする右手を必死に押さえつける。


待ってくれ。

こいつの邪魔はしたくねえ。


鬼導丸(きどうまる)の鞘を掴んでいたオレの左手が鬼導丸(きどうまる)の柄に手を掛け抜刀する。


鬼は鬼導丸(きどうまる)に斬られあっけなく墨絵の中に溶け込んでいく。


やっちまった。

まだ、かなりの重傷のはずだ。


仕方ねえ。

このまま連れ去る。


オレは鬼導丸(きどうまる)を鞘に収める。墨絵のような世界は色を取り戻していく。オレは重傷の武将に駆け寄っていく。


「おい、お主。明智光秀を知っているか?」


「某だ。この首級(くび)をとって誉れとせよ」


おお、オレはなんて運がいいんだ。

本人だった。


「徳川様からの依頼でお主を浜松に連れていく」


「徳川殿が⋯⋯」


明智光秀は目を見開く。オレは右の腕に力を込めてまばゆい閃光を落ち武者狩りの農民たちに向かって放つ。農民たちは突然の閃光を受けて次々と倒れていく。


オレは明智光秀を背中に組紐でくくりつけて、その場から走り去っていく。


明智光秀を確保できたのはいいがここはおそらく山城国。ここから摂津国を通って和泉国に行くには距離がありすぎる。雷撃にだって限界がある。さて、どうするか。


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