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鬼導丸  作者: 杉山薫
第2部 本能寺の変
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 オレは一度今井宗久邸の離れに戻った。雪乃は今井家の下女たちとおしゃべりに夢中だ。京への旅支度を整える。おしゃべりが終わった雪乃が帰宅した。


「アレ、カヤト。もう終わったの」


「ああ、これから京へ行かなきゃいけないのだが、お前どうする?」


「はあ? あたしはあんたの女房なんだよ。一緒に決まってんじゃん」


女房か……。

いつまでも雪乃をオレに縛り付けるのもよくないな。


「雪乃、百地様からの連絡があった時にここに誰もいなかったら困るだろ。お前、ここに残れ」


「そんなの今井さんに頼めばいいじゃん。あたしじゃなくても……」


「頼む、雪乃。お前にしか頼めないんだ」


「んんん、わかったよ。早く帰ってきてね。あんた」


オレはその日の夜に京へと旅立った。時は天正九年十月、この旅立ちがすべてを変えてしまう大事件に巻き込まれることなど予期せぬままに⋯⋯。



 その日のうちに京には入ることはできたが、如何せん情報が少なすぎる。京の寺に封印だけでは特定することなどできない。唯一救いがあるとすれば地蔵と話をすればひょっとして情報が得られる可能性があることぐらいだが、なぜだろうか。京にはオレに話し掛けてくる地蔵が一体もいない。仕方ないためオレは京の都にある寺に夜な夜な潜入したがまったく情報がつかめない。そんなことをしていると年が明け、激動の天正十年がやってきた。


 天正十年二月、新府城築城のため更に賦役が増大していたことに不満を募らせた武田家の家臣たちは武田勝頼を裏切り次々と織田家に寝返った。翌月には天目山において織田軍に敗れ武田家は滅亡することになった。そんな折、駿河国を領有することになった徳川家康は織田信長に礼を言うために安土城を訪れた。らしい⋯⋯。オレは毎日のように京の寺に訪れていたためそんなことなど気にもしていなかった。そんなある夜更け、時は天正十年六月二日。オレがいつもの通り京の寺を物色していると何やら京の町中が騒がしい。遠くには火事のような景色が広がっている。オレは元来やじ馬のようなことをするのは好まないが、このときは違った。何やら胸騒ぎがしてオレはその火元である建物の方へと走っていった。火元となっている建物は寺のようだ。まだオレが物色していない寺。そんなことはどうでもいい。その寺を囲んでいるのは軍勢。この軍勢の旗印は桔梗、桔梗の旗印とする戦国大名って誰? 残念ながらオレにはそういう知識はなかった。


仕方ねえ。

まだ物色していない寺だ。

燃えてなくなる前に確認しておかなかれば⋯⋯。


オレは鬼導丸(きどうまる)を抜刀した。

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