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鬼導丸  作者: 杉山薫
第一部 天正伊賀の乱
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十五

 オレを抱えた佐平は西に向かって走っていく。しばらくすると祠の前で立ち止まった。


「雪乃、カヤトを連れてきた」


佐平の言葉に祠から泣きじゃくった雪乃が出てきて、オレの身体を抱き寄せる。


「あんた、あんたああ」


「雪乃、ここだって安全じゃねえ。さっさと行け」


佐平の言葉に雪乃は頷き、用意していた馬にオレを乗せて雪乃は更に西に向かって大和国を通り過ぎ馬で駆けていく。


あれ?

いつの間にか、腰に差していた鬼導丸(きどうまる)の鞘がなくなっている。佐平に抱えられていた時にどこかで落としたのだろう。


やがてオレを乗せた雪乃の馬はある商家の前にたどり着いた。今井宗久邸だ。今井家の番頭が慎重にオレを馬から降ろして離れに抱きかかえていった。オレは安心感からかそこで意識を失った。


 オレが次に目覚めた時、左手に何かを握っていた。オレは布団から左手を出してそれを凝視する。間違いない。鬼導丸(きどうまる)だ。柄を握り鞘から刀身を抜く。周りが墨絵のような世界になるのを確認してオレは刀身を鞘に戻した。オレが起きたのを見つけた雪乃がオレに駆け寄ってくる。


「あんたああ、心配したよ。十日もずっと寝てるんだもん」


十日か……。

長いと思えば長いが、まああんなことがあったんだから仕方ねえ。


「雪乃、心配かけてすまない。これもお前が取ってきてくれたのか?」


オレは鬼導丸(きどうまる)を手に取り雪乃に見せる。


「なになに? トンチ?」


どうやら雪乃にも見えないらしい。


「いや見えないのならいい。ごめん、気が動転しているらしい」


両方とも自らオレの手元に戻ってきたっていうことか。


「頼むよ、カヤト。あたしにはあんたしかいないんだから」


雪乃の笑顔が眩しい。


 オレは起き上がり今井宗久に会うために今井宗久邸へと向かった。幸運なことに今井宗久は在宅であった。


「カヤト殿、身体の具合はどうか?」


オレを気遣う今井宗久にオレは深々と頭を下げる。


「ご心配おかけした。もう身体は大丈夫です。伊賀はどうなっておられますか?」


オレがそう訊くと今井宗久は少し考えてから口を開いた。


「滝川一益の加勢で平楽寺を陥落させたらしいのだが比自山城は丹羽長秀が攻略したが敗退し結局落とせなかったらしい。その後、総攻撃の前日に全ての城兵は柏原城に逃亡したが城兵の人命保護を条件に和睦を行い、伊賀衆は柏原城を開け渡したらしい。それからな。百地丹波様なのだが柏原城で抗戦した後どうやら生き延びて他国に逃れたという知らせが入っている」


オレはホッと胸を撫でおろす。


「しばらくは離れで休んでいくといい」


今井宗久の言葉にオレは首を横に振る。


一刻も早く鬼導丸(きどうまる)の秘密をとかなくては、手遅れになるような気がする。

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