十四
時は天正九年九月二十七日、織田軍は伊勢地口、柘植口、玉滝口、笠間口、初瀬口、多羅尾口の六方より侵入して戦闘が開始された。オレにとっては二度目の第二次伊賀攻めが始まった。前回は平楽寺で待機していたが、今回オレは百地砦で待機することになった。どうやら平楽寺を攻める蒲生隊を援軍にくる滝川一益を背後から急襲する作戦らしい。
百地丹波率いる伊賀衆の部隊の奇襲により蒲生氏郷率いる織田軍は瓦解する。問題はここから。しばらくすると滝川一益率いる援軍が平楽寺に迫ってくる。
押し寄せる滝川一益隊を前に平楽寺に籠城する伊賀衆。伊賀衆が平楽寺に一益を引きつけている間にオレが背後から一益を強襲する。
いた。
忘れもしない。
あの甲冑。
滝川一益、今度こそ負けぬ。
オレは右腕に力を込めて雷撃を準備する。あまり出力が大きいと平楽寺にまで被害がでてしまうので十人ほど殺せるくらいの力に絞る。
「かずますううううう」
背後からのオレの叫び声に振り向く滝川一益。
遅い。
遅すぎる。
オレはこの瞬間を三年待ったのだ。
オレの右腕から放たれた雷撃はまばゆい閃光と激しい轟音を伴い一益に向かっていく。滝川一益は下馬してこれを避けようとするが、そんなことで避けられる雷撃ではなく滝川一益を含め八人ほどに雷撃が直撃して一瞬で彼らを焼き尽くしていく。
さあ、ここからだ。
どうする、鬼ども。
すぐに墨絵のような世界となり異形の鬼が一体現れ滝川一益に向かって歩いていく。どうやら滝川一益だけを修復するようだ。オレは鬼導丸を抜刀しその異形の鬼を斬り捨てる。するともう一体異形の鬼が出てきて奇声を発した。次々に現れる異形の鬼たちをオレは一体づつ鬼導丸で斬り捨てていく。十体ほど斬り捨てたところで残りの異形の鬼たちがが一斉に奇声を発した。耳を劈くような大きな声となっていく。
ん?
向こうから何か巨大な影のようなものがこちらに向かって近づいてくる。オレは目を凝らしてそれを凝視する。
おいおい、冗談だろ。
それはオレの目の前に現れた。オレの十倍以上の身体をもつ異形の鬼。それがオレに向かって拳を振り下ろしてきた。
巨大鬼の拳をオレは鬼導丸で撫で斬り抵抗する。斬ることはできるらしい。如何せん、拳もデカい。鬼導丸で一刀で斬り捨てることなどできるはずもなく、巨大鬼は反対の拳を振り下ろしてきた。オレは鬼導丸で反撃するも防戦一方だ。そうしている内に異形の鬼たちは滝川一益を修復していく。そして世界に色が戻る頃にはオレの頭に例の激痛が走っていった。オレは完全な敗北を悟った。
オレの目の前には修復された滝川一益。オレは激痛で動けない上に現実世界では何も意味をなさない鬼導丸を手にしている。滝川一益はオレに気づくと抜刀しオレに斬りかかってきた。
「このおおおおお、しれものおおおお」
滝川一益の怒声とともに刀の切っ先がオレの目の前にきたときオレは死を覚悟した。
無念。
そう思った瞬間、何者かがオレを抱える感覚があった。オレは身体を抱えられた瞬間、手にしていた鬼導丸を落としてしまった。落とすというよりも手に力が入らなかったため落ちてしまったというのが正しいのかもしれない。オレの身体を抱えた何者かはその場を走りさっていった。この者の名は佐平。雪乃の幼馴染で伊賀下忍『韋駄天の佐平』。取り立てて忍術を使えるわけではないが、とにかく強靭な脚力をもつ。伝令としては一流の忍びだ。
「佐平、そっちじゃない。平楽寺へ向かってくれ」
オレがそう言っても佐平は首を横に振り一心不乱にオレを抱えて走っていった。




