九
翌朝、日も明けぬうちに今井邸を一人で石山本願寺に向けて出発した。雪乃はイビキをかいて夢の中だったがさすがに本願寺顕如を相手にするとアホくノ一は連れていけない。石山本願寺はすぐに到着してオレは参道を歩いていった。
「おや、カヤトさんお久しぶりですな」
誰かに声を掛けられ、声がした方に向くと旅の僧侶が立っていた。
「某のことをご存知……」
オレの最後の言葉を待たずに誰かが後ろから肩を叩いた。
「地蔵に話しかけて、どうかされたか?」
如何にもツワモノそうな男がオレに声を掛ける。オレは苦笑して手を横に振った。
「どうやら疲れているようですね。まあ、顕如様にお会いしなければいけないため緊張しているのもあるのですが……」
オレがそう言うと、その男はオレに話をする。
「某の名は雑賀孫一。顕如様への謁見であれば某が案内しよう」
「某は伊賀忍びのカヤト。百地丹波様の使いとして参った」
オレはそう言って今井宗久からの紹介状を孫一に手渡した。
「百地丹波様の名代か。それは好都合」
孫一の言葉にオレも心のうちで呟く。
こっちこそ捜す手間が省けたよ。孫一さん。
「かやと……。どこかで聞いたことがある名だが気の所為か」
雜賀孫一は首を傾げる。
どうやら地蔵だけではなく、この男もオレのことを知っているらしい。
やがて石山本願寺に到着して控えの間にてオレは待機した。しばらくすると使いの者が現れて本願寺顕如のもとにオレを案内した。
「これはカヤト殿、遠方よりの使いご苦労であった。さっそくだが百地殿からの書状を拝見したい」
本願寺顕如がそう言うのでオレは百地丹波からの書状を本願寺顕如に渡した。本願寺顕如はその書状を一読してオレを見つめた。
「そなた、この書状の中身はご存知か?」
オレは首を傾げながらこう言った。
「書状の内容については聞かされていませんが、おおよそ織田軍との戦いの援軍要請かと……」
すると本願寺顕如は首を横に振った。
「援軍要請ではない鬼導丸という妖刀についてのことなのだが、鬼導丸といい、そなたの名であるカヤトといい、どこかで聞いたことがあるような気もするのだが、少し調べる時間がほしいと百地殿にはお伝えしてほしい。それで鬼導丸はどこに?」
本願寺顕如にそう言われ、オレは腰から鬼導丸抜き右手で持って本願寺顕如の前に差し出した。
「カヤト殿、本当に今鬼導丸を持っているのか?」
本願寺顕如がそう言うのでオレは静かに頷いた。
「確かに見えぬ。他に情報がないのか?」
「この刀を初めて抜刀した時にこの刀を京の寺に封印せよと聞こえたような気がします。顕如様、地蔵が話し掛けてくるということはございますか?」
本願寺顕如の問いにオレがそう答えると本願寺顕如は首を横に振りこう言った。
「京の寺か……。京には寺は腐る程ある故に見当はつかぬな。地蔵に話し掛けられるか……。そう言えば孫一も先ほど同じことを言っておったな。カヤト殿のことか……。残念ながら地蔵と話せる人間など初めて聞いた」
オレは人間ではないということか?




