8 響子の家
指示された通りに最寄りの駅で降りて歩いていくと、はたして響子の家があった。実家ではないので小さいが、一戸建てで2階であり、周囲の塀は低くて生垣などは無いが植栽をしてあって程よく目隠しになるようにしているような感じがした。
綺麗なツルバラ、シンボルツリーのジューンベリー、オリーブなどがちょっと洋風な雰囲気を醸し出していて、門を入ると鉢植えでガーベラ、ダリア、マーガレット、福寿草などが綺麗な色で歓迎してくれているような気がした。地面は雑草を抑えると言われているグランドカバーのベロニカオックスフォードブルー、アジュガ、ミントなどが植えられていて雑草はほとんどなかった。
英介は毎年庭の雑草取りで苦闘しており、除草剤など環境に悪いものは嫌なので、何か対策として良い方法が無いかと模索していたところであり、最近グランドカバーなるものの存在を知り、庭に導入することを考えているところだったので、この庭の様子は大いに参考になった。
玄関で右側にあるボタンを押すと響子が笑顔で迎えてくれた。進められるままにスリッパを履き、廊下を少し進んだところで響子は左手のドアを開け、自分から先に部屋に入った。
ドギマギしながら続いて入ると、そこにはグランドピアノがあり、それが何とスタインウェイではないか。スタインウェイと言えば1000万円前後する代物だ。
確かアカデミー賞を取った映画「グリーンブック」の中では、黒人であるが故に差別を受けて苦しんでいるピアニストが、コンサート会場を下見した時にピアノはスタインウェイじゃないと弾かないと言っていたのを思い出した。
周りにはそこ此処にローズマリー、フリージア、サボテン、カランコエなどの花が咲いていた。響子はピアノの前の椅子に座ると早くも
「さあ、英介さんのヴァイオリンを見せてちょうだい。」と言った。