6 趣味はヴァイオリン
英介は
「私はピアノはできないけど、クラシックのコンサートに時々行ったりしているうちに、どうしてもヴァイオリンがやりたくなり、また私が敬愛するシャーロックホームズが時々ヴァイオリンを弾いている場面を読んでいいなと思っていたこともあって、週に一回30分の個人レッスンを受け始めてもう12年くらいになるんだよね。」
「12年も?すごい、それじゃかなり弾けるんじゃないの?聞いてみたいな!」
「それがね、よくヴァイオリンは3歳からって聞くけどその意味がわかってきたような気がするんだ。
ヴァイオリンは難しいね。黒檀でできている指板にはギターみたいなフレットが無いから指を当てる位置を覚えなきゃいけないし、手や肩に少しでも余計な力が働くと弦が跳ねちゃってコントロールできなくなっちゃうし、変な音になっちゃうし、弓は弦と直角になるようにしないといい音がでない。
それにそれ以上に難しいのが移弦だ。弓を動かす角度に常に気をつけないと他の弦が鳴っちゃう、特に左から2番目のD線を引く時は左右の弦との角度がかなり微妙なので、すぐにどちらかが鳴ってしまう。
引いた弦を離す時にも鳴っちゃうことがあるから注意が必要だし、引いている箇所によっては指が隣の弦に触れてしまって汚い音が出てしまうので、それにも気を付けないといけない。
なので、いくら練習しても時々つっかえるし、時々隣の弦が鳴ってしまったり左手で押さえた音が低すぎたりなど、次々と細かい問題点が続出して時々嫌になることもある。
止めようと思ったことも数回ある。今もって人に聞かせられるような代物ではない。けれども現在取り組んでいるベートーベンのヴァイオリンソナタ5番がとっても楽しいんだよね。
本当は私のような未熟なヴァイオリン弾きには分不相応な超難しい曲なんだけど、ヴァイオリンの先生が少しずつだけど分かりやすく教えてくれて、また私が時々疑問に思ったことを質問すると、ベートーベンがどうしてその部分をそんな風に作曲しているのかとか説明してくれるので、ただ単に聴いているだけでは分からない、この作品の奥深さが味わえて楽しいんだ。
まあ、相変わらずいくら練習してもつっかえたり音を間違えたりして、とても人に聞かせられるような代物じゃないんだけど、自己満足に過ぎないかもしれないけど最近は楽しいんだ。
昨日も移弦がうまくいかなくて意気消沈したんだけど、最近はそういう時に落ち込みから抜け出す方法を見つけたんだ。YouTubeさ。
「移弦」とか「雑音」「弦が震える」などの悩んでいることで検索すると、ネット上ではヴァイオリンの先生や詳しい人たちが結構いて動画で教えてくれるんだ。
先生によって教え方が違うから、自分に合った教え方の動画を選ぶんだ。時々目から鱗のアドバイスがあって、それまで本を読んだりヴァイオリンの先生に質問してもどうしても解決できなかった点をどうしたらいいかが分かったりするんだ。
もちろんそれですぐに問題が解決してうまく弾けちゃうというわけではないんだけど、とりあえずどういう風に練習方法を改善したらいいかが分かって、暗中模索だったのが少し太陽の光が差し込んできたって感じでとっても助かるんだよね。
また少しでも頑張ろうって気持ちになるんだよね。最近はNHKコンサートマスターの篠崎史紀さんの本で
「ヴァイオリンを演奏する上で大切なことは、『演奏によって自分の気持ちを伝えられるかどうか』であって人に伝達できる演奏であれば、テクニックの側面だけの上手下手は関係ありません。」
とか、「ヴァイオリン演奏を通して、本気で『気持ちを伝えたい』と思う人は必ず演奏テクニックの問題や課題を克服するための方法や解決策を探そうとするはずで、それは一生かけてやっていくのです。
答えは見つかるはずがありません。見つからないから、また『次にやろう』と新しいものを探すのです。この、『理想(完成)に近づいて行こう』とする気持ちこそが大事なのです。」
という文章にもとっても励まされたな。あとヴァイオリンを美しく弾くにはビブラートができないといけないでしょ。
それがね、ビブラートはちゃんと音程が取れるようになってからでないと教えられないって先生が言うので何と10年以上も教えてもらえなくて、最近になってやっと教えてもらえるようになったんだけど、これがまた難しいんだよね。
でも努力を続けて正確な音でビブラートで響かせて弾けるようになったら、まあいつになるか分からないけど、そんなことを夢見て練習してるって感じかな。じゃ練習は辛いだけかっていうとそんなこんなことはなくて、特にこの頃はボーイングや移弦に注意してゆっくり練習しているせいか楽しいよ。」