表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/20

17 瑠璃子の追求と美しい夕暮れ

「ふふふ、この手は何?」 瑠璃子は明らかに面白がっている。やや狼狽しながら彼は応えた。

「いや、お姉さんの右手の位置が正しい鍵盤の位置でないような気がして修正してあげようと思ったのさ。それよりいつ来たの?」


「英介さん、後ろを見て。何がある?」

「大きなクマのぬいぐるみだね。それが何か?」


「私、いつものように最初からこの部屋にいたのよ。あのクマのぬいぐるみの後ろに。」

「えっ、じゃずっと見ていたの?どうしてそんなことしてたの?」


「私、まだ小学生だけど恋愛もののドラマよく見るの。それで思ったの。私がいないで二人っきりになったら何か化学反応が起きるんじゃないかって。」


「ませた女の子だね。恋愛における化学反応っていうのは二人がお互いに好きな場合に起きるんだよ。大切なのは気持ちだよ。」


「でも男の人って性欲があってそれを我慢してるんでしょ。それともお姉ちゃんには女としての魅力がないっていうの?」すると響子が

「瑠璃子、何てはしたないことを言ってるの。英介さんは紳士よ。そんなことするわけないじゃない。失礼よ。」


「英介さんはお姉ちゃんを見てもっこりしないの?」

「瑠璃子、お姉ちゃん怒るわよ。馬鹿なこと言ってないで、さあ、いつも通り一緒に練習しましょ。」


すると英介が

「私から新しい提案があるんだけど。現在ブルッフのコンチェルトをやっていて、まだまだ完成まで時間がかかると思うんだけど、もう一曲並行して練習するというのはどうかな?」


「2曲練習するってことね。それもいいわね。具体的に、どんな曲?」

「クロード・ドビュッシーの『美しい夕暮れ』という曲さ。ポール・シェルジェという人の詩が元になってるんだ。


Lorsque au soleil couchant les rivières sont roses,Et qu'un tiède frisson court sur les champs de blé,Un conseil d'être heureux semble sortir des chosesEt monter vers le coeur troublé.


Un conseil de goûter le charme d'être au monde,Cependant qu'on est jeune et que le soir est beau,Car nous nous en allons comme s'en va cette onde,Elle à la mer,nous au tombeau.


沈む夕日の中、川が真っ赤に染まり暖かくさざめく波が小麦畑の上を渡るときあらゆるものが「幸せになれよ」と言っているようだ揺れ動く心にはそう聴こえてくる


この地上に生きる喜びを味わいつくせということなのだろうまだ若いうちに、そして夕暮れがこんなに美しいうちに私たちもこのさざめく波と同じようにやがて去っていくのだからさざめく波は海へと、そして私たちは墓場へと


どう、人生の無情や儚さを感じさせるでしょう。それにドビュッシーの曲も実によくそんな感じを表していて、伴奏のピアノも素晴らしいんだよね。」

「分かったわ。やりましょう。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ