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説明会は街中で

 宿の外に出ると小さな屋台が出ていた。


「あ、おじさん。そこの杏アイスを二つ」


 前を歩くスズがおじさんからアイスを受け取り、梓に渡した。一口食べたそれは気持ちのいい冷たさを体に伝える。おいしい、と感想を言うとハルに昨日からその感想ばかりだと言われた。


「おいしいんだから仕方ないじゃない」


 そう言うとあきれられたがそうとしか言えないのだから仕方がない。


「ところで、スズ、さん」

「ん?」

「あなたは、どうして私が異世界人だと?」

「言葉だよ。だってあたしにしかわからなかったみたいだし」

「そこ」

「へ? ……ああ、どうしてわかったかってこと?」


 梓の指摘していることに気付いたスズは気まずそうに昔、連れてかれたことがあるからとだけ答えた。使っていない言語ではあったが記憶にあれば理解できるとも付け加えた。

 なんとなくだが思い出したくないことでもあるような顔である。


「連れて行ってくれた人は、いろいろと勉強になるからって。確かに勉強にはなったと思うけど」

「連れて、てことは私、帰れるんですか?」

「まあ、その人に頼めばね」


 さっさとアイスを食べてしまったスズはそのまま別の店に入り、今度はドライフルーツを買ってくる。これを食べながら歩き出す。ついておいでと言われついていく、というかここでスズとはぐれるとどうなるかわからないという不安が大きかったりする。

 道中、聞きたいことがあれば何でも聞いてと言われたのでいろいろと聞いていくつもりだ。


「でもその前に」

「?」


 急に指をさされて驚くよりも不思議に思う梓。何か無作法でも働いてしまっただろうか。


「時々、誰と話してるの?」

「え? ハルですよ。私をここに連れてきた」

「結局、敬語で通すんだね。それはちょっと残念だけど……。じゃなくてハルって誰?」

「だから私をここに連れてきた自称神様ですよ」

《自称は余計だ》


 突然何を聞いてくるのかと思ったがたいしたことではなかった。むしろどうでもいいことだった気もしないではないが、梓はハルのことを話した。

 ハルの突っ込みにほら、声が聞こえたでしょう、とスズに言ったが、スズは聞こえないと返した。

 何度かハルに喋らせてみたがやはり聞こえないと言われる。


「それ、多分、梓にしか聞こえてないような気がするよ? だから声に出して会話しない方がいいと思うよ。まあ、あたしはそのおかげで言葉がわかったんだけどねー」

「え、と。じゃあ私は今まで周りから大きな声で何か喋ってる人に見えてたと?」

「そうみたい」


 道理で、自分が喋ると周りがびっくりしたはずだと納得したものの、相当恥ずかしいことになっていたと気付き、穴があったら入りたくなる梓。それを横目に今度はジュースを購入するスズ。ずっと口に物を入れているが、結構な量である。朝ごはんもしっかり食べていたし、いったいどこに入っているのだろうか。


「……今度からは気をつけよう。そうしよう」

「ま、とりあえず飲みなよ」

「ありがとうございます。ところで、ここってどこなんですか?」

「それは、この世界における『どこか』ってことでいいの?」

「はい」


 その質問にスズは丁寧に答える。

 まず、この世界には海を挟んで二つの大陸が存在していてそれぞれの大陸に一つずつ、二つの国が存在していること。二つの国には特に国名はなく、西にある方を『西の国』。同じように東にある国を『東の国』と呼んでいること。今、梓たちがいるのは東の国の首都であること。スズは西の国の人であること。


「ここまでで質問は?」

「昨日いたところってどんなところだったんですか?」

「ああ、ちょっと待って」


 スズはこれとこれくださいと注文して、受け取ると質問に答えながら歩き出した。店員はわけのわからない言葉で話す二人を不気味そうに見ながらも、営業スマイルで礼をして、見送った。


「あそこはこっちの―東の国のことね―王様、帝って呼ばれている一族が住んでいるところで、政治の中心地でもあるの。昨日、梓が出会ったあの太った人が今の帝様」


 再び頭を抱えたくなった梓。というよりか崩れ落ちそうな気分であった。まさかよりによってそんな人と会っていたとは。しかもものすごく怒っていた。目をつけられたのではと不安になる。


《うわー。やっちまったな》

(今はしばらく黙ってて)


 今はハルの茶化すような言葉が邪魔だったので、しばらく黙っているようにと言ってスズとの話に戻る。


「じゃ、じゃあ。私は何であの人と会うことになったんでしょうか」

「それは……多分だけど、梓って魔法が効かない?」

「そうハルが言ってましたけど」


 それを聞いて驚くよりも、どちらかというとあきれたような、さらに言うとご愁傷様のような顔をしてスズが言った。


「あのね、今この国には一つの犯罪集団がいるのよ。たぶん今の政治に賛同できない連中の集まりなんだけどね」


 なんとなく次に言うことがわかったけれど信じたくないので口にしない梓。


「その集団の特徴として『魔法が効かない』っていうのがあるの……」


 気まずい沈黙。気まずすぎる沈黙であった。

 二人とも足を止めてしまう。その場所はちょうど昨日通った商店街の道。その道を行く人たちが動かない二人を迷惑そうに見ては去っていく。


「多分、あの人は梓がそれに関係していると思ったんだと思うの。最近手を焼いているって聞いていたからなんとしても梓から仲間のことを聞き出したかったんだとも思うよ。何も言わなかったらそのまま死刑になってたのかも」

「つ、つまり……」


 冷や汗とわかる汗が流れるのを感じつつ梓が確認する。


「昨日、スズさんがいなかったら、今頃私は……その、死んでいた?」


 無言で首を縦に振り首肯するスズ。気絶しなかった自分を褒め称えたいと思った。


「でも、あの人にも感謝しないといけないね」

「誰のことですか?」

「梓と一緒に帝に会ってた人。朱旺っていうんだけどね」


 朱旺という人物の名前を聞いても誰かは分からない。そう返すとスズは帝と一緒に会っていた人だと教えてくれた。

 隊長さんのことか、と言うと。そうそう、と返事が来る。突っ立っていると邪魔だから歩こう、と手を引かれる。そのスズの手にはいつの間にかお菓子の入った紙袋が。


「食べる?」

「いえ、それよりも何で感謝?」

「あの人、黙っててくれてたの。梓に魔法が効かないってことをね」

「そうだったんですか」

「で、食べる?」


 一度断ったお菓子をもう一度勧められる。今度は礼を言って受け取りおいしくいただいた。


(今度あの隊長に会ったらお礼が言いたいなあ)

《いつ会えるんだ?》

(うーん……)


 実は隊長も帝側の、つまり梓の見方ではない人物かと疑っていたので、避けていたがまさかそんな風に扱われていたとは思ってもいなかった梓はもう一度、隊長に会えないかと考えた。

 隊長、朱旺に今までのお礼を言いたいと思ったのだが、いかんせん彼の居場所はおそらく帝がいたあそこであろう。梓にとっては近寄りたくない場所である。


「スズさん。その朱旺さんともう一度会うことってできませんか?」


 前を歩くスズが足を止めた。場所は商店街の端っこに向かっているせいか人はいないので迷惑になることはなかった。


「会いたいの?」

「まあ、お礼を言いたいなと思いまして」

「ちょっと難しいかもね」


 仕事場、つまりは皇居以外では朱旺とは会ったことがないとスズは言った。

 自宅の場所も知っているらしいが、休みの日以外は夜遅くならないと帰ってこないし、朝早くに出て行くらしい。下手をすると仕事場で寝泊りするらしく、家にいないことのほうが多いらしい。

 そして、その仕事場は皇居であり、そう簡単に入れない場所である。


「会えそうにないですね」

「でしょ?」


 そこで話を終わらせてスズはまた歩き出した。目的地はそう遠くないらしい。

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