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だって役立たずだから

「マジか。本気であんたが神様なのか」

《そうそう》

「私、もう神様なんて信じないよ」


 もともと宗教などには欠片も興味が無かったわけだが、声の主が神様という状況に陥ったことにより梓の中での神様のランクがガンガン暴落していく。

 地面に手をつけて落ち込みたかったがなぜだかそうすると立ち上がる気力がなくなりそうなので立ったままでいる梓。


「じゃあ、名前は何ていうの?」


 このまま神様と呼ぶのもいやだったので梓は気分を変えるつもりで相手に尋ねた。


《なんでそんなこと聞くんだ? 神様って呼べばいいじゃないか》

「そうですかへっぽこ神様。」

《……》

「どうしたの、ダメ神様」

《すいません。やっぱり名乗らせてください》


 巻き込まれた腹いせとして神様の前にいろいろつけていた梓の言葉に耐えられなくなったのか、相手が謝ってきた。

 土下座をしているような感じの半泣き声だ。下手したらすでに泣いているかもしれない勢いだったので、かわいそうだと思った梓はそれじゃあ名乗れと促した。


《俺の名前はハルだ》

「聞いたこともない」


 胸を張るような(ついさっきまで半泣きだったよな、というのは梓の心の声)声音の神、ハルだったが、梓の切り返しに泣き出してしまった。宥めるとあっさりと泣き止む。


(神ってのはこんなにも扱いづらいものなのか……)

《俺が扱いにくいわけねーだろ。これでも仲間内で一番扱いやすいって言われてたんだぞ》

「それは単にパシりに使われていただけじゃないのか?」


 あまりにも役立たずな感じしかしてこない発言に、梓は再び地面に手をつきたくなるような気分に襲われ、それを気力でねじ伏せてなんとか立った姿勢を維持する。このまま途方に暮れたままでもいいのだろうがそれではここで死んでしまいかねない。

 なにせここは今も火が燃えている、いかにも戦場でした感がある場所だ。落武者や性格のねじ曲がった兵士に出くわすなどもっての他。


《いや、落武者ってどうだろう》

「うるさい。こういうとき、小説とかだと必ず何か出てくるんだよ」


 本当ならそんなこともないだろうが、梓の状況がすでに小説や漫画になっていてもおかしくない状況である。


「少しでもその確率を下げたい私がどう行動しようと勝手でしょ」


 だが残念。ここについてすぐに移動を始めたら梓はうまい具合に他の人と会わずにすんだかもしれない。


『    』

「うぇぇ?」


 我ながらおかしな声をあげたと思いながら振り向いたそこには鎧を来た人が数人、梓に剣を向けていた。



◆◇◆◇◆◇◆


 隊長は、指揮をする。いつも通りのそれにいつも通りの行動をする部下たち。彼らがここに来た目的は殲滅だが今の目的は目の前の少女の捕縛である。当然できることも限られてくる。


「拘束!!」

「はっ!! 『水宿し精霊よ、我に力を、拘束』」


 少女に向かって水球が飛んでいく。魔法による拘束はそれなりに強固で、双方にとって安全な方法である。それは少女にあたり、少女の手足を拘束する。


「なっ、なんだと!?」


 はずだった。しかし、予想に反して水球は少女にある程度近づいたところで消滅した。他の部下や、隊長自身が魔法を打ち込んでみても結果は同じ。

 思わず少女から目を離し、部下たちが隊長を見る。なにやら思うところがあるようだ。


「隊長。これは……」

「ああ、《仮面》のやつらと同じ現象だな」


 最近この国を騒がせている集団。顔はわからず民族的な仮面を顔につけ、それぞれが圧倒的な魔力を持ち、主に国が所有、管理をしているところで騒ぎを起こしている。おそらくここ最近の(まつりごと)への反発なのだろうが、ただの反乱分子というわけでもない。

 ただ魔力が大きいだけなら相手の魔法がどれ程大きなものでも防ぎ、反撃し、とらえればいい。だがしかし、やつらに魔法を放ってもそれらはすべて、今目の前で起きたようにかき消されてしまう。

 彼らがここへ来たのも、ここの部族が仮面と関係があるのではないかと言う話があったからだ。

 目の前の少女は仮面をつけてはいないものの、魔法をかき消して見せた。この部族のものではないであろうが、関係があるかもしれないとなると、なんとしても捕まえ、帝の前に連れていかないといけない。


「ならば、力づくで!!」


 隊長の合図により少女の方を向いた彼らの目の前に少女の姿は無かった。


◆◇◆◇◆◇◆


 梓は走っていた。それはもう、全力で。全力で走るのはいつ以来だと思うのと同時に、どうしてもっと体を鍛えておかなかったのかと後悔していた。

 物陰に隠れてしばし休憩。


《何で逃げてんだよ》

「当たり前。あんた、いきなり魔法をぶっぱなしてくる連中にほいほい近寄れる?」

《無理》

「でしょ。それに言葉もわからなかったし」


 予想通り兵士が現れたのは(よくないけど)よしとしよう。でもその後、いきなり魔法を放ってきた。目の前で消えなかったらどういうことになっていただろうか。

 おまけに梓を呼び止めた言葉も魔法を放った後に話していた言葉も梓には理解できないものだった。つまり、敵意はないという意思疎通を行うことも、無理。

 梓は音がしたから振り向いただけなのだ。あんな得体の知れない人間には近寄らない方が吉というものである。


「どう考えてもハッピーエンドが見えないじゃん」

《いやでも、このまま逃げ続けても先にあるのはバッドエンドだろうが》

(本当にこの(自称)神様はうっざいなあ。というかこいつのせいで梓はこんな目にあっているのは間違いじゃないはずだ。少しくらい役に立ってくれたっていいだろうに)


 梓の心の声を聞いたハルが、それを聞いて文句を言った。何でも俺は思ったことを言っているだけでうざくはないと。


《俺役に立つよー。何でも質問してー》

「よくさあ、あるじゃん。異世界召喚系のに。こう、言葉は神の力で以下略ってやつ」

《うんうん。》

「あれってできないの?」

《ああそれ?》

「うん、それ」

《無理》

「……やっぱ使えないね、あんた」


 大げさにため息をつく梓。梓のことが見えているわけではないが雰囲気でわかったらしいハルは梓に説明を始める。


《いーか。お前は俺のことを使えない使えないって言ってるけどな、仕方ないんだよ》

「ほう、どう仕方ないと?」

《俺がもともといたのはお前と同じ世界(ところ)だ。当然こちらの言葉はわからん。わからんものは訳すこともできない。おわかり?》


 そう言われると、納得してしまう。確かに梓は外国語として英語を勉強しているが急にドイツ語を話せと言われても困る。しきりに頷いていると、ハルはさらに話を続けた。


《それに、魔法はなぜか使えないが他のやつにはできない芸当がお前にはできるぞ》

「なに?」

《さっきわかったんだがな。どうやら一定範囲に進入してきた魔法は強制的に消し去ることができるみたいだ。》

「つまり?」

《お前の腕っ節にもよるけど、相手が近接戦闘だめだめな魔術師に対しては最強。それこそチート級だな。あと、魔法しか届かないような超長距離戦もだな。こっちからもなにもできんが》


 そう言ってハルはからからと笑う。本人は元気付けるためのつもりだったのだろう。だが反対に落ち込む梓。その能力はこの状況を打破するのには全く使えないからだ。実際にその能力のせいで話が少しばかりややこしくなっていることは梓は知らないのだけど。

 おまけに梓の強さなど、一般の女子高生よりも弱いくらいだ。腕立てなんて五回ぐらいしか連続でできない。

 とりあえず戻るわけにもいかないのでさっきの兵士どもがいたであろう方向とは逆方向に歩き出す。


《あと、もう一つ。俺の神としての能力があるんだけどな。そいつ、なんでかよくわかんねーけどうまく使えないんだよ。使おうと思っても力をうまく制御できない》


 あまりにも残酷な追い討ちだった。


《なんか落ち込んだみたいだけど大丈夫か?》

「あまりの使えなさに絶望したんだよ。」

《うわ、ひどっ。それ(無効化)のおかげでさっきは助かったというのに》

「あーあーありがとうございますー」

《……超棒読みだな》


 実際そうだろう。急に異世界に連れてきたあげく、帰る方法があるけど難しいです。自力での解決はほぼ間違いなく無理とか、どう感謝しろと、と思う梓。そうするとハルのすすり泣くような声が聞こえてくる。読心術があるのをすっかり忘れていた。


「本当にやってらんない」


 泣きたいのはこっちだっつーのという言葉はハルにも聞こえていなかったようだった。


◆◇◆◇◆◇◆


「さっきは動揺しましたけど彼女は本当に《仮面》の仲間なんでしょうかね」


 ぽつりと言ったのは始めに少女に拘束魔法を放った部下だ。どうやら彼はそれを口にしたことを自覚していなかったらしく、他の部下に言われて気づく。


「すいません。変なことを言って」


 隊長の視線に気づいてあわてて頭を下げる部下に隊長はそう思った理由を言うように促す。気まずそうにしていたが部下はやがて話し始めた。


「それでは。まず彼女はこの国の人間ではないと思われます。理由としてはあの服装と言葉です。

 見た目は確かにこの国の人間に近かったですが、こちらではあんな丈の短いものをはく人間はなかなかいません。というより皆無です」


 あんな丈の、というのは梓の制服のスカートのことで、この国の人間(女性)は 基本的に足が見えないほど長い丈のものをはいている。


「言葉は聞いての通りですね。

 《仮面》の仲間ではないと思ったのもこれが理由なんですけど、やつらとはちゃんと会話できるんですよ」


 どうやらこの部下は一度仮面の連中と会ったことがあるらしい。だからこその言葉なのだろう。

 一応は理にかなっている部下の言葉はそこで終わりを迎える。自分でいってみたもののいまいちな推論だと思っているのか顔はどこか不安げだ。


「では西の国(あちら)の者か」

「それもわかりません。自分は向こうの言葉は全くわかりませんので」


 隊長の言葉に部下が反応する。ここには他にももう二人の部下がいるがその二人もなにも言わない。一人は捜索魔法を行使しているのだが、もう一人は何か思うところでもあるのだろうか。何も言わないが、顔をしかめている。


「隊長、見つけました」


 その報告を受けて隊長は彼女への再接近を図るべく指示を出した。

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