やっと辿り着いた大地で
西橋の町は港町なせいか、梓たちがいた首都とはまた違う雰囲気があった。髪の色が違う人、服も梓たちのような洋服を着ている人もいる。歴史の授業にあった文明開化の頃のような雰囲気があった。その頃と違うのは差別がないように感じられることだろうか。
スズはいつの間にか姿を消していた風姫と話して、梓の分の乗船券を受け取っていた。
「そういえば風姫さんはどこへ行っていたんですか?」
《主様の所へ、報告に行っておりました。私は風ですので、一番速いんですわ》
さらに風姫は天候に問題はないので船は明日の朝に出航すると教えてくれた。しかし一晩、宿に泊まるお金がない。この日の晩も野宿をすることが決定した。
船は魔法によって動くのだそうだ。次の昼、出航した船の上でスズがそう教えてくれた。
見た目は帆船なのだが風の魔法を使って望む方向に進ませることができ、またスピードも普通の船よりも断然速いため、三日もあれば西の国に到着すると教えてもらった。
予想以上の速さに驚きつつも変わっていく景色や、元の世界ではよほどの場所に行かないと見れなくなった満天の星空に感動した。揺れもほとんど感じなくて夜は寒くもなくゆっくりと眠ることができた。スズによれば魔法を使って船内の温度を調整しているとのことだ。改めて魔法はすごいと思わされた。
「んー。久々の地上!!」
スズはうれしそうに西の国の大地でジャンプをした。
「今頃向こうのやつら悔しがってるよ。ざまあみろって感じだよ」
帝たちのことだろう。スズはさらにうれしそうに笑った。
西は東と雰囲気が全く違った。港からすぐのところに西の首都があるのだそうだ。高層ビルに車、近代的な設備がそろっていた。
東は文化を大事にし、西は進歩を重視した結果だそうだ。どちらも大事なことだろうが梓には西の雰囲気の方が自分のいた世界に近い雰囲気だったため、東にいたときよりも気持ちは落ち着いていた。
迎えが来ているはずだと言ってスズは周囲を見渡した。しばらくして迎えを見つけたのか、スズはうれしそうにそちらへ向かってかけていく。
出迎えた人物は黒いコートを羽織、真っ白い髪をしたとてつもなく目立つ人物だった。肌も白く、前髪の奥に見えた瞳は銀色と言えばいいのだろうか、白ではないが灰色にしては輝いて見える色をしていた。
「はじめまして。ワタシはローヴェイジャック・ノワール・イリオミエイジといいます。どうぞジャックと呼んで下さい」
真っ黒で真っ白なジャックはそう言って礼をした。梓も自己紹介をしつつ礼を返す。
そしてジャックはすぐに向きを変えて歩き出した。結構早い。
「さっさと戻って、アリスに会ってもらわないといけませんから人目の少ないところまで行ったら一気に転移します。まあ、ワタシが歩きたくないというのもありますが、アナタがたもそれでいいでしょう?」
疑問系でありながら決定事項であるような口ぶりに二人は何も言わずについていく。
梓はさながら田舎から出てきた人みたいにあたりをきょろきょろと見ている。ときどき何かに感動するような声を出している。
「そういえば、飛行機とかってないんですか?」
「飛行機とかはね、うーん。作れないんだよね」
「作れない?」
「うん。動力は魔力、魔法で、車くらいの重量ならまだ動かせるけど、飛行機となると鉄の塊、大人数、長距離になるでしょ? さすがにそれを動かすのは無理なんだよ。複数人で魔法を発動してもいいんだけどそうすると魔法が安定しないし」
最後の安定しないというのはハルが同意した。なんでも
《神の力を合わせて何かをするときは力の相性よりも力の出力のバランスの方が大事》
なのだそうだ。雷雨なんかがその典型らしく、雷ばかりなる雨や雷がほとんど見えないということが起こるらしい。
《しかし、ここはこの間までいた国と全く違うな。普通、文明の進歩ってのは程度の差はあれどあんなにも大きな差は生まれないはずなんだけど》
「それはアチラさんが拒否をしたからだよ」
「へえ……ってハルの声が聞こえてるんですか!?」
ハルの何気ない呟きに答えたジャックに驚きを隠せない梓。逆にジャックの方は聞こえることの何がおかしいのかという態度である。
スズが説明をすると、ジャックは納得したようなしてないような感じで頷いた。
「ワタシには聞こえる、ということでしょう? ならそれでいいじゃないですか」
《俺もそれでいいぞ。で、さっきの続きは?》
「ああ、こっちからアチラさんに物を持っていって勧めたら「我々の文化を愚弄する気か」と怒鳴られたそうですよ。その結果が今ですね」
ジャックはそう言った。
梓は便利なものはどんどん利用すればいいのにと思ったが世の中そう簡単にはいかないらしい。
しかし、自然と取り入れられた技術もあったらしく、船がその代表なんだそうだ。
東でも西でも漁業が盛んなところがあり、魔法で動く船は移動が安定するということで広く普及したらしい。船の形状にもよるがそこまで大きな魔法にはならないので、少し魔法が使えるくらいの人なら問題はないらしい。
「まあ、そんなところですね」
説明を終えてジャックは立ち止まった。すっかり人気がなくなった場所で三人は手を繋ぎ転移をした。
転移をした先にいたのはメイドさん。銀髪の、膝に届くほどのみつあみに、長いスカートをはいた彼女がここから先の案内をしてくれると言ってジャックは去っていった。
そしてスズと一緒に案内されたのは青空に太陽が輝く南の島のような場所にあった、石でができている広場だった。
影のところに座る場所が用意されていて、お茶とお菓子もあった。
「お嬢様を呼んで参りますので少々お待ちください」
そう言ってメイドさんはどこかへ行ってしまった。




