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ちょっとだけ種明かし

 鬱憤を晴らす相手が決定したといっても、帝はスズに対してぶつけたい物だってある。

 異変に気づいてやってきた兵士たちにスズへの攻撃を命じた。捕獲優先で確実に捕らえろとのことであった。相手はまだ成人もしていない娘二人であるが手加減はするな、といわれれば取り合えず本気で攻撃をすることにする。

 まずは魔法で牽制。土を高密度で圧縮したものを高速で打ち込みつつ目くらましの霧を広げながら近づいていこうとする。

 連携をとりつつ、スズたちの正面をキープするのと周囲を囲む組に分かれて行動する。

 魔法はときどき土だけでなく、炎や水の玉を織り交ぜる。一般の魔法使いの張る結界は二つの属性に対してのみ有効であることが多いため、三以上の属性の魔法を放てば相手のミスを誘えるからだ。

 そして、それは確かに効果を示していた。

 霧を広げた魔法使いが霧を介してスズたちの状況を見る限り、二人はただひたすら避けるのに必死らしい。そして、二人のうち一人が体勢を崩したのか地面に転がったと聞いたところで一気に畳み掛けるように指示し、その指示にあわせて三人がいっせいに霧の中へと突っ込んでいった。


◆◇◆◇◆◇◆


「やばい」


 そう言いきったのはスズだった。この状態はよくないー。と言って飛んできた石のようなものをぎりぎりのところでかわす。梓もいっぱいいっぱいであるが狙いどころが致命傷になるようなところではなく足元を狙っているため死ぬようなことはないということからか、少しだけ余裕がある。

 ドッジボールの理論で行けばこれ以上ない嫌がらせでもあるが、二人は幸いと避け続けようとする。


「何がやばいんですか?」

「あたしの能力って、っとと。相手のことを認識しないとだめなんだよ。魔法消すこともできるけど、それは術者を認識してないとまず無理だし、っと」

《うあ、使えねー》

「もともと使えないお前が言うなっての」


 見えないと無理、らしい。他にも条件はあるらしいが、とりあえず霧が邪魔とのこと。残念なことに梓にも霧を晴らす方法はない。

 風姫は先ほどから見当たらないので彼女に頼むこともできない。


「さっき、帝は生け捕りって言ってましたけど」

「てことはこの後、突っ込んでくるかも。あたし肉弾戦の方は才能ないって太鼓判押されてるんだよ? 五年ほどかけてようやく護身術としてぎりぎり使えるレベルってとこまできたくらいだよ?」

「あたしは護身術の護の字すらマスターできてませ……」


 そこまで言って梓はあることをひらめいた。向こうから突っ込んでくるのなら好都合である。

 今の自分にならおそらく可能なこの方法をスズに伝えると心配そうな顔をしながら大丈夫かと問われたが、そこはスズのフォローを期待すると言ったら笑われた。変なことを言ったつもりはなかったので首をかしげた。


「どのくらい時間を稼ぐ?」

「三十秒もいりません。その間上手く集中できれば……」

《終わったら俺が合図してやるよ。自分だけじゃいつ終わったのかもわかんねーだろ?》

「ありがと」


 そう言って梓は目を閉じた。ハルの完了の合図をスズに伝えて、スズが地面に転がるまで十秒ほど。そしてそこに兵士たちが突っ込んできた。

 腕の骨や肋骨を折るつもりでの攻撃だったのだろう。鞘から抜かれていない剣が梓のわき腹に強烈な衝撃を与えた。

 しかし、梓は倒れない。逆にその鞘をつかみ、スズに合図をした。


「『動くな』」


 スズを確保しようとしていた二人、梓に襲い掛かった一人がそれによって動きを封じられる。

 三人ははっきり言って何をされたか分からないだろう。確実に動けなくするために、動けなくなった相手に、ただ立っていただけの相手に攻撃しようとしただけなのに、だ。そんな三人を無視してスズと梓は霧の中で会話をする。

 仲間を気遣ってなのか魔法による攻撃はやんでいて霧だけが広がっている。とりあえず霧を出ようということで歩く。


「それすごいねー。どうやってるの?」

「ハルの力です。布に限りますけど、衣服にも使えるんで」

《単純に防御力を強化しただけだけどな。おまえ衝撃軽減入れ忘れてさっきすごい痛かっただろうが》

「ただ、一度やってしまうとその布には二度とできないそうですよ。ハルがそう言ってました」

《無視か》

「便利だけど不便だね。それはあたしも一緒かな……」


 さっきのことを思い出してか、スズがそう言ったが梓は全くそうは思わない。どう考えてもスズの力は便利である。

 そう言っていると霧から出ることができた。霧が広範囲だったと言うよりは遠い方の端に出てしまったようである。そして、目指していた出口からも離れてしまったようだ。外にいた兵士は仲間が出てこなかったことに驚いたもののすぐさま魔法で牽制をする。

 だがそれはスズにとっては全く意味を成さない。


「『主の下へ帰れ』」


 魔法が消滅ではなく反射し、魔法を放った本人に帰る。

 それでもひるまず、魔法が放たれるが同じように反射させられる。打撃系は梓の体を張った防御で防がれてしまう。しかし、兵士は帝の命令である以上逆らうことができない。

 いつの間にか霧が消えていたので梓とスズは逃げるようにして移動を始めた。

 しかし、その前になお立ちはだかる人。帝の息子が現れた。

 その顔は怒りに醜くゆがんでおり、後ろにはスズが眠らせてきたはずの親衛隊までいる。どうやら効果が切れたらしい。後ろに帝。前にその息子。完全にはさまれてしまった。

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