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手加減はしてくれるそうです

 二日ぶりに会えた二人はうれしそうに抱き合った。

 それを許せない帝はスズに怒鳴りつける。息子はどうしたのかと。貴様もいくら西の特使といえど罪人として裁かねばならないと、そう言って周りの兵士に捕らえるように命じる。


「無駄ですよ。『あたしたちに攻撃するな』」


 スズがそう言っただけでスズたちに飛び掛ろうとした兵士たちがそこから動けなくなった。後退はできるが前進はできない。否、一定の距離からは近づけない。更には魔法もかき消されてしまう。

 帝は驚いたもののすぐさま思考を切り替える。

 なぜなら、スズは今魔法を消して見せた。消す。その行為はまさに《仮面》と同じ。

 西の特使も《仮面》の一員だと宣言し、捕まえるように再び兵士に命令した。

 帝の宣言と命令をスズはあきれた顔をして聞いていた。どうやら《仮面》と勘違いされたらしい。スズの力はそれとは全く違う。スズの力は魔法ではないし、魔法に作用するものでもない。


「馬鹿らしいですね。『帝以外は全員寝てしまえ』」


 その一言でこの周辺にいた兵士、女中がばたばたと眠ってしまう。

 慌てたのは帝であった。《仮面》の仲間であろうスズたちが目の前にいて、自身を守る兵士はみな役立たずの状態になっている。

 スズに《仮面》なのかと問えば否定を返された。そんなことも分からないのか、という目で見られている気がした。馬鹿にされているような気分だった。


「ならば、貴様は何者だ!!」

「はじめに、初めて会ったときから名乗っていると思いますよ。あたしはスズ・レイゾイール。西の大企業レイゾイールに厄介になっている者ですよ」


 スズはすました顔でそう言った。


「《仮面》なんかと一緒にしないでください。あたしは梓と一緒に帰ります。邪魔はしないでください」


 しないでください、とは言っているが帝一人ではたいしたことはできない。スズの行く手をさえぎるものはない。

 梓はスズたちが何を言っているのか分からなかったが手を引っ張られたのでスズについていこうとする。周りにいる屈強な兵士たちを触れることなく倒したスズが怖くないわけではなかったが、なんとなく、スズは自分にはそんなことをしないと思えたから、スズについていく。

 そう思った矢先、スズたちの移動を妨げるようにして、スズたちを囲むようにして十ほどの人影が現れた。全員が黒い服で身を包み、仮面をつけている。無言で威嚇する彼らに、スズは足を止めた。


「《仮面》の方々でいいですか? 最近、噂になってる」


 スズの問いに無言で武器を構える相手。

 スズの力を魔法だと思い、対策できていると思ったから現れたのだろうか。だとしたら全くの見当違いである。

 おろおろする梓に大丈夫と言ってスズは相手に向き直った。

 面倒そうな感じがにじみ出ている雰囲気に仮面の一人が襲い掛かった。


「『砕けろ』」


 何を、とは言わなかったが嫌な音がして襲い掛かってきたやつが倒れた。足がありえない方向に曲がっていることから足の骨が折れたのだと推測できる。

 仲間はそれにひるんだ。


「あんまり人に使うのは好きではありませんから、自発的に答えてくれるとうれしいんですがね。あなたたちは《仮面》の方々ですか? そしてその目的は?」


 スズの言葉に相手は互いに互いを伺い、そしてスズの正面にいた一人がそれに答えた。

 自分たちは《仮面》であると。


「目的はそこの娘だ」

「梓?」


 梓は自分を指差され驚いた。雰囲気からして自分に用があるのだろう。しかし彼らに狙われる理由が分からない。

 それに何を言ってるのかも分からない。


「言葉、分かるようにならないかなあ……」

《可能ですわ。その石にそのような機能をつけて差し上げましょう》


 風姫によると、梓が聞き取れる範囲ではすべて梓の知っている言語になるらしい。さらには梓の聞き取れる範囲では梓の発した声が相手にあわせた言語になって相手に届くとのこと。仕組みがよく分からない。

 なんにせよこれで話が分かる、と思って相手の言うことに耳を傾けてみれば変な単語が聞こえた。


「今、巫女様とかって、言った?」

《俺にもそう聞こえた》

「誰が?」

「梓のことだよ」


 スズによる説明。

 神に愛された人物という意味がこもっているらしい。

 魔法が効かない人物のこと。

 この国が腐敗してきたときに現れる救世主。


「いやいや、それはないでしょう。確かに魔法は効きませんが、その話とはまた違うと思います」

「だよねー。あたしもそう思う。とりあえず違うってことを伝えれば? 風姫のおかげで言葉、通じるようになったんだよね」

「はあ……」


 スズはため息をついた。梓はスズの前に出て違うということを伝えている。

 自分はこの世界の人間じゃないからとか、国を救うと言ってもやり方がわからないとか、そもそもこの国に長居する気がないとかを必死に伝えた。

 すべて間違って伝わった。

 この世界の人間ではないというのは神の世界に住んでいる人間ということに。国を救うやり方がわからないというのは神から指示を受けていないだけと。国に長居する気がないというのは早く次のところに行かないといけないからという風にだ。

 なんというポジティブシンキング。

 話がかみ合っているようでかみ合っていない。


「だから私はこの国に長居する気がなくてですね」

「大丈夫です。あなた様がいればこの国の再建などあっという間です。すぐに次のところへ救済に迎えます!!」

「スズさん。きりがないですよお」


 スズはやれやれといった風に前髪をかきあげた。

 顔にはわかりやすくあいつら邪魔と書かれていた。なので梓は黙ってスズの後ろに回った。


「梓の言うことちゃんと聞いてます?」

「なんだい、君は」

「まあ、いいです。単刀直入に聞きます。あたしが梓をつれて海を渡ることには反対ですか?」


 当たり前だと言わんばかりに全員が再び武器を構えた。


「巫女様を連れて行くのは許さん」

「だったらどうします?」

「魔法使いには絶対に負けん!!」


 それはこれまでの話から知っている。魔法は効かないのだ。

 だが、彼らは勘違いしている。

 スズの力が魔法ならば先ほど攻撃してきた人は足の骨が折れるわけがない。信じられなかったのか、信じたくないのか。どちらかは知らないが彼らはいっせいにスズに襲い掛かった。


「『動くな』」


 跳んで襲い掛かろうとしたものは空中で停止させられた。

 地上を走っていたものはその姿勢のまま固定された。


「残念でしたね。勘違いをしていたみたいだから言っておきます。あたしの力は魔法じゃありませんよ」


 そのまま梓を連れて動き出すスズ。この一連の出来事に帝は何もできずにいた。

 それが悔しかったが、スズの一言でその悔しさをぶつける相手が決定する。


「そうそう、ここにいる連中はあなたが憎いと思っていた《仮面》の方だそうです。今の会話から梓が無実だと分かりましたよね? あとはあなたが彼らを好きにしてください。兵士たちはそろそろ目覚めますよ」

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