第7話:我が神生に悔いなし!
――――――――――そして数十年後。
「ヤバかった……」
「震えるほどヤバかったですわね……」
ユウキさんは英雄になりました。
いや、英雄なんて生温いですね。
レジェンドオブレジェンドというか、神話を作った現人神というか、世界の運命を転換させた救世の大傑物というか。
『エコラント』の恐怖の象徴であった魔王を撃ち滅ぼしたのを手始めに、農業革命によって飢えをなくし、世界の無血統一に成功。
国境がなくなったことで商業が爆発的に活性化し、また徹底した公衆衛生手法の導入で死亡率が激減しました。
聖奇跡帝ユウキ一世統治下で『エコラント』の人口は倍に、経済規模は一〇倍にもなりました。
「私、ユウキさんが英雄なんてと思ってたけど」
「うん、ボクも煽っといてなんだけど、まさかね」
「でも子犬を助けるために身を投げだせる人なの」
ユウキさんはいつから、『アース』よりずっと生活水準の低い『エコラント』を救おうと考えていたんだろう?
結果的に私の引いた大量のガチャ加護が後押しした格好になった……。
「聞いた? 『エコラント』の歴史書の半分はあの子の業績で埋まるんだって」
「うん。ユウキさんはすごいわ」
「イリアも相当すごいよ」
そうなのです。
ユウキさんを見出し、かなりの私費を投じてかつてないほどの英傑を育てたということで、神界での私の評価や知名度もうなぎ上りなのです。
お給料もうなぎ上りで、私自身が『奇跡を掴んだ女神』と呼ばれているとかいないとか。
「ユウキさんが謙虚で、女神様のおかげだって持ち上げてくれるせいもあるでしょう?」
「マジでいい子。超大当たり引いたよね。マグレだけど」
「本当にユウキさんに会えてよかったわ」
「人材発掘のコツをボクが聞かれるんだよ。わかるわけないじゃん」
「私だってわからないわよ」
「でもイリアは当人なんだからさ。もうちょっと外で対応して欲しいよ」
ネオンには苦労をかけますね。
私引きこもりでごめんなさい。
「これはと思った人物を信じることだ、それで外れても悔やまないことだ、と話してあるよ」
「あっ、格好いい! さすがネオン!」
「ただの運です、って突き放すよりはいいよね」
得意げに尻尾を揺らすネオン。
何となく可愛いで選んじゃった転生者がコケると処罰食らいそうだから必死でガチャで支えた、なんて真実は吹聴する必要がないのです。
『フィーフィーフィー』
「連絡来たよ」
「……ええ」
ユウキさんも最近はすっかり身体が衰えてしまっています。
……おそらくこうして話をするのも最後の機会になるのではないでしょうか?
『……女神様、お久しぶりです』
「はい、ユウキさんこそお達者で」
『ハハッ、女神様はいつまでもお美しいですね』
ユウキさんこそいつまでもイケメンでお肌プルプルですよ。
死が迫っているなんてとても信じられないです。
『こうして女神様と話すのも最後になるでしょう』
「……はい」
『素敵な人生でした。全て女神様に出会えたおかげです。ありがとうございました』
「いえ、そんな……」
涙を見せちゃいけない。
ぐっと堪えます。
『……そろそろ時間ですね。女神イリスの名を胸に秘めて逝くことになるでしょう』
ぶーっ! 名前違ってる!
私はイリアですよイリア!
でもこんないい場面で間違いを指摘できるほど、私は神経が図太くないっ!
「時間です。ユウキさんに祝福あれ!」
通信が切れた。
ネオンがゲラゲラ笑い転げています。
「最後にやってくれる! あれ『ジョーク』の加護のせいかな? それとも素なの?」
「どうだろう?」
やはり冗談なんでしょうね。
そう思いたい。
最後まで楽しませてもらいました。
ユウキさんに心から感謝です。
「ユウキさんみたいな子には二度と会えないでしょうね」
「何度も会えたらお給料がすごいことになっちゃうよ」
「ありがた過ぎちゃうわ」
アハハと笑い合います。
随分ガチャに張り込みました。
でもユウキさんは期待に応えてくれました。
何と素晴らしいことでしょう!
ユウキさんの命の灯火は消えようとしています。
あのオドオドしていた少年が不世出の英雄になるまでを、私は見つめてきたのです。
とても悲しいことですが、泣くのは違うと思います。
何故なら、ガチャに捧げた我が神生に悔いはないから!
サ終で悔いなしって思えるといいですね(笑)。