第4話:セオリー無視で冒険者
『女神様、聞こえますか?』
「はい、聞こえます。ユウキさん、どうされましたか?」
翌日の朝に『Gアクセス』でユウキさんから連絡が来ました。
モニターを見る限り集落の内部にいますね。
まずは安全な場所で安心しました。
おそらくは宿屋でしょう。
『昨日はありがとうございました。無事町に到着し、薬草はすぐお金になりました。それで……』
「早急な金策が必要なのですね? 冒険者ギルドに登録してください」
『冒険者ギルド?』
「はい。ギルドに登録すると依頼を請けることができます。依頼を完遂すれば賃金を得られます」
『わかりました! ありがとうございます!』
「時間切れです。ユウキさんの前途に幸運がありますよう!」
通信が切れました。
一分という制限は結構きついです。
早口が鍛えられそうな気がしますね。
目を細め、頷きながらネオンが言います。
「ここまでは予想の範囲内だな」
「そうね。次からはどんな要望が出るかわからないわ」
「可愛い子ちゃんの行動をチェックしていれば予想できるんじゃないか?」
「あっ、ネオンすごーい!」
「大げさだな」
ネオンの尻尾がひょこひょこ動いています。
澄ましていますが嬉しいんですね。
素直じゃないんですから。
「早速ユウキさんをチェックしましょう」
「道を聞いてるようだ。ギルドに行くんだろうな」
真っ直ぐ冒険者ギルドに到着しました。
うん、問題ありません。
しかしネオンが不安げに言います。
「ねえ、あの子何歳なの?」
「一〇歳よ。どうして?」
「冒険者ギルドって何歳から登録できるんだっけ?」
さあっと血の気が引きます。
急いで検索!
「だ、大丈夫。本登録は一二歳からだけど、見習い登録は一〇歳からできるわ!」
「ラッキーだね」
よ、よかった。
ユウキさんをサポートしなければいけないのに、確認が足りなかったです。
ギルドに登録できることはとりあえずオーケー。
でも見習い期間中は、一人で町の外に出る依頼は請けられないのです。
掃除やお使いなどの小遣い稼ぎ程度で、当座をしのぐことになります。
「あの子『エコラント』では身寄りのない孤児でしょ? このままだと将来ロクな職に就けないと思うよ」
「そうねえ。どうしましょう?」
「転生者は元の世界の知識でチートするか、あるいは加護に頼って冒険者として成功するか、どちらかのパターンがセオリーじゃないか。というか転生者って、そういう活動で転生先の世界へ恩恵を与えることを期待されてるんでしょ?」
「……」
「どうして元の世界の知識を十分に持つと思えない一〇歳の子をわざわざ召喚して、戦闘系加護のない状態で放り出すのよ? おかしくない?」
「だ、だってユウキさんみたいな美少年が目に入っちゃったんだもの。つい……」
処置なし、みたいに首を振るネオン。
「わかった。過去のことは置いとくとして未来に目を向けようじゃないか」
「うん」
「最悪なのは貴重な転生枠を使って面白半分に無為の人材を送り込んだと、イリアが告発されることだよ」
「こ、告発?」
そんな可能性あるの?
怖い!
「今の状態だと、訴えられた時反論できるだけの材料がない」
「ね、ネオンったら、脅すなんてひどいわ」
「イリアは引きこもりだから社会情勢を知らないんだよ。神界だって公務員の仕事ぶりには厳しい目が向けられているんだから」
「こ、困るわ!」
「ボクだって困るよ。イリアが職を失ったらおまんまの食い上げだもの」
私とネオンは一蓮托生なのでした。
ではどうするのが正解でしょう?
「とりあえずイリアは一生懸命仕事をしてますアピールが必要。最高なのはあの子が社会的に成功して、誰にも文句を言わせない業績を上げること」
「私だってユウキさんに成功してもらいたいわ。となると追加の加護ね?」
「それしかない。自腹を切ってまで加護付けてるなら、少なくとも仕事に対して不真面目だとは言われないでしょ、きっと」
「お金が貯まったら加護ガチャね。ごめんね、貧弱な食生活になっちゃいそうだけど」
「冒険者でやっていける、戦闘系か魔法系か身体強化系かの加護が出るまではしょうがないね」
「冒険者に拘らなくても、技術職系の加護でいいでしょう? 元の世界『アース』の知識と関連させやすいし」
「あ、そうじゃん。何だ、ハードル下がったな。ギルド本登録ができる二年後までに、一つその手の加護を引ければいいんだから」
……確かに戦闘系魔法系身体強化系技術職系の加護のどれかということでしたら、確率は非常に高いです。
三分の二はそうした加護ですから。
でもネオンがよろしくないフラグを立てたような気がします。
いえいえ、気のせい気のせい。
ユウキさんの生活を見守らなくては……。