第1話:女神、美少年を拾う
全8話のリメイク作です。
よろしければどうぞ。
私がオフィスに呼び寄せた少年は、何が何だかわからないといった顔です。
そうでしょうそうでしょう。
今から説明いたしますからね。
「私は転生を司る女神イリアです。以後、お見知りおきを」
「はい」
私は緩みそうになる顔を目一杯取り繕って、目の前の不安げな少年に話しかけました。
「サトウユウキさん。あなたはトラックにはねられ、命を落としてしまいました」
「やはり……こ、心当たりがあります」
悲しそうに目を伏せる少年、なんて可愛いのでしょう!
ニマニマしてはいけない。
遊びの場面じゃないんですから。
気を引き締めつつも優しく伝えます。
「でもユウキさんが救った子犬は無事でしたよ」
「そうですか!」
顔をほころばせる少年。
そうです、ユウキさんは道に飛び出した子犬を助けようとして事故に遭ったのです。
ベタと言うなかれ。
ユウキさんのように勇気ある行動を取れる者が、現実問題としてどれほどいることでしょう。
「その自己犠牲の精神に敬意を表して、ユウキさんを異世界に転生させることを決定いたしました!」
「異世界……転生ですか?」
意味がよくおわかりでないようです。
当然かもしれません。
私の女神としてのお仕事なのですよ。
「はい。要するに今までユウキさんの生活していた『アース』と呼ばれる世界から、別の世界に生き返らせるということです」
「あの、今までの世界に生き返ることはできないのですか?」
「申し訳ありません。それは神々のルールに抵触するので不可能なのです」
「ルールなのですか。では仕方ないですね……」
美少年の寂しそうな顔!
これだけで御飯三杯いけます、御馳走様です!
……転生のシステムは、繁栄している世界から衰退しつつある世界にという大原則があります。
衰退しつつある世界を梃入れして神々への信仰心を高める。
というより、信仰の母数である人間の数を増やしたいがためです。
同じ世界に生き返らせては意味がありません。
繁栄している世界の技術や経験則を転生者によって衰退している世界に持ち込んでもらい、発展を促すという目論見があるものですから。
そういう意味では、優秀な技術者みたいな人を送り込んだ方がいいのです。
ぶっちゃけ自己犠牲の精神なんて全然関係なくて。
ただし、トラック事故のせいでたまたま美少年が目に入ったというのは事実です。
ユウキさんのような可愛くてけなげな子を失うのは大損失ですよね?
「転生先の世界は、『アース』に比べると文明は遅れています。大雑把に言いますと中世~近世といったところです。不便な生活を強いられることになりますが、その代わり大きな特典があります」
「特典ですか?」
転生以外の選択肢はないんですかの質問を封殺する、自画自賛のファインプレーです。
実はそのまま死後の世界へという選択だってあります。
でもせっかく私好みの可愛い子を見つけたのです。
もう少し楽しみたいじゃありませんか。
「特典とはすなわち加護です。加護という名の特別な能力や技術を、二つは自分の選択で、一つはガチャと呼ばれる偶然任せで得ることができます」
「特別な能力や技術……」
「はい。一つ目の加護には『自動翻訳』を選ぶ方が多いですね。知的存在の言葉を解釈できるというもので、最初から転生先世界でのどの国の人ともコミュニケーションを取るのに不自由しません。どうしますか?」
「その前に、転送先がどういう世界なのか教えていただけますか?」
おっと、ごもっとも。
どういう世界か知らなくて加護を決めることなんてできませんよね。
極端な話、知的生命体のいない世界で『自動翻訳』の加護なんて無意味ですから。
私が先走り過ぎていたようです。
「よくお気付きになりました。ユウキさんは大変頭がよくていらっしゃいますね」
「いえ……」
はあああん!
モジモジするところもお可愛らしいわ!
「ユウキさんの転生先の世界『エコラント』は、気候・植生など概ね『アース』の亜熱帯~亜寒帯地域と似通っています。最も異なるところは魔物がかなり一般的な存在であり、それに対抗する手段として魔法や武技等が発達しているところです」
「魔物? 魔法? 魔物と普通の動物はどう違いますか?」
「魔物は邪気を吸った動植物や霊体、鉱物などで、人類に対して敵対的な行動を取るものの総称です。倒すと『経験値』と呼ばれる一種の成長要素を得ることができます」
「あっ、わかります! ゲームにあるようなレベルアップ方式ですね?」
「その通りです。経験値が一定以上になりますと『レベル』と呼ばれる位階が上昇し、各種能力値の向上が見込めます」
さすが今どきの子です。
理解が早いですね。