お前の好みなのか
「クラウスー」
父親への連絡を終え、部屋で一息入れたところにニヤニヤした顔をしたギルベルトがやってきた。
「ギルベルト…なんだその顔は…」
どうせ誰かからアメリアの話を聞きつけて来たのだろう。予想はついたが面倒臭い。
ただでさえ意図もわからぬ見合いをすることになって疲れているというのに。
ギルベルトは迷惑そうな顔をするクラウスを気にすることもなく、ずかずかと部屋の中まで入り込み、椅子に座ると「飲もうぜ!」と上機嫌で持ってきた酒瓶を掲げてみせた。
「なんか可愛い彼女が来ていたそうじゃないか!」
酒を口に付けるとすぐにギルベルトは勢いよく話し始めた。
俺も会いたかった!というギルベルトを
「彼女なわけないだろ…」と睨みつける。
「切なそうにお前を見詰める彼女の肩を抱いて、今にも口付けするのではないかという雰囲気だったと聞いたぞ」
「はあ!?嘘だろ!?誰がそんなことを!!」
「そう。嘘」
ギルベルトは、にーっと笑って
「でも噂は尾ビレも背ビレも付いていくものだからね」
今頃そんな話になっているかもしれないぞ、と嘯く。
疲れが倍増した。
「まさかお前がそんな話を広めたわけではないだろうな」
「いやまだしてない」
「まだって何だよ!」
「だから話を聞きに来たんじゃないか。誰なんだその彼女は」
早く話せ。とギルベルトは急かす。
ギルベルトに話したら間違いなくすぐに広まる。
しかし話さなければギルベルトは好き勝手に噂を広めるつもりだ。
クラウスは眉を寄せながら無言で酒を飲んだ。
「彼女は見合い相手だ」
「見合い?いつ見合いなんかしたんだ?」
クラウスは話してさっさと追い出すのが最良かとしぶしぶ口を開いた。
「いやまだしていない今度見合いをすることになった」
「ん?何で見合いの前に会いに来たんだ??」
「見合いの申し出を断ったら一度でも会って欲しいと…」
「お前!!それは彼女がお前に惚れて見合いを申し入れたということか!」
「そんなわけないだろ!」
「何でそんなわけないんだ?断られた見合いをしたいがためにわざわざこんなところまでご令嬢が足を運んだのだろう?お前に惚れている以外ないのではないか?」
言い返したクラウスにギルベルトが不思議そうに首を捻る。
確かにそれだけ聞けばそう思うのも無理はないかもしれない。
しかし…
「彼女は俺の鱗も見ているのだぞ。鱗のある男に惚れる女がどこにいる」
「だからそこにいたということだろう?」
はあ…
クラウスは溜息をひとつ。
「俺の鱗を見て彼女は恐怖で動けなくなっていた。そんなわけはない」
そうなのか?と納得できない表情をギルベルトはしている。
「だけど見合いすることになったんだよな。彼女の希望で」
「そうなんだ。わけがわからない」
なぜ彼女はそんなに見合いをしたがっているのだろう。いくら考えてもその理由が全く思い浮かばない。
「まあ理由は見合いをしたらわかるかもしれんな」
ギルベルトは気軽にそう言い
「それでお前とどうしても見合いをしたがっている彼女というのはどういう娘なんだ?可愛い娘だったと聞いたんだがお前の好みなのか?」
うるさいギルベルトの襟首を掴むとクラウスは無言で部屋から放り出した。