新しい家族
昨日帰って来たばかりで忙しないけれど、休暇を終えたクラウスは王城へと向かった。
アメリアはクラウスを見送ると家の中を一巡りしてみる。
婚姻の披露を行なった日にこの新居に入り、しかしゆっくりする間もなくオルデンベルクの領地巡りに出掛けてしまったため、住み始めて初めて家の中を眺める。
半年以上前からアメリアが手配をした新居の中は、改めて見るまでもなく隅々まで知っているのだが、クラウスと住み始めてから見ると、これからの新しい生活がしみじみと実感出来た。
新鮮な気分でアメリアは飼育部屋に入る。
ハナトケゲとツノイグアナは食事中だ。それぞれ果物と好物の葉っぱを喰んでいる。
二匹を眺めながらアメリアは顔を綻ばせ、そして昨晩のクラウスを思い出した。
拗ねたような表情は、結婚してから時々クラウスが見せるようになった顔だ。
その顔を昨晩クラウスはアメリアに向けた。
アメリアを寝台に誘ったクラウスは、袋を手にしていた。
クラウスは寝台に乗ると服を脱いだ。
なんだか様子のおかしいクラウスに、アメリアは瞬いた。
服を脱いだクラウスは袋を開け、そして自らの身体の上に袋の中身ーー鱗を撒いたのだ。
無造作に袋に詰められていた鱗を身体の上に乗せ、思い詰めたような顔をする夫にアメリアは戸惑った。
しかし同時に鮮やかに輝く鱗に見惚れた。
クラウスの身体に乗った鱗を見詰めるアメリアに、クラウスはおずおずと切り出す。
「剥がれ落ちてしまったがその…アメリアは鱗を触りたかったのではないか?
アメリアはそれを認めてしまって良いものか一瞬悩んだものの「少しだけ…」と困ったように伝えた。
クラウスは溜息を吐きつつアメリアの手を引いた。
「こんなことなら鱗が落ちる前に触らせてやればよかったな…」
アメリアの手を鱗の上へと導く。
アメリアの手がクラウスに乗った鱗の一つに触れた。
それを見ながらクラウスが身体の上の鱗を並べていく。
アメリアはクラウスが並べる鱗をそおっと撫でてみた。
ゴツゴツした感触はしかし味わおうと力を入れると鱗を振り落としてしまうので、そっと手を添えるくらいしか味わえない。
だからそおっと。クラウスが並べてくれた鱗を払いのけないように鱗に手のひらを乗せる。
撫でることは出来ないけれど、鱗の感触を堪能するように手のひらを押し付ける。
鱗の下のクラウスの身体は硬く引き締まっていて、オルヒやリーリエのような弾力感はない。
剥がれ落ちてしまった鱗は、肌にあった時とはおそらく違うだろう。
けれども手に触れたいと思っていたものに触れることが出来たことは、それでも嬉しく、そして剥がれていても尚クラウスの鱗は美しかった。
しばらく鱗を触ることに夢中でいたアメリアだったが、クラウスが拗ねたように自分を見ていることに気付いた。
もしかして…
クラウス様は、オルヒとリーリエにヤキモチを焼かれたのかしら?
少しだけ不思議に感じていたクラウスの行動も、そう考えたらなんだかおかしくて堪らなくなった。
アメリアは笑みを深めながらクラウスの鱗を摘み上げた。
鱗の裏と表を眺めながらそれを傍らの袋に入れる。
そして次の鱗を手にして袋に入れ、残りの鱗も一つずつ丁寧に袋へと戻した。
こんなにたくさんの鱗がクラウス様の身体にはあったのね。
もっときちんとした容れ物に鱗を入れる必要があると考えながら、アメリアは感慨深く鱗を拾い集めた。
クラウスが手伝おうとするのを制して、最後の一つまで自分の手で袋に入れた。
鱗を仕舞い終えるとアメリアはクラウスを抱きしめた。
ぎゅーっと抱きしめて、オルヒやリーリエにするように撫で回す。
頭を撫でてやりながら様子を伺うとクラウスがアメリアを見詰めていた。それにアメリアも微笑みを返す。
クラウスは新しいアメリアの家族になったのだ。アメリアはそれを幸福に感じた。
第2部完
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます。
この先はカーテンコール的に2、3話投稿予定です。




