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穏やかな日々の始まり

クラウスとアメリアは、無事に婚姻を結んだ。


本来二人の婚姻を披露するだけの場であったはずのものは、クラウスの解呪の披露に加え、あの噂の真相ーークラウスがアメリアとの婚約を破棄してヘルミーナに求婚したという噂の真相は、人体の研究者であるヘルミーナが呪いの解けたクラウスの身体の状態を確認しているのを誤解されただけであったーーをも披露する場となった。


アメリアと絶対に結婚するつもりでいたクラウスではあったが、他者の妨害が入るなどとは想定外もいいところで、婚姻の当日まで不安を拭うことが出来なかった。


そのため婚姻披露を終えたと同時に、クラウスは安堵のあまりアメリアを抱きしめたまま動けなくなってしまった。

最初はおずおずと抱きしめ返したアメリアも、なかなか離そうとしないクラウスに困り果て、しかし涙は流さないながらも身体を震わせるクラウスに気づくと、宥めるように背中を撫でたのちに、そのままクラウスの気の済むまで身体を任せた。



オルデンベルクの領地でも広がっていた噂は、完全に静まった。しかし念のため二人で領地を回って仲睦まじい姿を見せて欲しいと侯爵からは頼まれた。


そんなわけで、クラウスとアメリアは婚姻を結ぶと直ぐに、予定よりも長い新婚旅行に出掛けることになったのだった。


クラウスの休みのほとんどは領地巡りに費やされた。

新居に帰って来たのはクラウスの長い休暇の最終日のこと。本当はもう何日か早く帰って来たかったのだが、噂に聞いた二人は領民にとっては物語の中の登場人物も同然で、行く先々で歓待され戻るのが遅くなってしまった。


新居に入ると直ぐに、アメリアはハナトカゲ(オルヒ)ツノイグアナ(リーリエ)の元へと行った。

新居の日当たりの良い部屋で気持ち良さそうにしているオルヒとリーリエを、アメリアは代わる代わる抱きしめる。

クラウスは苦笑して新妻を眺めた。


アメリアの嬉しそうな姿を眺めながらクラウスは幸せを噛み締める。

アメリアとの領地巡りは楽しかった。

アメリアがそばにいることが嬉しかった。


領民と触れ合う内、クラウスは幼い頃に戻ったような心地がした。

幼い頃に行ったことがある場所も、初めて訪れた場所もあった。だから幼い頃のことを思わせたのは場所だけが原因ではない。

呪われている間のクラウスは女性から恐れられることが多かったから、自然と女性を避け距離を保つように心がけていた。けれど呪いのない身は真っ直ぐに人と相対しても、怖がる視線は向けられないのだ。特に今は、人々から物語の中の人物に会ったかのような視線を送られることが多い。だから朗らかな対応を心がけている。

周りが恐れたからクラウスも盾を張った。しかし周りが喜びを向けるならばクラウスも笑みを返すことが出来る。

そんなクラウスと寄り添うアメリアを見て領民は、やはりあれはただの噂だったのだと実感し、またその話で騒ぐのであった。



クラウスはやっと訪れる穏やかな生活にホッと息を吐いた。

リーリエを撫で回すアメリアを見遣りながらオルヒを抱き上げる。手のひらにオルヒの鱗の硬さを感じた。

アメリアがオルヒを見遣ってからクラウスを見上げる。微笑むアメリアが眩しくてクラウスは目を細めた。


クラウスの妻となったアメリアは幸せそうに微笑む。

けれど時折、クラウスに切なげな目を向けることがある。

新妻に切ない顔を向けられるとなれば、それは甘やかな気持ちをもたらすものかもしれない。

けれどクラウスはそれを目にする度に苦しくなった。

なぜならアメリアがそんな顔をする時見ているのは、クラウスの右側であったから。


アメリアがリーリエを撫でる。

長い時間離れていたのだ。触れていたい気持ちはよく分かる。

クラウスもオルヒを撫でた。この手のひらに当たる鱗を、アメリアは愛しく感じているのだなと思う。


もしも自分に鱗がまだあったとしたら…

アメリアはそれを撫でたかっただろうか。

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