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場は整った

医療研究所インシュクーパーから採用通知が届いた。

これで予定通り進められる。

ヘルミーナは嬉しさよりもホッとした思いがした。


もしも医療研究所インシュクーパーの募集がなかったとしたら、こんな計画など立てずに国を出ることだけに注力しただろう。当然父親からの妨害はあるだろうが、永遠に妨害し続けることなど出来ない。そのうち出国は叶うはずだ。幼い頃とは違い、今はヘルミーナの支援者が各国にいる。父親に認められず縁を切られようとも何とかなる。何なら父親の企みに乗ってクラウスと婚約し、父親を油断させたところを逃げ出すのもいいかもしれない。むしろその方が逃げやすいだろう。


けれど医療研究所インシュクーパーに入所が叶うとなったからには、それを逃すことなど出来ない。

父親の妨害で入所出来ない、などという事態に陥るわけにはいかないのだ。


医療研究所インシュクーパーに入所出来るのは世界のトップの研究者として認められることに等しい。

だから採用されたことを公表すれば、王室はこの国からの優秀な研究者の出現を喜び、公爵といえども入所の妨害は出来なくなる。

つまり公表出来る場に出なければならない。そしてちょうどよく王太子の生誕祝いの夜会がある。ここで医療研究所インシュクーパーの入所を公表すれば、父親だとて、もうそれを隠すことは出来ない。


だがヘルミーナは夜会に招待されてはいない。参加するためには誰かのパートナーとして参加しなくてはならない。といっても、そんなことを頼める相手など父親しかいない。だからヘルミーナはクラインベック公爵に願った。クラウスと踊るために夜会に参加したいと。クラウスの婚約者のアメリアには自分が交渉すると。円満な新婚生活を送るためにそうさせて欲しいと。


そして無事に夜会の日を迎えた。



クラインベック公爵はクラウスがアメリアを伴い王太子に挨拶している様に冷たい目を向けた。

「まだ婚約者なのですから挨拶に伴うのは仕方がないでしょう」

ヘルミーナは父親を宥めた。


挨拶を終えた二人はフロアの中心に来ると踊り出す。

「最後ですもの。踊るくらいは認めましょう」

ヘルミーナは落ち着いて父親に笑みを向ける。


この夜会の場はクラインベック公爵にしても勝負の場だ。

噂がただの噂に過ぎないと思われるわけにはいかないのだ。ヘルミーナがいなければ適当にオルデンベルクを煽って、さもあちらがクラウスとヘルミーナとの真実の愛を妨害しているように見せかけることも出来ただろう。しかしヘルミーナを連れてきてしまった。下手に噂を否定するような態度を見せるくらいなら、接触せずに後で非難するような噂を追加する方が遥かにマシだ。


本当にヘルミーナを信じて連れてきてよかったのか。クラウスとアメリアのダンスを見ながら不安に駆られた公爵だったが、踊り終わったクラウスがこちらに近付いてくるのを見てホッと息を吐いた。


「クラインベック公爵令嬢、私と踊って頂けますか」

クラウスがヘルミーナをダンスに誘うのを公爵は満足気に眺めた。



ヘルミーナはそんな父親を目の端に捉えながらクラウスの手を取る。

踊りながら周りに目をやると全てが自分たちに注目しているのが分かる。

周りで踊る人々もこちらを注視していない者などいない。

踊る輪の中に、先ほどクラウスと踊っていたアメリアがオルデンベルク侯爵と踊っているのが見えた。

少しだけホッとする。夜会にはアドルフ=ケステンも来ていた。間違いなく父の差金だろう。しかしクラウスがそばを離れたアメリアのことは、きちんとオルデンベルク侯爵が守っているようだ。


場は整った。父親は油断している。予想通り注目の的に王太子も近付いてきてくれている。

ヘルミーナはクラウスに体調を尋ねた。

クラウスの返事を聞いてヘルミーナは頷く。

これで彼の身体の状態をヘルミーナが確認したといっても嘘にはならないだろう。


さて、ダンスが終わる。

王太子に近付くようにスピードをやや落とす。

クラウスはヘルミーナに合わせて足を運んでくれる。

だから見事に王太子の前でダンスを終えることが出来た。


ヘルミーナは再び王太子と言葉を交わし、そして最高の状態で医療研究所インシュクーパーの入所を公表した。

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