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アメリアの気持ち

呼び出しに応じていた侍女は、落とし物などしていないと伝えても話が通じず、なかなか離してくれなかったと憤慨して戻ってきた。

タイミングから考えてアドルフがアメリアに話しかける為に、侍女を引き離したのであろうことはアメリアにも分かった。

話を聞いて顔を青くした侍女を連れて、アメリアは家へと帰った。



家へ帰ったアメリアは、父親にティールームでのことを報告するために、執務室を訪ねた。

しかしアメリアが話をするより先に、クラウスがアメリアの外出中に伝えに来た話を教えられ、アドルフの話がやはり真実ではないことが分かった。

アメリアとの婚約を破棄して、クラインベック公爵令嬢のヘルミーナにクラウスが求婚したという噂は、どうやらクラインベック公爵が流しているものであるらしい。それは噂を真実にしたいという思惑があるとしか思えなかった。


アメリアはアドルフの話を真実だとは思わなかったが、何か勘違いするようなことがあったのだろうと考えていた。

アメリアは婚約破棄などされてはいないし、クラウスがアメリアと婚約したまま他の誰かに求婚することなどないと思ったからだ。

しかし勘違いするような何かがあったのではなく、何もないのに故意に噂が流されているという。しかも求婚を受けたとされる公爵家によって。


アメリアからティールームでの出来事を聞いて、子爵も眉を寄せた。

「ケステン伯爵はアメリアの婚姻の条件を聞いて、婚約の申し出を取り下げた家じゃないか」

アメリアは頷いた。

「昨年の夜会でお会いしましたが、その時も条件を取り下げるなら婚約を申し出ようと仰っておりました」

「昨年の夜会?王太子殿下の生誕祝いの時だね。どうしてケステン様とそんな話をしたんだい?」

訝しげに子爵が尋ねるので、アメリアは昨年の夜会でアドルフに会った時のことを話した。

「なるほど。アメリアはそれに対して、結婚の条件を受け入れてくれるクラウス様と婚約することを伝えたんだね」

「はい」

「…だとするとアメリアの婚約破棄の噂を聞いて、アメリアが結婚の条件を取り下げると思ったか、それとも向こうの状況が変わったのか…」

子爵は溜息を吐いてからアメリアを見た。

「クラウス様はちゃんとアメリアと結婚するおつもりでいる。だから噂は気にしなくて大丈夫だ」

現状を知らせに来たクラウスの真摯な様子を子爵は思い出し、そしてアメリアの様子を気遣わしげに伺う。

「私はクラウス様にならアメリアを任せられると思っている。

もちろん結婚まであと僅かというところまで来て、こちらから断ることなど出来ないが…。

アメリアは…どう思っている?」

アメリアが惹かれていた鱗がなくなったとしても、マイツェン子爵から見たクラウスはアメリアの良い結婚相手だ。アメリアの結婚の条件であるオルヒとリーリエを連れて嫁ぐことを許してくれてもいるし結婚を望まない理由がない。だから鱗がなくなったことをアメリアが残念に思っていたとしても結婚したくないとは思わないはずだ。子爵はそう考えていた。

しかし公爵家から横槍を入れられるようなことになろうとは想像もしていなかったため、子爵は少しだけ心配になった。

子爵の気遣わし気な視線を受け、アメリアはクラウスを思い浮かべた。

鱗を隠して過ごしていたクラウス。時々鱗を見せてくれたクラウス。鱗がなくなってしまったクラウス。


「私ももちろんクラウス様と結婚したいと思っています」


アメリアはクラウスの鱗を愛しく思っている。だからそれに手が届かなくなったことがとても悲しい。

今も悲しいし、きっとずっと悲しい。

だけど鱗がなくなってもクラウスは、アメリアと一緒にオルヒとリーリエを愛でてくれるだろう。

仮にアドルフが結婚の条件を受け入れたとしても、アメリアと一緒にオルヒとリーリエを愛でてくれるとは思えないし、アメリアもアドルフと一緒にオルヒとリーリエを愛でようとは思えない。


アメリアはクラウスと一緒にオルヒとリーリエを愛でることを楽しく思っている。

そしてこの先もオルヒとリーリエをクラウスと一緒に愛でたいと思う。だから…

アメリアはやっぱりクラウスと結婚がしたいと思った。


アメリアの言葉を聞いて、子爵はほっとしたように頷いた。

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