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ティールームで

アメリアは侍女を連れて街に出ていた。後ろには護衛も一人付いて来ている。

それほど危険な場所に行くつもりはないのに護衛が必要だろうかとアメリアは思っていたが、クラウスから周辺に注意するように言われているマイツェン子爵が、心配して連れて行くように言ったのだ。


クラウスは解呪の影響で忙しなく、アメリアに会いには来られないようである。家で一人過ごしていることに気を滅入らせていたアメリアは、街に出ることにした。

けれど赤い花を見ればクラウスの赤い鱗を思い出し、金のペンダントを見ればクラウスの金の目を思い出した。

寂しさを和らげる為に街に出たのに、恋しさを募らせてしまっていることに、アメリアは溜息を吐きたくなった。

アメリアは買い物をするのは諦めてティールームに入った。ゆったりと座ってお茶を飲むと、少しだけ気持ちが落ち着いた。お茶の温かさがアメリアの心を慰め、ケーキの甘さがアメリアの元気を呼び起こしてくれた。


「気晴らしにはなったわ。

帰ったらオルヒとリーリエをうんと可愛がって過ごしましょう」


少し元気を取り戻した様子のアメリアを見て、侍女がほっとしたように息を吐いた。

ティールームでは控えている場所がないため同席していた侍女は、安心したように自分もお茶を口にする。

カップを置いた時、侍女は給仕姿の女性が自分に視線を送っていることに気付いた。侍女が顔を向けると女性が近付いて来る。

「恐れ入ります。落とし物を拾われたという方があちらにいらっしゃいまして、お客様とお話ししたいと仰るのですが、少しだけお時間を頂けませんか」

「落とし物ですか?」

侍女は荷物を確認した。

「特に落としたものはありませんが…」

訝しそうに侍女は女性に尋ねたが、女性も伝えてくれているだけのようで困ったような顔をしている。

「とりあえずお話を聞かせてもらったら?」

アメリアが取りなすようにそう言うと、侍女は仕方なさそうに立ち上がった。

「では、ヴィルトを呼びます」

護衛のヴィルトは店の前で待っている。アメリアを一人にしないように気遣ってくれたことに有難さを感じながらも、アメリアはそれを断った。

「少しくらいなら一人でも大丈夫よ。話を聞いてすぐに戻ってくればいいわ」

「さようでございますか?…それではすぐに戻りますので」

侍女は迷った様子ではあったが、少しの時間だと納得したのか女性の案内を受けて席を離れた。


一人になったアメリアは残りのケーキの甘さを堪能する。甘さを堪能出来るくらいには気持ちを持ち直していた。

お茶を飲もうとカップに手が触れた時、アメリアは声を掛けられた。

「アメリア嬢ではないですか」

顔を上げたアメリアの前に、アドルフ=ケステンが立っていた。

アメリアはアドルフを見て瞬いた。挨拶の為に立ち上がろうとしたところでアドルフに止められる。

「ああ、こんなところで畏まらなくて大丈夫ですから」

そう言いながらアドルフはアメリアの前に座った。

「あの…?」

アメリアが戸惑ってアドルフを見た。

「こんなところでお会いするなんて運命的ですね」

そう微笑むアドルフにアメリアは怪訝な視線を向ける。

それに気付かぬわけがないだろう。しかしアドルフは気にもせずに話を続けた。

「アメリア嬢も大変でしょう。私はアメリア嬢のお力になりたいと思っているのです」

同情するような視線を送られて、アメリアは困惑を返した。

確かにアメリアはクラウスの呪いが解けてしまって気落ちしていたが、それはアドルフが何とか出来る事ではない。それに呪いが解けた事自体は喜ばしいことであることもアメリアは分かっていた。だから大変だと言われるようなことはないはずだ。

アメリアはさりげなく店内に目を向けたが、侍女はまだ戻らないようだ。

アドルフに力を借りるようなことなど特にないと伝えるために、アメリアは口を開こうとした。

しかしそれより前にアドルフが続けた。

「婚約破棄されたのでしょう?」

「…え?」

彷徨っていたアメリアの目が真っ直ぐアドルフに向いた。

「クラウス様はヘルミーナ=クラインベック公爵令嬢に求婚したと聞きました」

アドルフの言葉を心の中で繰り返す。


婚約破棄?

クラインベック公爵令嬢に求婚?


そしてクラウスの顔を心に浮かべた。

心の中のクラウスは右目を髪で隠していたけれど、左目を優しくアメリアに向けてくれている。

その眼差しをアメリアにくれるクラウスが、アドルフの言うようなことしたとは信じられなかった。


おそらくアドルフは何か勘違いをしている。

アメリアはアドルフの誤解を解くために口を開こうとしたが、アドルフはアメリアが話す隙を与えてはくれなかった。

「結婚前に鱗がなくなったことを幸いに、アメリア嬢との婚約を破棄して公爵令嬢に求婚するなど、ひどい男ではないですか。ですがアメリア嬢ご安心ください。あなたのことは私が幸せにします」

そう言ってアドルフがアメリアの手を取ろうとしたので、アメリアは慌てて手を引いて隠した。

アドルフはそれに苦笑を返した。

「それでは今度またご挨拶に伺いますね」

アドルフはそう言い残すと立ち上がった。言葉を返せずにいたアメリアは、アドルフの背中を呆然と見送った。

アメリアは困惑して考え込んだ。


クラウス様と婚約破棄?


クラウスの鱗がなくなってしまったことに落ち込んでいるアメリアではあったが、婚約を破棄するなどとは思いつきもしなかった。


鱗がなくなって婚約破棄する…


確かにアメリアはクラウスに鱗があったから見合いをしようと思った。

クラウスは鱗があったからアメリアと婚約したのだろうか。

鱗がなくなったクラウスはアメリアと結婚したいと思うのだろうか。


アメリアは初めてそれを考えた。

そして誰も座っていない前の椅子を見た。


…ケステン様は本当に勘違いされていたのかしら。


アメリアは一人でいることに急に寂しさを感じた。

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