王太子への報告
騎士団長への報告はあっさりとしたものだった。
『鱗があるかないかよりも騎士としての強さが重要だ』
騎士団長はクラウスが呪われた時にそう言った。
だからおそらく鱗がなくなった今も、それを重要なこととは思っていないのだろう。
但し王太子への報告が済むまでは、呪いが解けたことを周りには告げないよう指示された。だからクラウスは右目は髪で隠したまま、手袋はしたままである。
騎士団長へ渡したクラウスの鱗はそのまま王太子へと渡ることになり、クラウスは持ち場へと戻った。
王太子殿下はどのように仰るだろうか。
クラウスはいつも通りの顔でそれを考えたが、おそらく王太子も騎士団長とそれほど違った反応はしないのではないかと思っていた。
そもそもクラウスが呪われたのは、王太子の外交に随行している際にドラゴンに遭遇したことによる。
たまたまドラゴンの命を奪ったのがクラウスの剣であっただけではあるが、王太子はそれを見ていたからこそ疑うことなく呪われていることを理解した。もっとも討伐の瞬間を見ていなかったとしても、そこにドラゴンの死体があり、鱗を宿した身体があれば信じるしかなかったであろうが。
鱗のあるクラウスを王太子は外交のカードの一つとして扱っていたが、呪われた身でも多少の役割があった方が過ごしやすいだろうという配慮からだと、クラウスは感じている。
そのカードも多少は役に立っているのだろうが、なくてはならないというほどのものではないはずだ。もしも欠かせない程のカードであれば、むしろ国王が利用していることだろう。王太子の采配の範囲で利用されているのは、その程度のものだと考えられているからこそだ。
王太子からはしばらくそのまま内密にするようにという指示だけがあった。
忙しい身では、クラウスとすぐに面会する時間を取るのが難しいのだろう。
しかし内密にするようにということは、解呪を先に自分で確認したいからだろう。
クラウスはそれまでと変わらぬ装いで数日を過ごした。
それから5日後、ようやくクラウスは王太子の御前で解呪の報告をすることが叶った。
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クラウスは、騎士団の視察に訪れた王太子と騎士団長室で顔を合わせた。
王太子はクラウスの袖を捲った右腕を見て、「確かに鱗がないな」と驚くでもなく言った。
既に呪いが解けたことは5日も前に報告している。それを目にしたとて、ただの確認である。部屋に入る前に前髪を上げているため、いつもは隠されている右目も今はしっかりと見えていた。
「この鱗はまだあるのか?」
王太子は事前に渡していたクラウスの鱗を手に取った。
「はい、献上致しましょうか」
「いや必要ない。これだけで十分だ」
王太子は軽く笑って、「本物のドラゴンの鱗が既に一匹分あるからな」と続けた。
クラウスが倒したドラゴンの鱗のことである。
王太子はクラウスを見る。
「鱗がなくなろうともドラゴンスレイヤーであることに変わりはない。だがそれとは分かりづらくはなったな」
王太子は少し考えるように口を閉じた。そしてクラウスの鱗を持ち上げて続けた。
「残りの鱗でブローチでも仕立てて正装するときに胸に付けろ。勲章の横に飾るようなものがいいな」
王太子はそう言うと少しだけ視線を下げる。
「流石に呪いが解けたことを下賜する理由にするのは難しいだろう。仕立てさせて悪いが残りの鱗を献上する必要はないからドラゴンスレイヤーらしいものを用意してくれ」
「かしこまりました」
「来月の私の生誕祝いの夜会で、解呪を祝う言葉を贈ろう。だから急がせてすまないが、それまでに仕立てて必ず顔を出せ」
「御意」
王太子が騎士団長に顔を向けた。
「こちらは解呪を明らかにしても問題ない。騎士団ではどうだ?」
「特に問題ございません」
王太子は頷くとクラウスに向き直る。
「私からの公式な解呪の祝いは夜会で行うが、それ以外にこちらからは何もしない。解呪の発表をどのようにするかはオルデンベルク男爵の好きにして構わない」
「かしこまりました」
クラウスは頭を下げると御前から下がった。




