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新居の準備

クラウスがその家を手に入れられたのは、運に恵まれたからと言っていいだろう。

某伯爵家が手放したタウンハウスは、王城からも程よい場所に位置しており、クラウスとアメリアが二人で暮らすには十分な広さだ。

オルデンベルク侯爵の口添えもあり、婚約直後にその家を譲り受けることが出来たクラウスは、アメリアに内装を任せていた。

アメリアは母ディアナと壁紙やカーテン、カーペットなど、どのような品にすべきかを相談し、義母となるソフィアに教えを乞いながら手配した。

そうしてようやく内装が整ったので、確認のためにアメリアはソフィアと共に新居となる家を訪れた。


新居は簡素でありながらも品のある仕上がりで、アメリアの手配でありながらクラウスらしさも感じた。

その仕上がりを嬉しそうに見回すアメリアを見て、ソフィアも安堵した。しかし家具を入れればまた雰囲気が変わるとはいえ、この家は華やかさが足りないのではないか。ソフィアは心配になってアメリアに尋ねた。

「アメリアさんはこのような簡素な家で良いのかしら。あなたの私室だけでももう少し華やかにした方が良いのではない?」

しかしアメリアは首を振る。

「いいえ、これで十分です。とても満足しています」

アメリアがそう答えるので、ソフィアもそれ以上何も言わなかった。

侯爵夫人であるソフィアと子爵家で育ったアメリアでは家に対する価値観が少し異なる。

アメリアは家には汎用性を求めていた。そしてアメリアのその価値観は侯爵家の生まれとはいえ、男爵であるクラウスにはむしろ適したものであろう。


ソフィアとアメリアは順番に部屋を見て回りながら、手配すべき家具について検討する。

クラウスの寮にある家具は、騎士寮に備えられているものだ。

けれどオルデンベルク侯爵のタウンハウスにはクラウスの私室もあるので、そちらから移動させる予定の家具もある。

またアメリアもマイツェン子爵家から持ってくる予定の家具がある。

それらの確認と、新しく必要となる家具の確認。もちろんクラウスにも相談しなければならないが、ひとまずはソフィアと候補を検討する。

それが終われば生活に必要なものを手配するのだが、そちらは新たにオルデンベルク男爵家の使用人となる者が決まってから任せる予定だ。


アメリアとソフィアは順調に確認作業を進め、そして日当たりの良い1階の部屋にやってきた。

そこは以前の持ち主が居間として使っていた部屋であったが、今は他の部屋以上に簡素である。

暖かく過ごしやすそうな部屋ではあるが、居間となる予定の部屋は既に確認を終えているし、客間という雰囲気でもない。

ソフィアは首を傾げてアメリアに聞いた。

「こちらは何のお部屋になるのかしら?」

「こちらは私のペットの飼育部屋です」

アメリアが満面の笑みで答えた。日差しが部屋の奥まで入る様子に満足してニコニコとしている。

「あら、アメリアさんはペットがいるの?」

上機嫌のアメリアはソフィアのその問いにするりと答えた。

「はい。ハナトカゲとツノイグアナが」

飼育部屋の家具などはマイツェン子爵家からそのまま持ち込む予定である。この部屋であればそのまま持ち込むことに問題はないと確認出来、うきうきとしていたアメリアは何も考えずに返答してしまったことにしばらくしてから気が付いた。

ソフィアが黙り込んでしまっていたからだ。


…!侯爵夫人はもしかしたらトカゲがお嫌いかしら!?


アメリアは心配になったが、しかし鱗のある息子を見慣れたソフィアは、トカゲを忌避したりはしていなかった。

ソフィアが黙り込んでしまったのは、やっと色々なことが理解出来たからだ。


アメリアさんはどうしてクラウスにお見合いの申し込みをしてくれたのかと不思議だったのだけれど……そういうことだったのね。


そして何やら最近必死な息子を思い出し、そしてソフィアを不安そうに伺うアメリアに目を遣る。


ソフィアはアメリアに微笑んだ。

「引っ越しが終わったら是非アメリアさんのペットを紹介してくださいね」

アメリアはそれを聞いて曇った顔を笑顔に変えた。

「はい。もちろんです!」


いずれにしても息子は自分にぴったりな相手に巡り会えたということだ。

ソフィアはもう一度その部屋を見渡して、そしてクリスタの顔を思い浮かべた。

庭で小さなトカゲを追いかけているクリスタは、アメリアのペットに会いたいかしら。

クリスタがアメリアのペットと遊ぶところを見れば、クリスタに怖がられるのを恐れて会おうとしないクラウスもクリスタに会う気になるかもしれない。


でもまずは私がアメリアさんのペットに一度会ってみてからね。


ソフィアは部屋の中を歩きながら何やら思案しているアメリアに目を遣り、口角を上げた。

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