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ダンスレッスン

アメリアは考えていた。

ツノイグアナ(リーリエ)を撫でるクラウスの右手の鱗が頭の中で煌めく。

あれに触れるにはどうしたら良いだろうか。


母からは結婚するまでみだりに触れてはいけないときつく言われている。

クラウスとは婚約しているのだから、いずれ結婚する。

…というか新居の準備も進んでいるし、結婚準備の進行次第ではあるが1年も待たず結婚するだろう。

だからその日を待つのが間違いなく正解である。

ではあるけれど…。


叶うならば今触れてみたい。

もしかしたら、さりげなく、致し方なく、否応なしに触れる方法があるのではないか…。


アメリアは考えた。

馬車の乗り降り、歩く時にもクラウスはエスコートしてくれる。

手袋越しではあるけれど手の平ならば触っているのだ。

それならばそのままクラウスの手を握って手の甲に触れてみることが出来るだろうか。


アメリアは自分の手を見詰めた。

「無理だわ…」

アメリアの手はクラウスの手よりも小さく、とても握り込んでクラウスの手の甲まで指が届くとは思えなかった。


アメリアは考えた。他にクラウスに触れる機会があるだろうか。


考えた末に、アメリアはクラウスをダンスのレッスンに誘うことにした。



 **



ダンスレッスンの為にマイツェン子爵邸へとやってきたクラウスは、騎士服に眼鏡姿であった。

アメリアは見慣れぬクラウスの姿に目を瞬かせながらも「クラウス様は眼鏡もお似合いですね」と微笑んだ。

そうしてクラウスの騎士服をさりげなく観察する。


クラウスはアメリアをしばらく見詰めていると、「ドレスがとても似合っているね」と目を細めた。

「ありがとうございます。クラウス様の見立てが良かったのです」

アメリアのドレスはクラウスから贈られたものだ。

アメリアはクラウスの差し出した手に自身の手を重ねながら言葉を返す。


やはり自分の手はクラウスの手に比べてとても小さい。

アメリアは重ねた手を見て改めてそう思う。

これではクラウスの手を握り込めるはずがない。

だからダンスならば、と思ったのだ。


だけど…。

アメリアがクラウスと踊ったのは二度。王太子殿下の御生誕祝いの夜会と婚約披露の時である。

アメリアの右手はクラウスの左手を握り、アメリアの左手はクラウスの右腕に添わす。

しかし触れたはずのクラウスの右腕に、鱗の感触があっただろうか…。アメリアは思い出そうとしてもそれを思い出すことが出来なかった。

服越しでは分からないのかもしれない。けれどもしかしたら、意識してみれば少しは感じるものがあるかもしれない。

そう思ったら確認せずにはいられなかった。

クラウスはアメリアの誘いに、嫌な顔をすることなく応じてくれた。




「今日はワルツ?」

クラウスの確認にアメリアは頷いた。

「はい。よろしくお願いします」

アメリアはクラウスと向かい合った。クラウスの左手がアメリアの右手を取る。

そしてクラウスの右手がアメリアの背に回る。

アメリアはクラウスの右腕に自身の左手を添わせた。


アメリアは自分の左手に意識を集中した。

しかしクラウスの右腕に軽く触れた手の平からは布の硬さしか伝わってこない。

アメリアは手の平の位置を変え、少しだけクラウスの腕に押し付けた。


少し硬い…かも?

なんとなく肌よりは硬い感触があるような気もするが、それはクラウスが騎士であり鍛えているためかもしれない。


アメリアはもう少しだけ指に力を込めた。

「…」

クラウスがアメリアの触れている自分の右腕に目を遣る。

「アメリア、この位置では組みづらいか?」

「…!」

そう問われてアメリアは弾かれたように左手を離した。

「い、いえ!あの…えっと…そうですね…そんなことは…あ、いえ…そうかもしれません」

あたふたとするアメリアに、「それでは組み易いところを探してみようか」とクラウスは促す。


アメリアは少しだけ申し訳なく思った。

しかしせっかくのクラウスの言葉にしっかりと甘えることにする。

控えめながらもアメリアはクラウスの右腕に手を這わせる。不自然ではない範囲で、さも組み良い位置を探しているように。


なかなかダンスを始めないアメリアの様子に、クラウスはアメリアの思いに気が付いただろうか。

そして重厚な騎士服の向こうにある鱗の感触がアメリアの手の平で感じられるだろうか。


二人はしばらくそのまま向かい合ったままであった。

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