アメリアの好みを探して
「…お前婚約したんだよな。何で今更アメリア嬢を落とそうと必死になってるんだ?」
ギルベルトがクラウスを見て不思議そうな顔をした。
クラウスがギルベルトから目を逸らす。
「…別にいいだろ。婚約者として好ましくあろうとするのはおかしいか?」
「いや…それは…まあ、確かに…。おかしくはない…」
ギルベルトは全く納得していない声色である。
クラウスは溜息を吐きそうになったが、それを呑み込んだ。
「それで女性の心を掴むのに俺には何が足りないと思う?」
ギルベルトに向き直ったクラウスは真剣な顔でそう尋ねた。
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アメリアにクラウス自身を好きになって欲しい。
クラウスはアメリアの好みのタイプに近付くべく、まずはそれを聞き出そうとした。しかしアメリアに好みと言えるようなものはないと判断せざるを得なかった。
とはいえ何の好みもないということもないだろう。実際の言動から推察しようと服飾師に相談して、色々と服を仕立てた。
けれどそれまでと雰囲気を変えた装いをしてみたところで、アメリアに特別の反応はない。好ましいということも、好ましくないということもなく、いつでも同じようにクラウスに接するのだ。
クラウスが装いを変えたことには気付いてくれる。けれどそれがアメリアにとってどうなのか。
だからクラウスは聞いてみた。
どのようなものが似合うか服飾師に相談して仕立ててもらっているのだが、どれが好みだろうか…と。
けれどアメリアからは「どれもお似合いですよ」とにこやかな微笑みが返ってくるばかり。
それぞれの装いの感想はくれるのだ。だから服自体に興味がないわけではない。
つまりアメリアは俺に興味が…いや、いや、いや、流石にそんなはずはない!
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「女の心を掴むならやはり贈り物がいいんじゃないか?」
「それは既にしている」
「…そうか」
アメリアに会いに行く時には花を、会えない時にも流行りの菓子を贈り、クラウスが新しく服を仕立てる時は同じ意匠をさりげなく施した小物をアメリアにも仕立てている。
話題に上った本があればアメリアの為に用意して、アメリアが喜んだお茶は手配して子爵家へと届ける。
お茶会の為に髪留めを贈り、ダンスのレッスンの為に新しいドレスも用意した。
「…それでアメリア嬢は?」
「とても喜んでくれてはいる」
「…そうか」
ギルベルトは目を泳がせて「円満で良いんじゃないか?」とクラウスの様子を伺う。
「そうなんだが…」
クラウスは浮かない顔で返す。
惚気話にしてはクラウスの表情が暗すぎる。
「贈り物以外だと…」
ギルベルトは思案した。
「服装は変えてみてもいまいちなんだよな…?うーん、じゃあ髪型を変えてみるか…それか眼鏡でもしてみるか?」
「髪型…は、右目を隠しながらでは限界があるのではないか?アメリアが喜んでも周りの女性に不快な思いをさせるのは出来れば避けたい。不快な気持ちがアメリアに向くことも…」
「…アメリア嬢はお前の右目が見えると喜ぶのか?」
「…!」
ギルベルトの提案に考え込みながら言葉を返していたクラウスは、そう問われて弾かれたように顔を上げた。
「あ…いや…それは…」
クラウスは、まさか自分の鱗と右目に嫉妬しているとは言いたくなくて言葉を濁したものの、結局のところギルベルトにそれを白状せざる終えなかった。
「なるほどねー」
クラウスから洗いざらい聞き出したギルベルトは、ようやく納得していつものにやにや笑いをクラウスに返した。
クラウスはそんなギルベルトを睨みながらも
「とりあえず眼鏡を作ることにする」と決めたようだ。
結局は、円満な惚気話じゃないか。
ギルベルトは内心で呆れてクラウスを眺めた。
好きな相手と婚約しているというのに何を暗い顔をしているのか。
如何に相手が鱗を好んでいたところで、政略結婚ではないのだ、不快な人物であれば婚約などしたりはしないだろう。
けどまあ、こいつの惚気話をつまみに出来る日が来たならそれは結構なことだ。
ギルベルトは眉を寄せているクラウスを見ながら、グラスに酒を注いだ。




