私と踊って頂けますか
「アメリア」
クラウスは、カーテシーを終え顔を上げたアメリアの名前を呼んだ。
アメリアが振り返る。
「クラウス様」
アメリアは綻んだ笑顔をクラウスに向けた。
クラウスはアメリアに笑いかける。
アメリアの向こうに立ち尽くす男を見遣る。
驚いたような顔をしていた男はクラウスと目が合うと唇を噛み締めて目を逸らした。
そしてそのまま黙って歩み去る。
クラウスがアメリアに手を差し出すとアメリアが手を重ねた。
「待たせて悪かったね」
言いながらクラウスはアメリアをバルコニーに誘った。
アメリアは後ろを振り返るとホッとしたような顔でクラウスに誘われるまま歩む。
広間にまた新しい曲が奏でられる。
後ろでは再び踊り出す人々が空気を揺らす。
クラウスとアメリアはゆっくりと広間を歩いていく。
バルコニーに出るとクラウスはアメリアを椅子に掛けさせた。
「踊っていて疲れただろう?」
優しくアメリアに笑いかけるとクラウスはアメリアの髪を撫でる。
「大丈夫です!あ…ごめんなさい…ケステン様にダンスの中に連れていかれてしまって…」
クラウスはケステン…と心の中で呟いた。
あれは最近代替わりした伯爵ではなかったな。とすると弟か?
「いや…気にしないで。それより私を婚約者と言ってくれて嬉しかったよ」
クラウスが顔を覗き込むとアメリアが慌てた。
「…!…私つい!…まだ正式な婚約者ではないのに。あ…ごめんなさい…」
クラウスはアメリアを見て微笑む。
ゆっくりとクラウスは後ろに一歩下がる。
そしてアメリアの前に跪いた。
「え…?」
アメリアがクラウスを見て瞬いた。
クラウスが真っ直ぐにアメリアを見詰める。
「アメリア嬢、なかなか言い出せなくて待たせてしまったけれど、私と婚約して欲しい」
「…!」
クラウスはしばらくアメリアを見詰めていた。そして
「まあ…既に手続きも進んでいるから今更こんなこと言うのも遅いとは思うのだけど」と苦笑した。
「いいえ。ありがとうございます。嬉しいです」
アメリアが嬉しそうに微笑むのを見て、クラウスは立ち上がるとアメリアの横に腰掛けた。
アメリアの手を取ると包み込むように握る。
「それでアメリア嬢の婚約の条件っていうのは何?」
「え?」
「さっき言っていただろう?条件を受け入れたって。私には条件を出された覚えがない」
「えっと…」
「何か条件があるのなら教えてくれないか?」
婚約の条件というものをクラウスが気付かぬままに受け入れていたのだとしたら構わない。
しかし二人の婚約はマイツェン子爵からの申し出で進んだものなので、条件を出すのを諦めたのかもしれない。
アメリアはあの男に条件を取り下げて婚約したと言いたくなかっただけかもしれない。
「あの…私の婚約の条件はオルヒとリーリエを連れて嫁ぐことです」
「…なるほど」
「ですけれど、もしもクラウス様が条件を受け入れてくれなかったとしても私はクラウス様に嫁ぎたいと思っておりました。ですからこれは私の希望で条件ではなくって…」
焦ったように言うアメリアの手をクラウスがゆっくりと撫でる。
「他には条件はある?私に出来ることなら叶えるよ」
優しく尋ねるクラウスにアメリアは首を振った。
「他に条件などありません!…あ…あの…ありがとうございます」
アメリアははにかんでクラウスを見詰めた。
クラウスはそんなアメリアを見詰め返す。
しばらく見詰め合う時間を楽しんだクラウスはゆっくりとアメリアの頬に唇を寄せると軽く口付けてから立ち上がった。
そして姿勢を正すとアメリアに手を差し出す。
「アメリア嬢、私と踊って頂けますか」
アメリアは笑顔でクラウスの手を取った。




