アメリアの声が聞こえた
濡れた髪を軽く拭ったクラウスは前髪を横に流して右目を隠した。
殿下への挨拶のためには見せる必要がある顔も、挨拶が終われば隠さねばならぬものに変わる。
油で後ろに流していた髪を軽く洗い、髪を整え直す。鏡で仕上がりを確認する。手を拭って手袋を填め直すとクラウスは部屋を出た。
アメリアは先ほどまでの姿の方が喜ぶのだろうな。
クラウスは待たせているアメリアのことを思った。
アメリアが自分を残念そうに見るのではないかと心が軋む。
クラウスは軽く頭を振る。
アメリアをあまり待たせてはいけないな。
クラウスは広間に向かっての歩みを早めた。
クラウスは広間に戻るとアメリアを探す。
アメリアと別れた場所には姿が見えなかった。
どこに行ったのだろうか。あそこで待っていた方が良いだろうか。
クラウスは広間を見渡した。
壁際の椅子に座る御婦人方の中にアメリアの姿はない。
軽食が用意された辺りにもアメリアは見当たらない。
クラウスは広間の中央へ目を向けた。
ダンスの輪の中にアメリアを見たような気がした。
アメリア?
人影の向こうを確認しようとクラウスが動いた。
曲は終わりに向けて盛り上がりをみせる頃。
次の曲に誘おうとする人々が中央付近に増えてきている。
クラウスは人影の間に目を凝らす。
アメリアの横顔が見えた。
クラウスはそちらに歩んでいく。
アメリアは踊っていた。
誰と?
クラウスがダンスの輪に近づく。
人の間にアメリアと踊る男の顔が見える。
男はアメリアに笑いかけている。
クラウスは足を早める。
曲が終わろうとしている。
急いでアメリアを捕まえたい。
曲が終わる前に辿り着かなくては。
人を押し除けそうになる気持ちを抑える。
気ばかりが急く。
アメリアから目を離したくない。
人の流れに苛立つ。
クラウスの前を人が横切る。
クラウスの耳が音楽の最後の音を聞く。
クラウスの目に男から離れるアメリアの姿が映る。
「私には私の条件を笑顔で受け入れてくれる素晴らしい婚約者がおります」
アメリアの声が聞こえた。




